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仕事

素質ある人材を見極める眼力を持て

藤本秀朗(ユニデンCEO)

2012年05月09日 公開 2022年11月10日 更新

「日本で開発、アジアで生産、欧米で販売」という「トライアングル体制」を初めて確立した企業として知られるユニデン。1966年の創業以来、一時期を除き40年超にわたって同社を率いる藤本秀朗氏は、現役トップの中でも経営の厳しさ・楽しさを知り尽くした長老的存在である。目下の課題は後継者の発掘。その藤本氏に、経営者を育てるにはどうすればよいか、そもそも育てることができるのか、自身の経験を交えて語ってもらった。<取材構成:加賀谷貢樹>

※本稿は、『PHP BusinessReview松下幸之助塾』2012年 5・6月号(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集してお届けする。

 

積極的に質問し素質をみる

若い社員たちが経営者の素質を持っているのかどうかを判断することはなかなかむずかしい。その点、松下幸之助さんには「君は運がいいと思うか?」とか「経済とは一言でいうと何か?」など、面接などで必ず尋ねる定番の質問があったという。私もさまざまな機会をとらえ、社員たちの感性を知るために、ごく身近な話題についてあれこれ質問をしている。

今、若手によく聞くのは、「芸能界でだれが一番好きか?」という質問である。AKB48や福山雅治など、いろいろな答えが返ってくるが、「どうして?」と理由を改めて問うことで、本人がどんな感性を持っているかが、かなり分かるのだ。「野球選手でだれが好きか?」と聞くこともあるし、もう少し突っ込んで「野球選手は皆メジャーリーグに行きたがるが、君はそういうことに対してどう思う?」と尋ねることもある。「それは分かりません、個人の夢ですから」という答えもあれば、「ぼくだったら、自分は日本人だから他国には行きません。日本のプロ野球を発展させるつもりでやります」という意見もあるが、そこで本人の価値観を大まかにうかがい知ることができる。

そして次に、もう少し質問のレベルを上げて、たとえば「今の政党でどこが一番いいと思う?  民主党なのか自民党なのか、それともみんなの党か?」と聞いてみる。社員が政党の名前を答えたら、そこで「なぜ?」と理由に切りこんでいく。政策的なことから所属の政治家の言動まで、さまざまな答えを出してくるが、このあたりになると、ほとんどの人がしどろもどろになってくる。教養の程度や知的要素といったものがここで分かってくるのだ。

あるいは、「アメリカ大統領選の共和党候補指名争いでだれが勝つと思うか?」という質問をぶつけてみてもよい。「ミット・ロムニーが勝つ」と答えたら「なぜ?」と聞き、うまく理由を答えられたら、今度は「ミット・ロムニーがもし負けるとすれば、どんな理由になると思う?」と質問する。ロムニー氏が(プロテスタント主流派ではない)モルモン教徒であることを指摘できたら、知識面ではある程度大丈夫ということになる。さらに「歴代のアメリカ大統領にモルモン教徒はいないし、ケネディ以外にカトリック教徒もいない」ということまで話ができれば、一般常識としては立派である。

 

1時間の会話を20回やる

社員に質問することで知力などはうかがい知ることができても、経営者に必要な胆力については、少々会話を交わしたり、外から本人の言動をみたりしている程度では分からない。そこで私は、社員に歌を歌わせてみることにしている。

伊豆の研修施設に4、50人が座れる焼き肉テーブルがあり、そこで皆で食事をしながらお酒を飲み、カラオケでワイワイやるのである。

歌が上手か下手かではなく、下手でも照れないで歌っているとか、指名されたときに躊躇するかしないか、という点を私は重視している。経営者に不可欠な胆力とは、ある意味で「厚かましさ」に通じるところも大きいからである。

かといって、ユニデンではお酒が飲めない人は居心地が悪い、ということもない。第一、私自身がそれほどお酒を飲めなくなっているし、お酒が飲めなくても皆と一緒にワイワイやっていれば事足りるのだ。

要するに、手を替え品を替え、さまざまなシチュエーション(状況)で話をしてみて、お互いに「心の琴線」に触れることができるのか、相手が行間を読むことができる人なのかを確かめたいのである。行間を行間としてしか読めないとか、行間そのものを理解できないのであれば、経営者としては見込み薄である。

会議が主になる傾向があるが、こうやって一緒にお酒を飲んだりゴルフをやってみたり、さまざまなシチュエーションで1回1時間、合計20時間じっくり話をしてみることで、社員の人となりというものが分かってくる。

感性の優れた人と話していると、ちょっとしたやり取りの中でも、以心伝心で伝わってくるものがある。あえて顔には出さないが、お酒を飲んでいるときも、ゴルフをしているときも、互いに通じ合うものを感じるし、そういう人は、日常の会議や報告における問題の指摘の仕方自体が違うのだ。日常業務の処理についても強弱がはっきりしている。

また、俗っぽい言葉でいえば「親分肌」ということになるが、本人に本物のリーダーシップがあるかどうかも、ある程度時間がたてば自然に分かってくる。その人がしゃべり出すと、周りの人が黙ってうなずきながら話を聴くとか、だんだんそうなっていくものだ。

 

後継者発掘が私の最大の役目

ご承知のように、当社には今、社長がいない。社長や専務などの肩書きをなくし、営業・技術・購買・製造・管理の五本部が事業推進の骨格となり、明確なターゲットに向けて連携する「ペンタゴン体制」で経営再建に取り組むと同時に、次の経営者を育てている。

この体制のもとで、各本部担当の取締役がそれぞれの分野におけるターゲット達成に対する責任を果たすと同時に、相互に干渉・補完し合い、全社的なターゲット達成を追求していく。そういうなかで、知力、体力、胆力、行動力があり、なおかつ目配り、気配り、心配りができて、優しさがあり、私心がないという逸材を探し当てるのは、広大な砂浜で一粒のダイヤモンドを見つけ出すのと同じぐらい大変なことだ。

かつて渋沢栄一、五島慶太、松下幸之助らが築いた日本の名経営者の伝統は、戦後になってソニーの井深大・盛田昭夫の両創業者をはじめとする世代に受け継がれてきた。彼らに共通するのは、「人をみる目」に優れていたということである。なかでも井深さんや盛田さんが、(昨年亡くなった元相談役の)大賀典雄さんをソニーに誘い、のちに社長に据えたというのは、非常に卓越した眼力ゆえのことだったといってよい。

大賀さんの素質や才能を見抜き、あえて周囲の反対や摩擦を押し切り、彼を後継者に指名したということが、何よりも素晴らしいのである。その意味で、大賀さんという逸材を探し当て、社長に任命したところで、盛田さんの役目が終わったといっても過言ではない。

私自身も、社内にくまなく目を配り、若い社員たちとのコミュニケーションを密にする一方で、多くの人に会い、少なくとも70点の点数をつけられる人材が出てくるまで、ある程度の期間を見据えて頑張っていくつもりだ。

社長の器になり得る人材を探し当てることができたとき、私の役目は終わるのだ。

 

藤本秀朗(ふじもと・ひでろう)

1935年東京都生まれ。60年日本大学商学部卒業、ツルミ貿易入社。66年ユニ電子産業(現ユニデン)設立。70年代から「トライアングル体制」で急成長し、87年同社代表取締役会長、90年東京証券取引所一部上場。その後、経営幹部に若手起用で話題に。2008年12月に代表取締役を退いたが、11年6月代表取締役CEO(最高経営責任者)として復帰。私財を投じて設立した藤本育英財団は、東日本大震災の被災孤児の学費援助に力を入れている。

 

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