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損している気分が「満足感」にかわる“自己中心心理学”

石原加受子(心理カウンセラー/心理相談研究所オールイズワン代表)

2012年08月01日 公開 2024年03月14日 更新

石原加受子

いつも「私ばっかり」面倒な仕事を押しつけられている。くやしい…。
なんで「私ばっかり」悪いことや不幸が続くんだろう。ツイてない…。

このように思ったことはないだろうか?それは実はあなた自身が「自分を大事にしていない」からだという。

カウンセリングを25年近く続けてきた石原加受子氏は「どうして私ばっかり…」となってしまう深層心理を解明し、そこから抜け出すための考え方と具体的行動法を紹介する。

※本稿は、石原加受子 著『「どうして私ばっかり」と思ったとき読む本』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「損する」意識は、自分をダブルに苦しめる

「自分中心」と「他者中心」の違いは、"意識"の違いです。

文字で解釈してしまうと、言いたいことはなんとなくわかるけれども、「じゃあ、どこが違うのだろうか」と思ってしまうかもしれません。けれども、"意識"に焦点を当てると、まったく正反対なのがわかります。

自分中心は、自分を基準にしています。他者中心は、相手を基準にしています。例えば、あなたは今、疲れています。

誰かが、「これを、やってよ」とあなたに言いました。他者中心のあなたは、「どうして、やらなくちゃ、いけないんだよ!!」と、感情的になりました。

このときあなたの中には、「疲れている自分」と「感情的になっている自分」がいます。ところがあなたは、相手に囚われていたり、相手の"言葉"に囚われているために、自分を"感じていません"。

相手に気を奪われているゆえに、あなたは、疲れている自分を"無視して"しまっています。あなたはどうして、感情的になってしまったのでしょうか。それはあなたが相手を基準にして、相手の言葉や態度に反応したからです。

もしこのとき、あなたが自分中心になって、自分のほうに意識を向けて"自分を感じて"いたら事情は異なっていたでしょう。

あなたは相手の言葉よりも、自分の「疲れていること」に焦点が当たって、「私は疲れているのだ」ということを実感できていたでしょう。さらにあなたが自分中心になって、「疲れている自分」を優先するとしたら、疲れている自分を「労〈いたわ〉ろう」と思うに違いありません。

 

自分中心の「すごく楽な感覚」を実感しよう

あなたは、自分が感情的になってしまうのは、相手が自分を"感情的にさせた"からと思っているかもしれません。けれどもほんとうは、あなた自身が「疲れている自分」を優先できないから、感情的になっているのです。

それを、「僕が忙しいのは、見てわかるだろう」などと、相手に察するように要求してしまいがちです。あなたは自分を無視するために、疲れている自分に気づくことができません。

さらにあなたは、他者に気を取られているので自分を労ることすらできない上に、相手に向かって感情的になるというふうに、"二重の負担"を自分にかけているのです。

もしこのとき、あなたが自分を労ることもなしに、「わかったよッ。やればいいんだろう」とムキになって相手のために動いてしまうと、「自分ばっかり」と思ったり、「損する。損した」気分になっていくでしょう。

他方、自分中心のあなたは、自分を見ています。自分が疲れているのを"感じる"ことができます。自分中心であるために、あなたは"疲れている自分"を気持ちよく優先できます。

だから、「今、疲れてるんだ」こう言うことができるでしょう。さらに、「3時間ほど、休んでから話を聞くよ」などと具体的に言えるのは、日頃から自分を大事にして、自分の状態を把握しているからです。この、すごくシンプルで楽な感覚が実感できるでしょうか。

他者中心の人はいつも、どれだけ自分を無視したり、自分に負担をかけていることか。自分中心と他者中心の、この"意識"の違い、"実感"の違いを、感覚で知って、自分中心の感覚を自分の中にインプットしてください。

 

「えこ贔屓されている人」のほうが実は損している!?

職場で、「あの人は、上司からえこ贔屓されているので、妬ましくてなりません」という女性がいました。

「同じことをしても、彼女ほはめられるのに、私は無視される」そう思うと、どうしても、「あの人ばかり得してる」という気持ちになってしまいます。えこ贔屓されている女性は、彼女よりも年下です。

話を聞くと、彼女も新入社員の頃は、贔屓されている彼女のような扱いを受けていたようです。それが年下の女性に移ってしまったので、よけいに嫉妬してしまうのでしょう。

「贔屓されている人は得して、私は損している」他者中心の彼女には、こんなふうにしか映りません。そこで彼女にこんな質問を投げかけてみました。

「新入社員の頃、あなたも彼女のように贔屓されていたそうですが、そのときはどんな気持ちでしたか」

「そりゃあ、嬉しかったですよ」彼女は、まだ、質問の意図を理解していないようでした。

 

ほめられることは、いいことばかりではない

例えばあなたが、近所で買い物をしたとき、お店の人から「美しいね」とほめられました。あなたは毎日、そのお店の前を通ります。そのお店の人はいつも、あなたを見ているかもしれません。

