紅茶を飲むときの正しいマナーを知っていますか? マナーは人となりを表す大切な教養のひとつ。いざという時恥をかかないためのティーマナーの基本を、藤枝理子さんが解説します
※本稿は、藤枝理子著『仕事と人生に効く 教養としての紅茶』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。
ピンチにもチャンスにもなる「紅茶のマナー」
イギリスでは「紅茶を飲む姿には、品位と教養が表れる」といわれています。
初めて出会った人でも、その立ち居振る舞いから三代先までお見通し……なんて聞くと、ドキっとしますよね。
たとえば、現在イギリスで絶大な人気を誇るキャサリン皇太子妃。実は、ご成婚前に紅茶のマナーにまつわるこんな噂が囁かれていました。
当時、一般家庭出身のキャサリン妃との交際に対しては厳しい意見もあったのですが、エリザベス女王がキャサリン妃ご一家をプライベートなアフタヌーンティーに招いたところ、階級差を目の当たりにするような振る舞いがあり、ますます疑問視する声があがったというのです。
事実、結婚に向けての話がなかなか進まずに、一時はメディアから“WaityKate(待ちぼうけケイト)”という不名誉なニックネームがつけられていたこともありました。
真偽はともかく、マナーは人となりを表す大切な教養のひとつ。一瞬でピンチを招く落とし穴にもなれば、チャンスを切り拓く鍵にもなるということです。
ティーカップは右手で持つ
気品ある紅茶のいただき方は、まず凛とした座位の姿勢がポイントとなります。
美しい姿勢をとるのに大切なのは上半身。座る際には骨盤を意識して立て、天井から糸で引き上げられている感覚で背すじを伸ばします。そのとき、おへその下あたり丹田と呼ばれる部分に力をいれると軸が定まり、美姿勢を保つことができます。
そして、品性が表れるのがカップを持つ手先です。
ティーカップ&ソーサーがサービスされたら、ハイテーブルの場合は、ソーサーには触れずに、右手でカップだけを持ち上げます。
ローテーブルや立食スタイルの場合は、ソーサーごと胸の高さに持ち上げ、左手でソーサー、右手でカップを持っていただきます。
このとき、ハンドルにしっかり指を通して握るように持つのではなく、親指・人差し指・中指の3本でつまむようにし、小指は立てずに延長上で揃えて添えるようにすると、非常にエレガントな所作になります。
ティーカップは利き手にかかわらず、右手で扱うのがマナーです。
イギリス人は左利きのかたも多いのですが、小さな頃からティーカップの扱い方も練習して身につけていきます。ハンドルを握るように持ったり、底に左手を添えたり、両手で飲むような仕草は、子どもっぽく映ります。小さな紳士・淑女であっても、常に他人からどう見られているのかを意識しているのです。
ミルクやお砂糖を入れる際には、ティースプーンで音を立てずに混ぜます。このときにカップの中でグルグル混ぜたり、底にあてながら音を立てて混ぜるのはNG。
スプーンを軽く浮かせた状態で、手前から奥へとNの文字を往復しながら描くようなイメージで静かに動かし、混ぜ終わったら、スプーンはソーサーの奥側に柄を右にして上向きに置きます。
「手先には、その人の生き様が表れる」といわれます。
男女問わず、ハンド&ネイルケアも忘れずに。相手に不快感を与えるようなネイルや、食器を傷つけてしまう恐れのある指輪は避け、清潔感を心がけましょう。
エリートは知っている日本と世界のマナーギャップ
日本の常識は世界の非常識。
そんな言葉があるとおり、礼儀正しい国民といわれる日本人の私たちも、文化や習慣の違いから、グローバルな視点で見ると常識のギャップが生じることもあります。
たとえば、お食事を待つ間、日本では手を膝の上に置くかたが多いのですが、西洋のマナーにおいては、手は軽く握って、テーブルの上に手首をあてるように置きます。
これは騎士道精神の証しで、両手を相手に見せることで、武器を隠し持っていない(=敵意はありませんよ)という意思表示になります。
お料理が運ばれたら、即座に食べはじめてはいけません。お声がけがない限りは全員分揃うまで待ちます。スタートのタイミングは、日本では「いただきます」と言う習慣がありますが、英語には決まったフレーズはありません。アフタヌーンティーの場合は、メインのかたが紅茶に口をつけた瞬間が合図になります。
また、お食事中にも周囲への配慮が必要です。
サービスのかたを呼ぶ際に、日本では「すみません!」と手を挙げて大声を響かせ、その場の空気を一変させることがありますが、クレームでもない限りは、アイコンタクトで伝えるのがスマート。また、腕を組む、肘をつく、靴を脱ぐ、髪を触るなどの動作も失礼な振る舞いにあたりますので避けましょう。
そして、何よりも一番嫌われるのが、食事中に立てる音です。
日本では、お蕎麦などを「啜る」という習慣があり、洋食の際にもスープ・パスタなどを吸い込むように食べるかたも見受けますが、海外ではその音を非常に不快に感じるかたが多く、周囲への配慮に欠けマナーに反する行為とされます。
特に、日本人の私たちは、紅茶を飲む際には注意が必要です。
日本の茶道では最後に音を立てていただく作法がありますし、紅茶は日本茶と比べて高い温度でいれるため、どうしても空気と一緒に吸い込み、無意識に音が出てしまうことが男女問わず多いのです。
食事の作法は、頭ではなく身体で覚えるものです。
「ティーマナーは育ちを表す」という言葉の裏には、一朝一夕で身につくものではないため、幼児期の躾や食育が基本という意味もあります。
品格の格差で、チャンスを逃すことも摑むこともあるのがビジネスの世界。日頃から食事の際には静かに食すように気を配ることが大切です。