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日本の職場は、なぜ“真面目な社員”をパワハラ加害者に変えてしまうのか?

石井光太(作家)

2023年12月12日 公開

 

パワハラ上司は「借り物の言葉」で人格批判している?

パワハラを引き起こす企業側の要因は、一時代前からつづく古い価値観だけではない。社内に蔓延する利益至上主義が上司へのプレッシャーとなり、部下へのパワハラを生むこともある。実は、ここにおいても、借り物の言葉の乱用がしばしば見受けられるのだ。岡田氏は言う。

「営利主義の中で、上司はきちんと部下を統率して業績を上げなければならないというプレッシャーを抱えています。そのプレッシャーをうまく分散したり、ストレスを適度に解消したりできればいいのですが、そうでなければ心に余裕がなくなってきます。

特に上司が出世のスピードを気にして焦っていたり、中途採用であるがゆえに結果を求めすぎたりしている時はそうなりやすい。パワハラが起こるのは、往々にしてこういう状況です。イライラが溜まっている時に、部下のミスにぶつかり、感情が爆発し、過剰な反応をしてしまうのです」

上司とて毎日24時間にわたっていら立ち、罵詈雑言を吐いているわけではない。むしろ、それに陥る人は、普段は責任感が強く、仕事に対して真剣で、人一倍リーダーシップを持っているタイプが多い。

本人がそうした特性を自分でコントロールできているうちはいいが、プレッシャーによってそうでなくなった時に、感情を制御できなくなって度を超した物言いを部下にしてしまう。

パワハラとされる言葉でよくあるのが、部下に対する人格批判だ。仕事のミスを注意するだけでなく、そこから人格を丸ごと否定するような言葉をぶつける。

「この給料泥棒、金返せ」「おまえ、サルほどの脳しかないな」「こんなにできない奴は見たことがない」「この業界で生きていけないようにしてやるからな」「頭がおかしいんじゃないか。病院行ってこい」「会社に存在する価値なし」「休んだから居場所はないと思え」......。

これらは、どの企業でもパワハラのセリフの鉄板となっている。なぜ、会社も違うし、背景も違うのに、猫も杓子も同じようなセリフで部下の人格批判をするのだろうか。それは彼らが自分の言葉でなく、借り物の言葉を持ち出してきているからだ。

悲しいことに、日本の社会には他者を非難する時に使われる汚い言葉があちらこちらに溢れている。人は興奮で我を忘れると、自分で言葉を選んで紡ぐ力を失い、そうした汚い言葉を手あたり次第に乱用する傾向にある。

子供がケンカの時に「死ね」とか「バカ」とか「クソ」などと決まった言葉を発するのと同じだ。そこには言葉を慎重に選ぼうとする殊勝さは微塵もない。彼らは身の回りに転がっている言葉を片っ端からかき集め、暴言を吐き散らしているだけなのだ。だからこそ、本来は意図していないような人格批判を簡単にする。

とはいえ、資本主義社会の中では、企業が一定の利益を追求するのは当然のことであり、なくすことはできない。そう、悪いのはプレッシャーそのものではなく、それを過剰なまでに大きくしてしまう社内の環境や構造なのだ。岡田氏の言葉である。

「昔のような大量生産、大量販売の時代であれば、プレッシャーをかけてみんなで必死に長時間働くことで利益を出すことができました。しかし、今はそうではなくなっています。社員が画一的に一つのことをするのではなく、個々が自由な思考の中でいかにイノベーションを生み出すかが必要になっているのです。

社内の営利主義が行き過ぎれば、社員はそれに追われて新しい物事を生み出すことが難しくなります。そういう意味では、過剰なプレッシャーのある職場は、パワハラを生むリスクが高まるだけでなく、利益を出すことにおいても実は非効率的だといえるのです」

たしかに利益追求が企業の宿命とはいえ、利益の出し方は昔と今では大きく違ってきている。今はグーグルのオフィスや働き方に代表されるように、職場や人間関係にある程度のゆとりがなければ、イノベーションを起こすことは困難だ。

社員一人ひとりにかかる余計なプレッシャーを弱めることは、企業の利益を下げることにはならず、むしろ向上につながるのだ。そして、それこそが未来の企業が目指すべきあり方の一つなのである。

 

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