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運転免許証を自主返納したら、“身分証明”はどうなる? プロが教える手続きの流れ

楠田悦子(モビリティ・ジャーナリスト)

2024年04月17日 公開

運転免許証を自主返納したら、“身分証明”はどうなる? プロが教える手続きの流れ

昨今、高齢のドライバーによる自動車事故が問題視されています。高齢期に入った親の運転に、不安を抱かれている方も多いのではないでしょうか。本稿では、モビリティ・ジャーナリストの楠田悦子さんに「免許証返納」について、詳しく聞きました。

※本稿は、『PHPくらしラク~る♪』2024年5月号より、一部を抜粋編集したものです。

 

熟練が油断を引き起こす事故の原因は「考え事」

高齢ドライバーの事故が報道されるたび、話題になる「運転免許証の自主返納」。親や兄弟など、周囲に高齢者がいる方の中には、今まさに免許証を返納するよう説得している、という方もおられるのではないでしょうか。

アクセルとブレーキの踏み間違いや、高速道路の逆走など、事故の要因になりうる「ヒヤリハット」の瞬間はさまざま。

2022年の『警視庁交通総務課統計』では、年間約3万件の交通事故発生件数のうち、約4,500件が65歳以上の高齢ドライバーによるものと発表されており、事故を起こした理由の8割以上は「脇見や考え事をしていたことなどによる発見の遅れ」でした。運転歴が長く、熟練しているからこそ油断が生じるのかもしれません。

 

強要するのはNG...納得したうえでの返納を

医療技術の発展によって、高齢者と思えないほど若く、元気な人も増えてきましたが、視力や筋力、認知機能やとっさの判断力などは、加齢に伴い低下していきます。悲惨な事故を起こしてしまう前に自主返納してほしい、という周囲の気持ちは日に日に強くなるばかりでしょう。

しかし、免許取得から今に至るまで無事故・無違反で自分の運転技術に自信を持っていたり、そもそも車に代わる移動手段がなかったりと、高齢ドライバーにも自主返納をためらう理由があります。

また、無理やり免許証をとりあげてしまったことで、無力感から引きこもりがちになり、認知症につながってしまったという例もあります。ドライバー自身が納得したうえで手続きができるように、返納をためらう気持ちに寄り添いながら、じっくりと話し合うことが必要です。

次の項目からは、運転免許証の自主返納をためらう理由ごとに、周囲ができるサポートや説得の方向性などを紹介します。今、これを読んでいるみなさんも「いつか自分自身のことになる」と考えるきっかけにしてください。

 

自主返納をためらうのはなぜ?

ただ頑固になっているだけじゃない。返納したくない理由を考えてみましょう。

【理由①】車がないと生活が不便......

自主返納をためらう理由として一番多いのが、生活するうえで必要不可欠だからというもの。買い物や通院など、日常的な外出時の移動をすべて車で行なっているという方にとって、車はまさに「自分の足」そのものです。

まずは、車を手放すと行動範囲が狭まってしまう、と不安になる気持ちを理解するように努めてください。

そのうえで、車に代わる移動手段を考えます。公共交通機関だけでなく、地域の乗合バスが利用できたり、医療・介護施設、スーパーや美容院などが送迎サービスを行なっている場合もあります。相談を進めながら、車以外の移動手段を使った買い物や通院に付き添ってみて、所要時間や代金、使用感を確かめるのもいいでしょう。

 

【理由②】代わりの手段を調べるのが難しい

スマホやパソコンを使える方であれば、ウェブ上で利用したいサービスを検索できますが、小さな文字が見づらい、操作がわからない、と感じる方も多いです。返納を勧める方が、一緒に検索や利用案内の確認を行なうようにするといいでしょう。

また、返納を機にスマホやパソコンの操作を覚えてもらえば、ネットスーパーや通販の利用にもつながります。とくに、地方在住の方はスマホやパソコンを使えると、生活の自由度がぐっと上がります。

もちろん電話や、LINEなどのSNSを使ったメッセージやテレビ電話で、離れて暮らす家族と頻繁に連絡を取れる点でも有用です。

 

【理由③】タクシーやバスの料金が高い!

タクシーや乗合バスは料金が高くて利用しづらい、という方もいます。そんな時は、自家用車の維持費と代替手段の利用料を比較してみましょう。

税金やガソリン代、保険料などを足すと、自家用車を1台運用するのに、月におよそ4万円かかるとされます。この費用を、1回500円と想定した乗合バスの利用料金に置き換えると、月に80回、往復利用でも40回乗れることになります。

外出の目的や頻度、料金や利便性などを鑑みて、自家用車の運用費と代替手段の利用料を比較検討してみてください。代替手段の料金は高いとは限らないはずです。

 

【理由④】車を運転するのが生きがい

自主返納をためらう方の中には「運転するのが生きがい」と感じている方もいます。そもそも、自主返納という制度自体がなかった頃に免許を取得した方がほとんど。車に対する思い入れが強い場合も多いです。

どうしても踏ん切りがつかない場合は、先進安全技術が搭載されたセーフティ・サポートカー(サポカー)への乗り換えと、サポカー限定免許への切り替えを検討してみてください。自動ブレーキや逆走防止装置など、さまざまな機能が登場しています。

ただし、サポカーは万能ではありません。あくまでも運転を支援する機能であり、事故を完全に防ぐものではないことを理解しておいてください。

 

・話し合いがまとまらない時は......

何度話し合っても、なかなか合意が得られない場合もあるでしょう。結論を先送りにしているうちに事故が起きてしまったら、元も子もありません。そんな時は、外部の相談窓口を頼りましょう。

運転免許センターや警察署には「安全運転相談窓口」が設けられ、高齢ドライバーとその家族の相談を受け付けています。また、全国統一の専用相談ダイヤル「#8080」に電話をかけると、所在地を管轄している都道府県警察の安全運転相談窓口へつながります。

 

運転免許証自主返納の流れ

自主返納って、どこでできるの? 必要なものは? 知っておきたいおトクな申請も紹介します。

 

・自主返納手続きは簡単!

運転免許証の自主返納は、住んでいる地域の運転免許更新センターや警察署の交通課で申請できます。必要なものは、返納する免許証のみ(印鑑が必要な場合もあります)。手数料は発生しません。書類に必要事項を記入して提出すると手続きは完了です。

本人が入院中などの理由で窓口へ行くのが難しい場合は、代理人が手続きを行なうことができます。その場合は、返納する免許証と代理人の身分証明書に加え、委任状などが必要です。委任状の書式は各都道府県警察のホームページからダウンロードができます。

受付時間や必要なものは地域や施設によって異なる場合があります。事前に電話などで確認しておくといいでしょう。

 

・運転経歴証明書を作っておこう

自主返納と併せて行ないたいのが「運転経歴証明書」の交付手続きです。免許証と同じように公的な身分証明書として使えるほか、市区町村や企業が提供している割引や優待を受けることができます。交付の際には手数料1,100円と証明写真が必要で、申請の約1〜2週間後に直接受領、もしくは郵送にて受け取ることができます。

 

【楠田悦子(くすだ・えつこ)】
モビリティ・ジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決に向けた活動を行なう。編著書に『移動貧困社会からの脱却』(時事通信社)など。

 

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