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無印良品が人気商品・福缶に込める「ものづくり継承」への思い

長田英知(良品計画執行役員)

2022年10月26日 公開 2022年12月01日 更新

 

福缶の10年を俯瞰する展覧会を開催

昨年、福缶の取組は10周年を迎えました。この10年間で担当者が集めた郷土玩具のサンプルは実に1,500点にも及びます。

そこで10年という節目を機会に、各地域で制作を続けている郷土玩具の作家の方々との親交を改めて深めながら、郷土玩具を生み出す無為なものづくりが持つ豊かさについて、再考する場をつくりたいという思いから、無印良品銀座店の6FにあるAtelier MUJIにて「CREATIVE IMAGINATION」と題する展覧会を行いました。

本展覧会のタイトルに「IMAGINATION」という言葉が使われているのは、なぜ人々は郷土玩具を作り続け、後世に伝えていこうとするのか、作り続けられていることの背景について想像するという思いが込められているそうです。

郷土玩具は子供の遊具であるだけでなく、作物の豊かな実りや子どもたちの健やかな成長を祈願する意味合いが込められていたり、祖先崇拝や土地に残る信仰の対象をかたどるなど、日本の風土や暮らしの中から生まれた想いをかたちにする中で生まれてきたという文化的背景を有しています。

例えば高知県には、古く江戸時代から作られてきた鰹車という郷土玩具があります。鰹車の由来には諸説ありますが、その説の1つは、鯨の遠洋漁業で長い期間、家を不在にしている父親が船の上で折れた端材などを使って鰹の木彫りを作り、それに車をつけて子供が遊べるお土産にしたことが始まりだというものだそうです。

また、鯨車には鮮やかな装飾がほどこされていますが、これは捕鯨任務の区別や等級を表す実際の色柄模様が描かれており、そのようなことから鰹車は漁業のお守りとしても作られるようにもなったそうです。

郷土玩具が制作されてきたこうした背景を分かりやすく伝えるため、展覧会では23の郷土玩具を選び、その由来を説明する4コマ漫画を作成しました。2021年12月から2022年2月まで行われた本展覧会は好評を博し、2022年のグッドデザイン賞も受賞しています。

 

無印良品が取り組む郷土玩具の継承と学び

伝統工芸の継承は日本の地域文化にとっての大きな課題ですが、郷土玩具もまたその例外ではありません。無印良品は福缶の販売を通して、郷土玩具の一過性のブームを作るのではなく、作家の方々を継続的にサポートしていくための仕組みづくりを行っていきたいと考えています。

先ほどご紹介した10周年の展覧会でもその姿勢を明確に打ち出し、同時に開催したイベントでは作家間の横のつながりを作ることを大事にしました。

その結果、郷土玩具の制作をもう辞めて廃業しようと思っていた作家の方が、もう少し続けてみようというように思っていただいた例もあったそうです。

また郷土玩具に携わることは、単に伝統を守り、保全するということだけでなく、未来のものづくりの可能性やヒントを得ることにもつながっているようです。

郷土玩具は土、紙などといった身の回りの素材を使い、昔からある道具を使った手仕事であることから、時代と逆行したものづくりをしているように見えます。

しかしその制作過程を注意深く見てみると、実際には陶器でできた食器や生活雑貨等を工場で大量に生産する際の製造工程や注意点は驚くほど共通しており、現代のモノづくりに通底する価値があるといいます。

そして職人と一対一で話をする中、制作の過程で起きる不具合や、その不具合を解消するためにこういう型を使うといった話は、ふだんものづくりの現場と距離がある無印良品のデザイナーにとって、ものづくりとは何なのかということを再考するきっかけを与えてくれるといいます。

 

【著者紹介】長田英知(ながた・ひでとも)
東京大学法学部卒業。地方議員を経て、IBMビジネスコンサルティングサービス、PwC等で政府・自治体向けコンサルティングに従事。2016年、Airbnb Japanに入社。日本におけるホームシェア事業の立上げを担う。2022年4月、良品計画に入社。同年9月よりソーシャルグッド事業部担当執行役員に就任。社外役職として、グッドデザイン賞審査委員(2018~2021)、京都芸術大学客員教授(2019~)等。著書に『たいていのことは100日あれば、うまくいく』(PHP研究所)、『ワ―ケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」』(KADOKAWA)などがある。

 

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