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新 将命・絶対に、人任せにしてはならない経営者の仕事とは

新将命(国際ビジネスブレイン社長)

2013年05月27日 公開 2023年02月08日 更新

新将命

《オーディオ教材『伸びる会社は社長がつくる』より》

数々のグローバルカンパニーで経営を担い、「伝説のトップ」の異名をもつ新将命氏が語る「優れた会社の条件」とは何か。

経営者が、人任せにしてはならない3つの仕事

 人を育てるのに、もっとも効果的な方法は任せることであるとよく言います。権限移譲という問題です。私は、基本的にこの考え方には賛成です。任せて、ある意味では失敗するチャンスを与えなければ、人は伸びないと思います。けれども、その一方で、社長として絶対に人、または部下に任せてはいけないという責務があります。 

 それは何かと言いますと、まず、企業哲学、企業理念の問題です。2番目は、生きた計画づくり、つまり戦略設定です。そして3番目は、人についての基本的なポリシー、方針です。わが社の社員をどういうふうに動機づけて、どういうふうな人間に育て上げていくかということについての基本的な考え方を明確にすることです。この3つは、社長自らの問題として考え、決定していかなければなりません。 

 もちろん、この決定に至るまでの過程においては、いろいろな社員の、あるいは社外の人の意見を聞き、謙虚に耳を傾けることは必要です。しかし決定だけは、社長自らの責任において下さなければならないということを、強く認識していただきたいと思います。

 そこで今回は、1番目の、企業哲学、企業理念ということについて、お話をしてみたいと思います。

 哲学とか理念とかいいますと、どうも、もやもやとした、それこそ雲をつかむような話だという感じを持つかもしれません。しかし、これは簡単に言いますと、「わが社がこの世に存在していて果たすべき責任は何か」「何のためにわが社は生存しているのか」ということについて、経営者がしっかりとした考え方を持つということだと思います。

 具体的に言いますと、「優れた会社」の多くでは、企業理念、企業哲学が、まず紙に書いてあるということです。トップの一握りの人間の頭の中だけに、大切に仕舞ってあるということでは困るわけで、紙に書いてあることによって、考え方が整理されているということです。2番目は、その内容が、あまねく全社員にコミュニケートされている、伝えられているということです。そして3番目、これが非常に大事な点なのですが、その企業理念、企業哲学が現実問題として日常の会社の業務に生かされているということであります。そうでなければ、文字通り「仏をつくって魂入れず」ということになってしまいます。

 こういう話を聞いたことがあります。これはアメリカの例ですけれども、中小・中堅企業の30社に共通的な特徴があったそうです。何かというと、会長、社長、トップの人たちが企業理念づくりに対して非常に熱心であって、紙に書いてコミュニケーションを図って、仕事に適応しようという努力を現実に毎日しているというのです。

もう30社、同じような業界の同じような規模の会社を選んだところ、この30社にも共通的な特徴がありました。それは、トップが企業理念などあっても儲かるわけではない、時間の無駄だと、こう考える30社であったそうです。

 そして、この60社について10年間という長い年月にわたって業績の追跡調査をやったところ、おもしろいことがわかりました。トップが企業理念を明確に掲げていた30社の場合は、この10年間における、年平均の売上の伸びが14%であったそうです。それに対して、企業理念なんかどうでもいいというトップを抱えた30社の10年間の売上の伸びは、平均3.2%であったというのです。こういう、非常におもしろい話をアメリカで聞いたことがございます。

 人はそれぞれにさまざまな考え方をもちますから、戦術とか細かな業務の場における考え方の相違はあっていい、むしろあるべきだと思います。しかし、「わが社の存在理由は何か」という基本的な考え方の段階においては、全社員の考え方をしっかりと結ぶ、太い強い命綱が会社にある場合とない場合では、経営に対するアゲインストの風が吹いてきたときの対抗力や持久力に、大きな差が出てくるのではないかと思うのです。

 企業理念について、私は3段階あると考えます。まず、「わが社の責任はこうであるべきだ」「こういう使命を果たすべきだ」という考え方です。この段階にある間は、これは哲学であります。やさしく言えば、ものの考え方であり、「心」という段階です。

 その企業理念が、簡単なものであっても紙に書かれますと、これは社訓とか社是とよばれ、心から紙へと移ってきます。そして、紙に書かれたものが、実際の日常の仕事に生かされるということになりますと、つまり「行動」に移されることになります。この行動が長い間に積み重ねられた結果、何ができてくるかというと、これが社風であり企業文化ということになっていきます。

 もう一度言いますと、哲学・理念の段階では、これは「心」です。これが社是・社訓として紙に書かれると「言葉」ということになります。それから、最後にそれが実際に仕事に移されて、「行動」ということになると、これが社風、企業文化ということになります。「心」から「言葉」、それから「行動」というふうに移っていくのです。

 この、紙に書かれてから日常の仕事に生かされながら、それが、しかと会社の中に根を下ろすと、どのぐらい時間がかかるのでしょうか。私は、これは早くて15年、だいたいは20年ぐらいは覚悟しておかなければならない仕事だと思います。簡単に出来上がったものは、裏返していえば、簡単につぶれてしまうわけですから。やはり、この時間という試練を経なければ、深く根を張ることはないのです。しかし、誰かがどこかで、その仕事を始めなければいけません。種まきを始めなければなりません。もしかしたら、みなさんの会社にとって、その日は昨日だったかもしれません。あるいは今日かもしれません。この点について、ぜひ、お考えいただきたいと思うのです。

◆ PHP研究所ではこの度、数々のグローバル・カンパニーで経営を担い、“伝説の外資トップ”の異名をもつ新将命氏をお迎えし、経営者を対象にした少人数の本格講座 「新将命の"実践”経営道場」 を開講します。「経営の原理原則とそれを実践する実学」をともに学びあう場として、ぜひご参加ください。<詳しくはこちら>

 

 新 将命

(あたらし・まさみ)

〔株〕国際ビジネスブレイン代表取締役社長

シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年3月まで住友商事のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。グローバルな経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」の使命に取り組んでいる。著書に『経営の教科書』(ダイヤモンド社)、『[新版]自分を高め会社を動かす99の鉄則』(PHP研究所) ほか多数。

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