ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『人を動かす 改訂新装版』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
人とうまくやるという誰もが望むこと
1936年に出版されて以降、本書ほどに自己啓発書として影響力を持っている作品はないでしょう。世界の累計発行部数は3,000万部を超え、日本国内でも500万部が販売されています。
タイトルとなっている『人を動かす』という言葉だけを見ると、組織のリーダー向けの本と思われるかもしれません。原著のタイトルは『How to Win Friends and Influence People』です。
ここで扱われているテーマは人間関係全般になっています。組織のリーダーはもちろん、円満な家庭を築きたい人や、より成果をあげたいセールスパーソンなど、ほぼすべての人が参考になる内容です。
発刊当時、本書に近い内容を扱った本が見当たらず、1年半にわたる資料集めから始まり、小さなカード、パンフレットの作成などの15年の時を経て、一冊の本になったのが本書だと言われています。談話の対象はフランクリン・ルーズベルト大統領を筆頭に当時の著名な人物ばかりで、いかにこのテーマが注目を集めたかがうかがえます。
ベストセラーにはベストセラーになる理由があります。自己啓発書の価値を世の中に示す普遍的な内容が込められた作品になっています。本書の中でも繰り返し登場するテーマを含む、人を動かす三原則を中心に紹介していきます。
盗人にも五分の理を認める
人は誰もが自分を悪いとは思いたがらないのかもしれません。本書には二丁拳銃のクローリーという連続殺人者で、ニューヨークの犯罪史にもまれにみる凶悪犯のコメントが記載されています。
「私の心。それは、疲れ果てた心ではあるが、優しい心である。誰ひとり人を傷つけようとは思わぬ心である」
クローリーが電気椅子に座る最期のときまで、自分の身を守っただけという主旨のことを話していたとされています。
アメリカの歴史上、代表的存在である大統領のリンカーンは、かつてジェイムズ・シールズという喧嘩早い政治家を風刺文で笑いものにしたことがありました。
先方の怒りにふれ、とうとう剣による決闘がはじまろうとしたとき、双方の介添人が分け入り、この果し合いは預かりとなりました。この件で肝を冷やしたリンカーンは、以後人を非難することをやめたといいます。
どのような人であれ、自分は正しいことをしていると心の中では信じたいものです。イギリスの文学者サミュエル・ジョンソンが言うように、神様でさえ、人を裁くのは死後まで待つべきなのかもしれません。
重要感を持たせる
人が欲するものは、健康と長寿、睡眠、性欲の満足、子孫の繁栄など多岐にわたります。その中で最も満たされないものが、「自己の重要感」だと著者は伝えています。
心理学者のウィリアム・ジェイムズは、「人間の持つ性情のうちで最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持である」と述べたといいます。この自分が重要であると感じること、現代の承認欲求に近いものこそが、人を動かす上で大切になるのです。
人扱いが巧みで石油王とも言われたジョン・ロックフェラーには次のエピソードが残っています。
エドワード・ベッドフォードという共同出資者が、南米の買いつけの失敗で会社に100万ドルの損害を与えたことがありました。その時、ロックフェラーはベッドフォードに対して、投資額の60パーセントを回収したことをほめたそうです。
相手に対して重要感を持たせられない人は、偉大な哲学者のラルフ・ワルド・エマーソンの言葉を肝に銘じておくべきでしょう。
「どんな人間でも、何かの点で、私よりも優れている。私の学ぶべきものを持っているという点で」
人の立場に身を置く
第一次世界大戦を戦ったイギリスの首相ロイド・ジョージは、他連合国の指導者が影響力を失っていく過程でも、彼一人がその地位を保持していたと言われています。その秘訣を問われた際の言葉は、「釣り針には魚の好物をつけるに限る」だったそうです。
当たり前だと思うかもしれませんが、自分の好物ではないことに、改めて注目すべきでしょう。人を動かすためには、その人の好むものを問題にして、それを手に入れる方法を伝えることが良いそうです。
幼稚園入園前日の子供が、入園したくないとぐずぐず言っていた場面で、幼稚園にいきなさいと命令するのではなく、幼稚園に行きたくなるように仕向けたエピソードが紹介されています。
まず幼稚園で行うだろう面白いことを夫婦で挙げて、それを実演していきました。すると子供がその様子を見て、入りたいと言い出しました。そこで、幼稚園でやり方を教わってからでないと駄目だと言ったのです。すると翌朝には、その子供は幼稚園に遅れないように椅子で居眠りをして両親が起きるのを待っていたのだそうです。
より文明的な言葉ではエンパシーとも言われる、相手の立場でものを考えられる能力や感受性にも近いことに思われます。相手の人生にとっての主役はあくまでも相手です。相手が進んでしたいことが何かを考えておくことは、何をお願いする際にも重要なことだと言えるでしょう。
人と人の関係により人生が劇的に変わる
本書が出版されてから今に至るまで、様々なところでこのような教訓が語られているように感じています。人がなぜこれほどまでに人間関係に執着するのかは、人が社会性を持つ生き物なので避けられないことだとも思えます。
ほとんどの仕事は一人では完結しないもので、周りのメンバーの支えや、上長の承認が必要なことばかりです。そして人と人の関係は、人の数だけバリエーションがあって、それごとに最適解を求めていくと、誰もが思考の限界を超えることになります。だからこそ、より普遍的に通用する考え方に多くの人が魅せられているのかもしれません。
本書を読んでいくと、ビジネスや政治のシーンだけでなく、家族や友人関係の事例が多く掲載されていることに気づきます。人間関係をよりよくできれば、人生全般の舵をにぎることができるのです。
本書から得られる教えをどこまで取り入れるのかは自分次第です。人生やキャリアという長く困難な道のりをより望ましいものに変えようという気持ちがあるなら、先人により語り継がれているこの代表的な定番書に触れてみてはいかがでしょうか。