風邪には「温かいビールと乾いたパン」 ドイツ人に学ぶ、人生を楽しむコツ
2025年05月27日 公開

ドイツも日本も超高齢化社会。しかし、「年をとること」へのスタンスはそれぞれ違っているといいます。
ミュンヘン出身で、現在は日本で暮らすエッセイストのサンドラ・ヘフェリンさんによると、ドイツ人はあまり考えすぎず、さらりと老いていく人が多いのだとか。著書『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』では、いろいろなドイツ人に「老い」についてインタビューし、その考察がまとめられています。
彼らは老後の職業についてどんな考えを持っているのでしょうか。同書より紹介していきます。
※本稿は、サンドラ・ヘフェリン著『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)より、内容を一部抜粋・編集したものです
風邪をひいたら「温かいビール」で治す
「(人生は)いつ終わりかわからない。だから楽しくポジティブに生きる」
これはアコーディオン奏者のホルガー(Holger)さんの哲学です。3歳でアコーディオンを始め、ドイツの大学でアコーディオンと教会音楽を専攻し、音楽の博士号を取得。アメリカの大学で音楽療法(ミュージック・セラピー)を学び、「音楽が人の精神に及ぼす影響」について研究しました。日本唯一の「ドイツ国家認定最高演奏資格」をもつアコーディオン奏者です。
「心の中にある『楽しい』という気持ちは身体に影響するから、いつでもポジティブに生きたい。ネガティブにもなるけど、またポジティブな波が来るのを根気よく待つんだ。僕はいつもそうしてきた。人生にはアップ&ダウンがあって、いずれ乗り越えられると確信している」
ホルガーさんのポジティブ思考は「健康的な生活をすること」においても役立っています。65歳でダイエットをし、なんと半年で20キロもやせました。「105キロの体重が84キロになった」と聞いて、私は思わず「何をやったんですか!?」と叫んでしまいました。
「コーラをやめた。毎朝ジョギングをした。だいたい9キロ、最低でも6キロは走るね。それから朝と夜、腕立て伏せと腹筋を15回ずつ」
「コーラをやめた」と聞いて、「これなら私も真似できる」と一瞬思いましたが、その後のジョギングや筋トレはなかなかハードではありませんか。それを半年間も続けられているのは、ホルガーさんが「ストイックかつポジティブ」だからでしょう。目標体重は75キロ。だから最近の夜ご飯はもっぱら「お蕎麦とサラダ」なのだそうです。
ホルガーさんとは、東京のドイツ系弁護士事務所などがスポンサーになっている「北ドイツのケールの会」(Norddeutsches Grünkohlessen)で知り合いました。東京のホテルで開催される、ドイツ料理の食事会です。
「料理はいかがでしたか?」と聞いたところ、「塩分が高めだし、健康的な食事ではないね」とバッサリで笑ってしまいました。「実は、あの晩に出たジャガイモやソーセージをほとんど口にしなかった」とのことで、すべてきれいに平らげた私は反省しきりです!
最近あまりドイツ料理を食べないホルガーさんですが、唯一の例外はザワークラウト(Sauerkraut)〔註:ドイツ伝統の酢キャベツ〕です。これを食べると胃腸の調子が良いのだとか。
ちなみに「温かいビールと乾いたパン」を口にすると、軽い風邪なら治るというのがホルガー流。ドイツの昔からの民間療法に「風邪をひいたら温かいビールを飲む」というものがありますが、これはホップとモルト(麦芽)が免疫を高めると言われてきたからです。ホットにすればさらに身体も温まります。
「父親に教えてもらった南ドイツのアルゴイ(Allgäu)のレシピだけど、温かいビールはおいしいものではないので、小麦ビール(白ビール)にするとマズさが和らぐ」とのことです。
「○○なのに」の後に続ける言葉は?
ホルガーさんは日本に住み始めてすぐ、30代で心臓発作を起こしています。
「30代で心臓発作を起こしたのは、確かにネガティブなこと。でも、タバコもお酒もやっていなかったから、心臓発作から生き延びられたのだと自分では思っている」
これを聞いた私は「思考回路を改めなければ!」と強く思いました。もし私だったら、「タバコもお酒もやっていないのに心臓発作になった」とネガティブに捉えてしまいそうです。でもホルガーさんは「タバコもお酒もやっていなかったから、心臓発作から生き延びられた」と捉えているわけです。
「○○なのに」という言葉の後に、「病気になった」などネガティブな言葉を続けるとマイナスになってしまう。しかし、「○○なのに」の後に「生き延びられた」とポジティブな言葉を続ければ、プラスになる。これは小さいようで大きな違いです。
心臓が弱いこと、毎朝薬を飲むこと、定期的に通院すること。どれもホルガーさんにとって「生活の一部」です。「身体のために自分でできることは積極的にやる」、そして、温かいビールで風邪を治すという民間療法を受け継ぎつつ、「医師に頼るべきことは積極的に頼る」というのは、バランスがいいなと感じました。
退職後の「副業」はカメラマン
ホルガーさんが日本に住むきっかけとなったのは、チューバやコントラバスなど音楽仲間とともに日本でツアーをしていた1993年に、あるドイツの会社から「ソロの演奏活動をしてみないか」と声をかけられたことでした。
公演後に話が弾んだ観客の一人が、今の妻です。長年、日本の大学でドイツ語と音楽を教えていましたが、退職後の今も精力的に演奏活動を続けています。アコーディオン演奏でお客さんに喜んでもらい、一緒に盛り上がることができる――それがホルガーさんの楽しみであり「生きがい」なのです。
ホルガーさんの最近のもう一つの生きがいはカメラです。趣味を超えて本格的にスタートしたのは大学を早期退職した2019年から。その年の「北ドイツのケールの会」にカメラマンとして参加したところ、好評でした。私が出会った2023年の「ケールの会」では、撮影が忙しかったこともあって、"健康的でないドイツ料理"を食べていなかったのですね!
イベントでの撮影や個人からの依頼も増え、インタビューした日は「横浜の海沿いでアナウンサーの撮影をしてきた」と楽しそうに写真を見せてくれました。私も「ケールの会」で撮ってもらいましたが、「人が楽しそうにしている瞬間をキャッチするのが絶妙!」と感じました。きっとホルガーさん自身も楽しい雰囲気を醸し出しているからでしょう。
ホルガーさんにとって、音楽もカメラも趣味であり仕事です。演奏をしている時も写真を撮っている時もわくわくするような熱く強い気持ちなのだと彼は言います。だから「趣味なのか仕事なのか」はあまり考えず「好きだから」やっているそうです。
音楽という生涯続けてきたことを老後も現役で続けられるのは「理想中の理想」です。さらにカメラマンとしても収入を得るようになったのは、ポジティブ思考の賜物でしょうか。