あなたは、どんな気持ちで、そのお店の前を通りますか。今日あなたは、「お化粧するのが面倒臭い」と思いました。ボサボサの髪とすっぴんで、そのお店に行くことができますか。違った場面を考えてみましょう。

職場であなたは「気が利いているね」とほめられました。そうやってほめられたことで、あなたは「気が利いている」と言われ続けるために、アンテナを張って、常に気が利く私でなくては、と考えませんか。

誰かに「頭がいいね」とほめられました。その人の前では特に、「ドジを踏んではいけない」と思いませんか。

まだつき合いだして日の浅い恋人に「あなたの笑顔が素敵だね」と言われました。翌日、あなたは職場で年下の女性に嫉妬して不機嫌です。仕事が終わった後で、恋人が「会おうよ」と言ってきました。

あなたは、不機嫌そうな顔を恋人に平気で見せることができますか。あるいは、無理に笑顔を作ろうとしたら、どんな気持ちになっていくでしょうか。どっちに転んでも、あなたは否定的な気持ちになるに違いありません。

 

相手の立場を自分に置き換えてみるレッスン

あなたはこれまで自分の眼から見た「相手の得する場面」ばかりを切り取っていました。けれども、自分を相手の立場に置き換えてみると、どうでしょうか。

あなた自身が、贔屓されている女性になりきってみると、どんな気持ちになるでしょうか。新入社員として贔屓されていたときに、あなたはどんな振る舞いをしていたでしょうか、今一度、振り返ってみましょう。

あなたは、相手に好かれるように無理をしていませんでしたか。相手が雑用を頼んでくれば、"笑顔"で引き受けていませんでしたか。

贔屓されたり特別扱いされれば、相手の期待に応えなければならないと無意識に思ってしまうものです。他者中心の人ほど、「それに応えなければならない」と思って、それが重荷になっていくでしょう。

こんなふうに、「あの人は、えこ贔屓されていて妬ましい」と思うのは、自分の一方的な見方です。その人になったつもりで推測してみれば、決して、あなたの眼から見えるような、「得する」ことばかりではありません。

言い方を変えれば、あなたの眼から見た「妬ましい人」が陰でしているであろう努力や感じているであろう心理的プレッシャーや心労を、あなたは背負わないで済むという点で、「得している」のです。

 

「プラス感覚」に敏感になるレッスン

「損する」という思いが頭を占めているとき、感情や五感といった感覚を"感じる"ことが疎かになっています。それは、「思考」と「感じる」ということを同時に体験することができないからです。

「損する。損する」と心の中でつぶやいていれば、心も「損する」気分になっています。けれども、思考に囚われているゆえに、心は「損する」気分になっていながら、それを自覚することはできません。そのために、「損する。損する」と言えば言うほど、気づかずにどんどん「損する」気分に囚われていくのです。

例えば、あなたは友だちと喫茶店で、四方山話に花を咲かせています。話が拡がっていって「損する」話題になっていきました。

「○○を習っているんだけど、先生が可愛い子をえこ贔屓するのよ」
「夫の親とは同居したくないのに、姑が『帰ってくれば、お家賃もいらないでしょう』ってしつこく言ってくるんだ」
「いまどき、長男の嫁だからって言われてもねえ」

といった話をすればするほど、自分が損をしているという思いが強くなって、貧乏くじを引いた気分になっていくでしょう。

あなたはそんな話の途中で、コーヒーをひと啜りしました。
またひとしきり喋って、またコーヒーをひと啜りしました。
話をしている途中で、あなたはむせてしまい、咳をしました。何度か咳をすると止まったので、あなたはまた、話に戻りました。
あなたはお喋りで喉が渇いたので、また、コーヒーを啜りました。

こんなとき、こう問われると、あなたは答えることができるでしょうか。
「何度もコーヒーを啜っていますが、コーヒーを飲んでいるとき、味わいながら飲んでいますか?」

お喋りに夢中になっていると、コーヒーの香りや味をゆっくりと味わう暇もないでしょう。思考に囚われている状態も同じです。

さらに、あなたは話の途中で、咳をしました。「咳が止んだとき、あなたはどんな気分でしたか?」

咳が出ているときは苦しいから気になるけれども、咳が止まれば、すぐにお喋りに戻ります。

このときあなたが、咳が止まったことに焦点を当てて、もう少し時間をかけて自分を感じようとするなら、"ほっとしたり、喉が楽になったりしている"感覚を感じることができるでしょう。

マイナス感覚や感情を感じる感度は高くても、こんなプラス感覚や感情を感じる感度の低い人が多いのです。その感度の低さが、さらに「損する」という思考に囚われていく元凶となっています。

そんな負の思考の連鎖から抜け出すには、その時々に感じているプラス感覚や感情に気づく分量を増やし、それを味わっていくことが早道なのです。

 

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