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30代後半以上で「すぐ眠れる人」は注意が必要? 睡眠負債が潜んでいる可能性

西野精治(スタンフォード大学医学部精神科教授)

2025年04月04日 公開

30代後半以上で「すぐ眠れる人」は注意が必要? 睡眠負債が潜んでいる可能性

年齢を重ねるにつれて、徐々に寝つきが悪くなっていくもの。そんな中、30代後半になっても「すぐに眠れる」という人は注意が必要、とスタンフォード大学医学部精神科教授・西野精治さんは語ります。その理由とは? 書籍『スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識』より解説します。

※本稿は、西野精治著『スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識』(PHP研究所)の一部を再編集したものです

 

理想の眠りを獲得するための3原則

よく質問されます。

「睡眠負債がたまってしまったら、どうやって解消すればいいのでしょうか?」

この問いに対する私の答えはじつに単純です。

「それは『眠る』しかありません!」

睡眠負債は眠ることでしか解消できません。眠りの借金は眠りでしか返せないのです。

しかし、現代は誰もかれも忙しい生活を送っています。もっと眠りたいと思っても、なかなかその時間がない。

そこで、せめて睡眠の「質」をよくしたいと考える。「質のよい睡眠を得るための○○」という情報を求め、そういう売り文句の睡眠関連商品に手が伸びるわけです。

確かに、睡眠の質は大切です。時間的に十分眠れていても、眠気、睡眠圧がしっかり放出されなかったり、疲れがとれなかったりするのは、よい眠りとはいえません。質のよい睡眠をとれることが大事であることは間違いありません。

では、質さえ高められれば、時間は短くても大丈夫なのか。

そんなことはありません。

やはりある程度の時間眠らないことには、睡眠負債は改善しません。「量」と「質」、どちらも確保されなければダメなのです。理想の眠りを獲得するためには、

① 量(時間)が十分足りている
② 質のよい眠りである
③ すっきりと目覚められる

この3つの条件を充たすことが大切です。

まずは睡眠時間の確保。忙しいと睡眠の短縮で帳尻合わせをしようとする傾向の人は、特に心がけたいことです。睡眠時間をきちんと保持することを優先させる習慣をつける。

必要な睡眠時間は人それぞれですが、指標としてひとまずは7時間程度を目安にするのがいいと思います。自分はもともとショートスリーパーである、ロングスリーパーであるという自覚のある人は、自分の眠りの状態を考えて増減してください。

睡眠の質というのはなかなか測りにくいものですが、眠りの満足度がはっきりと出るところがあります。

それが、目覚めのすっきり感。

短時間の昼寝や仮眠でも、起きたときに非常にすっきりしているときがありませんか?

目覚めがすっきりしていると、「気持ちよく眠った」という満足感があります。爽快な目覚めは、眠りにおいてかなり重要な条件なのです。

ですから、すっきりとした目覚めが得られた眠りを「快眠」の尺度にして、質の高い眠りにつながる睡眠環境を整えていくのです。

 

なかなか寝つけないときには...

「なかなか寝つけなくてつらい...」

誰でもそんなことがありますね。眠りにつくまでの時間を「入眠潜時」と呼びますが、いったいどれくらい眠れないと人は「眠れない」と感じるのでしょうか。

明かりを消して目を閉じてから、15分以上眠れないと、ちょっと「寝つけない」と感じはじめます。この状態が30分つづくと、「眠れない」ことにかなり苛立ちを感じます。

「なかなか寝つけなかった」と不眠を訴える人の多くは、実際の時間よりも、眠れないと感じていた時間を長く申告する傾向があります。たとえば、実質的には20分程度だった場合でも、1時間以上と言ったりします。

「まだ寝られない、まだ寝られない」と神経質になり、眠りにつけないことがプレッシャーになってしまうのが「不安神経症」による不眠症です。

眠れないときは、無理して眠ろうとしないことが大切です。通常、夜になると1日の活動の疲れを感じて睡眠圧が高まっています。睡眠圧が高くなって寝るから、自然なかたちで最初に深い眠りに入る。そこで睡眠圧が一気に放出されます。つまり「眠りたい」という欲求が解消されるわけです。

