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満洲建国の真実 建国の高き志「五族協和」

中西輝政(京都大学名誉教授)

2012年07月04日 公開 2024年12月16日 更新

満洲建国の真実 建国の高き志「五族協和」

『歴史街道』2012年7月号より

満洲建国は「明治維新の理想」実現に向けた、最後の1歩だった

日露戦争以降、20年以上も続いた日本の苦難の時代の終わり…それが満洲事変及び満洲建国だった。満洲を経済発展させることでロシアの軍事的脅威を排し、さらにアジアの近代化を目指した児島源太郎以来の理想は、中国の辛亥革命やロシア革命さらにアメリカの牽制により時代の激浪に翻弄され尽くす。そして日本人は、ギリギリの決断を下すのだった。

 

満洲に掲げられた高き志

 昭和6年(1931)の満洲事変とその翌年の満洲建国について、現在、日本人の多くはこんなイメージを抱いているかもしれません。すなわち「関東軍が謀略によって一方的に満洲全士を侵略して、傀儡国家を作り、日本をその後、15年にわたる泥沼の戦争に引きずり込んだ」と。

 しかし、満洲事変と満洲建国を「昭和の侵略戦争の始まり」として否定するのは、全くの誤りです。むしろ、これは満洲をめぐって「日露戦争以降、20年以上続いた日本の苦難の時代の終わり」というべきものでした。だからこそあの当時、ほとんど全ての日本人がこぞって満洲建国に歓呼の声をあげたのです。

 そもそも、日本は満洲の地に元来、正当な領有権を有していたことを忘れてはなりません。日清戦争後の下関条約(1895年)によって、日本は清国から遼東半島の全域と奉天のすぐ南までの広大な地域(南満洲の要部)を割譲され、その永久の領有が合法的に認められていたのです。ところが、周知のように満洲への野心を持つロシアが、独仏を誘い武力による威嚇によって、それを日本から取り上げ清国に返還させます(三国干渉)。満洲事変を考える時、我々は常にこの三国干渉の歴史から考えてゆくべきなのです。

 ロシアは、日本から奪った遼東半島を「租借」という形で、自らの支配下に置いただけでなく、清国領の満洲全土を不法占領し、さらに朝鮮を窺います。日本人の危機感は頂点に達し、明治37年(1904)の日露開戦に至るのです。

 そしてロシアに勝利した日本は、ロシアから遼東半島の一部の租借権と長春以南の鉄道権益(後の南満洲鉄道=満鉄)を譲渡されました(ポーツマス条約)。これはロシアが清国から租借していた権益であり、しかも日本は改めて清国と条約を結ぶことで全く合法的に満洲権益を得たのです。このようなことは当時の国際社会では、ごく一般的な行為でした。

 こうして手にした権益も、日本が三国干渉によって奪われた正式の領有権に比べ(鉄道を除けば)、はるかに小さく、また不安定なものでした。それでも日本は、これを受け入れるしかありませんでした。文字通り国家としての存亡をかけ、しかも10万の日本兵の命と国家予算の数倍ないし10倍の国費を投入して得たのが、これだったのです。

 それゆえ、日露戦争後の日本は、この権益を、至極大切なものとして大事に育てようと決心し、奮闘努力します。

 日本の満洲経営は明治38年(1905)より始まりますが、この時、南満洲鉄道設立委員長となった児玉源太郎は、次のような壮大な構想を描いていました。

 「満鉄を、シベリア鉄道経由で欧州と結び、満洲を東アジアの一大経済基地として発展させる。開発はロシアとも協力し、ロシアにも利益をもたらすようにする。さらに、各民族の協同による満洲の発展を図ることによって、清国とアジアの近代化にも貢献する」これはもう、いじらしい程の「優等生」ぶりだったと言っていいでしょう。

 満洲での共存共栄を謳い、互いの共通の利益で結ばれた「日露協商」を結ぶことで、「復讐戦」を考えていたロシアの軍事的脅威を排するだけでなく、東アジアの諸民族の連帯、さらにユーラシア大陸をまたいで東西文明の交流を図る…明治維新の理想をこれほど端的に表現した構想もないでしょう。これは、満洲建国時に掲げられた「五族協和」、すなわち満洲人・日本人・漢人・朝鮮人・蒙古人が満洲国の発展のために互いに協調していくという、あの理想の萌芽と言うべきものかもしれません。

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日本の命運を狂わせた2つの革命

著者紹介

中西輝政(なかにし・てるまさ)

京都大学名誉教授

1947年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て京都大学大学院教授。2012年退官し現職。専門は国際政治学・国際関係史、文明史。1997年『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)で毎日出版文化賞・山本七平賞受賞。2002年正論大賞受賞。
著書に『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』(PHP新書)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)『日本の「死」』『日本の「敵」』(以上、文春文庫)『本質を見抜く「考え方」』(サンマーク出版)など多数がある。

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