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その悩み、“10年後”の自分にとっても重要?…専門家が教えるストレスを溜めない「思考法」

小林弘幸(順天堂大学医学部教授/日本体育協会公認スポーツドクター)

2020年11月21日 公開 2022年12月07日 更新

その悩み、“10年後”の自分にとっても重要?…専門家が教えるストレスを溜めない「思考法」


撮影:山口規子

自律神経を乱す“ストレス”の大半は人間関係からくるもの。しかし、それは本当に悩むに値することなのでしょうか?実は考え方次第で、その悩む時間を減らすことが可能です。自律神経研究の第一人者である小林弘幸氏が、そのストレスを上手に交わす思考法を指南します。

※本稿は、小林弘幸(著)『名医が実践する「疲れない」健康法』(PHP新書)より、一部抜粋・編集したものです。

 

自分でコントロールできないものに、心を乱されるのは意味がない

自分でコントロールできないことには悩まない。大切な心身を疲れさせないためには、この考え方が必要です。松井秀喜さんがまだ現役の野球選手だったときの話をしましょう。 

巨人からニューヨーク・ヤンキースに移籍した1年目のシーズン、極度のスランプに陥っていました。ホームランバッターとして期待されて入団したのに、試合でなかなか打球が上がらず、ボテボテの当たり損ねのゴロばかりでした。

ニューヨークのメディアは、松井選手を「ゴロキング」と呼び、連日のように酷評しました。

そして記者は、こんな質問をぶつけたのです。

「マスコミからゴロキングといわれて、気にならないのですか」

このとき、松井選手はなんと答えたでしょうか。

「全然気になりません。記者さんたちが書くことは、僕にはコントロールできません。僕は自分でコントロールできないことには関心を持たないことにしているんです」

この堂々たる返答を聞いたとき、「さすがは一流のアスリート」と感動したことをよく覚えています。

自分でコントロールできないものに、心を乱されるのは意味がない。だから、他人の言動など気にせず、自分がコントロールできるプレーに集中していく。松井選手のそうした強い信念がこの言葉には表れています。

イチロー選手やサッカーの本田圭佑選手などのインタビューを見ていても、同じような感動をよく覚えます。マスコミの批判など自分でコントロールできない部分に、無駄な時間と労力を割くようなことをしない。その思考のあり方が、一流のアスリートには共通しています。

一流のアスリートは、メンタルが強い。多くの人はそう考えます。もちろん、日々の鍛錬に裏打ちされた強さを備えていますが、その根本には、「気にするところ」「気にしないところ」という選択がしっかりできているのです。

この選択に、メンタルの強さはいりません。自分でどう考えるかの違いだけです。気にしなくてもよいところは、きっぱりと排除する。そうして、自分が気にするべきところに、そのぶんの時間と労力を傾ける。

そうやって判断する力がついてくると、精神的なところからくる悪い疲れで、心身にダメージを与えることもなくなっていくのです。

 

トップアスリートも私たちも、大切なのは考え方

私はスポーツドクターでもあり、多くのアスリートのコンディショニングやパフォーマンスの向上のサポートをしています。現在は、千葉ロッテマリーンズのチームドクターもしています。

これまでにたくさんのアスリートを見てきました。プロ野球の多くの選手は、だいたい30 代後半で引退します。その引退会見のとき、ほとんどが太ってしまっています。20代のときの体型とまるで違っているのです。

選手の多くは、引退の理由を「体力の限界」「気力が続かなくなった」といいます。とても厳しいようですが、太って引退するのは、不摂生以外の何ものでもありません。「年齢のせいで技術が落ちた」というのは、思い違いです。

身体が太ってしまえば、思うように動けなくなり、小手先の技術だけでがんばろうとします。これでは、技術が落ちるのも当然です。人が太るのは、食べすぎや飲みすぎに加えて、運動不足で筋肉量が減るからです。

これは、アスリートでも同じです。練習で毎日身体を動かしていても、練習量がたりなければ、人は太るのです。つまり体型とは、「どれだけ運動がたりているか」を表すバロメーターです。

これに対し、45歳で現役を引退したイチロー選手は、20代のころから体型がまるでかわりませんでした。むしろ、どんどん引き締まっていくようでした。だからこそ、引退の日まで技術の衰えを見せることなく、最高のプレーヤーであり続けたのでしょう。

イチロー選手が野球界で稀有な存在であった根本にも、やはり思考力の高さがあります。彼は、年齢で自分を判断されるのを嫌い、今の身体の状態やパフォーマンスを見てほしいと、常々語っていました。

トップアスリートも私たちも、いちばんに大事なのは、思考のあり方なのです。要は、自分で限界をつくっているか限界をつくらないか、の違いです。

自分にいい訳をつくれば、そこに限界を感じ、それ以上の成長は望めません。成長を止めた先にあるのは、老化と退化です。だからこそ、50代以降の人は、10年後を夢見て、成長することを続けていったほうがよいのです。

ではなぜ、多くの人は「もういい歳だし」「最近疲れやすくて」と、自ら限界をつくる言葉を簡単に発するのでしょうか。

限界ができれば、それ以上がんばらなくてよくなるからです。気持ちが楽になるのです。しかし、その楽さは、ネガティブな思考を生み出します。下向きの心は、ストレスの感受性を高めて自律神経を乱し、悪い疲れを引き起こします。結局のところ、そこから大変な思いをするのは、自分自身です。

10年後の自分を夢見ることができれば、人は誰でも「まだまだがんばれる」と意欲が湧いてくるものです。そんな生き方は、あなたを輝かせ、魅力的にします。思考は、今日からでも、この瞬間からでも変えられます。

そのためにも、どうぞ今から10年後の自分と対話を始めてみてください。私たちの健康な人生とは、実はこんなに簡単なところから、大転換を起こしていくことができるのです。

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その悩みは、10年後の自分にとっても重要?

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