眠くないのに「眠らなくては」と無理して眠ろうとすると、自然な入眠になりません。睡眠圧があまり強くないと、寝入ってすぐに深い睡眠サイクルへと入りにくくなってしまいます。眠れても、すぐ目覚めたりして、健常な睡眠パターンにならない可能性があるのです。

寝つけないと感じたら、一旦ふとんから出て、カフェインの入っていない飲み物でも飲んでみるとか、自分の気持ちを落ち着かせ、眠りに誘ってくれるような音楽を聴くとかするといいでしょう。そのときには、スマホをいじったりしない、煌々と明かりをつけない、といったことにも注意しましょう。

では、いい寝つきとは何分くらいで眠れることでしょうか。私は、10〜15分ぐらいが妥当ではないかと思っています。調査をすると、若い世代、特に10代、20代はかなり寝つきが早い。1〜2分でストンと眠りに落ちる人もいます。年齢が上がると、もう少し時間がかかるようになります。

若くて健康で、睡眠に特に困ったこともなく、目覚めもすっきりしているならいいですが、30代後半以上で「あっという間に眠れる」人は、ちょっと注意が必要です。

というのは、「自分は寝つきがいい」「どこでもすぐに眠れるのが強み」と思っている人のなかには、じつは睡眠負債がたまりすぎて脳が疲労困憊しているケースもあるからです。気をつけないと、そのツケはどこかで噴出するかもしれません。

ちなみに私自身は、読書などしていてそのまま入眠することが多いのですが、就床してから入眠までは10分程度であることが多いです。

 

電車で寝ても、二度寝してもいい

日本人は電車のなかでよく寝ているというのは、以前から日本を訪れた海外の人たちが驚くことのひとつでした。日本のビジネスパーソンがいかに睡眠不足であるかを端的にあらわしているとも、電車で眠りこけても窃盗事件が起きない治安のよさのなせる業だともいわれます。

「ネットを見ていたら、『帰りの電車で寝てはいけない』という記事があったんですよ。私は寝るのが普通になっているのでどきりとしました。やっぱりよくないんでしょうか」と聞かれたことがあります。

おそらくその記事は、帰宅する電車のなかで寝てしまうと夜の睡眠に影響するという理由で書かれたものだと思われます。

確かに、夕刻以降の居眠りは夜の睡眠に弊害を及ぼすリスクがあります。特に子どもではこういった影響は顕著です。ただ、これも睡眠不足との兼ね合いではないでしょうか。

原則としては、夜しっかりと睡眠をとって、睡眠不足をため込まないようにしたほうがいい。居眠りをしないで済むなら、それに越したことはありません。

しかしそうできていない現実があるから、眠くなる。であるならば、疲れがたまっている帰りの電車で運よく座ることができれば、居眠りくらいしてもいいのではないかと私は思います。

その結果、夜、眠れなくなってしまう人は避けたほうがいいですが、電車の揺れに身を任せてまどろむことで、多少、疲れが癒えるような心持ちのする人もいるでしょう。

眠いときは、身体が睡眠を欲しているのです。週末に長寝をしてしまうのは、すでに睡眠不足がたまっている証拠です。同様に、電車で寝てしまうのも、睡眠不足のあらわれ。そんな自分の睡眠の不足分を、どこでどのように補っていくか。

通勤電車のなかで眠ることも、自分のパワーナップのひとつになっている、と思えるようであれば、けっして悪いこととはいいきれないと思います。

二度寝も同じです。

よく「二度寝はいけない」といいますが、私は二度寝そのものの善し悪しよりも、「二度寝を必要とする普段の睡眠状態」のほうがむしろ問題だと思います。

スッと起きられないということは、それだけ身体が睡眠を欲している、つまり睡眠圧の放出が十分ではないのです。そこを考えて上手に二度寝できれば、二度寝は悪者とはいえません。

 

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