ガーデナーが語る「イギリスの庭の四季」 自然とともに生きる人々の日常とは?
2025年10月24日 公開 2025年12月22日 更新
ガーデナーとしてイギリスで働き始めてから、あっという間に1年が経ちました。季節がめぐるたびに庭の表情が変わり、同じ庭が1つとしてないことを実感します。
そんな日々の中で、同僚と話していて、とても共感して心に残っている言葉があります。
「庭はお家以上に、その人の暮らしと性格を表すよね」
この言葉の意味を、日々お庭に関わる中で強く感じています。
庭が語る人の暮らし
私の働いているガーデニング会社は、個人のお庭に伺ってメンテナンスを行っています。
この1年で本当に多くの家の庭を見てきました。もちろんお庭の規模もデザインもそれぞれ違います。
ガーデナーを必要としないのでは? と思うような小さなお庭でも、普段から身の回りを気にかけない人の家は、どこかごちゃごちゃとしている。ゴミが散らかり、植物もただ"そこにあるだけ"のような印象です。
一方で、きちんと手をかけられた庭は、住む人の性格や生き方までも感じさせます。
メアリーのお家は丘の上にあり、家のどこからでも眺めが圧倒的。遠くの丘の裾に広がる草原まで見渡せます。お庭は傾斜を活かして石を組んだ花壇が横長にいくつも並び、低木が中心で、いつ来ても整っていて落ち着いた雰囲気。季節の移り変わりは穏やかですが、彼女らしい安定した美しさがあります。
キャサリンのお家は、また違った個性を放っています。
特別広い庭ではないけれど、石畳の通路を1マスくり抜いた隙間から小さな花が咲いていたり、花壇の中にさまざまな種類の植物が一緒に植えられていたり。計算されたデザインというより、"花を心から楽しんでいる"雰囲気が伝わってくる。
リチャードは、個人的に一番好きなお家を持っています。
茅葺き屋根と白い漆喰の壁が美しいコテージと呼ばれるお家。
家の正面には藤の蔓が絡まり、裏の広いお庭には無数の花壇があります。
秋の終盤まで白や紫の花が咲き乱れ、自然に見える配置の中に考え尽くされた緻密なデザインが隠れている。
そして、「ファーム」と呼ぶお庭は、みんな訪れたらきっと大好きになる。広大な敷地を高齢の家主が自ら大型の機械で管理しています。
古いレンガ造りの家の周りには、テーマごとに分かれたいくつもの庭。小道の雑草は丁寧に手入れされ、芝は短く刈り込まれ、花々は季節ごとに移り変わる。古くから続くお家でありながら、野放しにはせず、必要なところだけ手を入れ、直しながら受け継がれてきた美しさがあります。
どのお庭も本当に美しく、そこに暮らす人の生き方が見えてくるのです。やっぱり庭は、お家以上に"その人の暮らしを映す鏡"だと感じます。
四季とともに過ごす1年

イギリスに出発する前、フローリストの仲間たちに「ガーデナーって冬は仕事がないから、その時期に日本に手伝いに来てよ」と言われたことがありました。実際にガーデナーになってみて、「本当にそうなのかな?」と思いながら過ごしてみたら、ちゃんと1年を通してやることはありました。
ただ、確かに季節ごとに仕事の内容はまったく違ってきます。
春は、植物が一斉に芽吹く時期。
霜が終わり、寒さが落ち着くと、冬の間に残っていた植物やグラスを切り戻しします。土の中のドングリからはオークの新芽が伸び、クロッカス、スノードロップ、ブルーベル、水仙、チューリップなど球根の花たちが次々と咲き誇ります。お花が少しずつ咲きはじめるこの時期は、心がわくわくする季節です。
夏は、うまくいけば1年でいちばんお庭が綺麗な時期。
花々が一斉に咲き、庭全体が生命のエネルギーに包まれます。今年はずっと晴れ続きで少し乾燥気味。芝が茶色くなってしまったり、生垣のトリミングを控えたりもしました。それでも、お花の多様な色と勢いはやはり見事でした。
秋は、おそらく1年で一番忙しい季節。
植物が実を結び、落ち葉を落とし、次の季節の準備を始める。果物の収穫、栗拾い、落ち葉集め。今年は木々の下に生えたポルチーニ茸をたくさん収穫して、家でいただきました。自然の恵みを感じる、豊かな季節です。
冬は、植物が眠る静かな時期。
球根を春に向けて植えたり、木々の剪定を行ったりします。葉が落ちた冬は剪定に最適で、倒木を片付けたり、焚き火で燃やしたりして整理します。またこの時期は"庭の大掃除"。道具やパティオを洗い、ゆっくり1年の汚れを落とします。
イギリスの1年を通して感じるのは、"庭にもリズムがある"ということ。季節の変化に合わせて庭も、そして人の暮らしも少しずつ形を変えていくのです。
自然と人が共にある暮らし
イギリス人にとって、庭は"特別な管理された空間"ではなく、"すぐそばにある日常"です。
もちろん日本にも素敵なお庭はたくさんありますが、どちらかというと「きちんと整える」意識が強い気がします。イギリスではもっと自由で、人と自然の距離が近い。
前回も少しお話ししたように、ライフステージによってお庭との向き合い方も変わっていきます。
若い夫婦は芝生でピクニックを、家族は子どもとボール遊びを、年配の方は花壇を丁寧に整える。
雨や曇りが多いイギリスだからこそ、少しでも晴れれば太陽を思い切り楽しむ。パブの外の席がすぐ満席になるように、お庭でも同じように"光を浴びる時間"を大切にしています。
ガーデニングは"やらなければならない労働"ではなく、"心を整える時間"。庭で過ごす時間は、誰かに見せるためではなく、自分自身を取り戻すためのもの。そんな日常の中に、イギリス人の豊かさがあるように思います。
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今、私はとある大きな邸宅のお庭の開発に携わっています。古いイギリス式の家を新しく購入した家族が、どうお庭を生かしていくか、試行錯誤している最中です。
近くの別の邸宅を見学に行ったとき、そこも最初は何もない土地から見事な庭に生まれ変わっていました。邸宅の開発の相談をそこの別のガーデナーにすると、彼は当たり前のように言いました。「お庭だよ? ただ楽しもうよ」と。
その言葉が心に残っています。私たちは日々、効率や成果を追いかけがちですが、お庭づくりに限らず、"楽しむ心"を忘れてはいけない。
この1年で私は、"手をかけること"が"心を耕すこと"につながると感じました。庭をつくることは、自分をつくることでもある。人にもキャラクターがあるように、お庭にも個性がある。庭は花や木だけでなく、そこに関わる人の心も育てていくのだと思います。
【加藤栞(かとう・しおり)】
日本ではフローリストとして、5つ星ホテルのウェディング装飾やブティック・イベント・撮影現場での装花、ギフト制作などに携わる。2024年よりイギリスへ拠点を移し、ロンドン郊外でガーデナーとして活動中。







