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AIで完璧なESでも「受かる」「落ちる」が分かれる理由 面接官が見るポイント

土井裕介(社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所 特定社会保険労務士)

2026年08月04日 公開

AIで完璧なESでも「受かる」「落ちる」が分かれる理由 面接官が見るポイント

生成AIの普及でエントリーシートや採用のあり方が激変しています。体裁が整えられた文章に惑わされず、応募者の「真の実力」を見抜くには何が必要か。特定社会保険労務士の土井裕介氏が面接の本質を解説します。

 

「ESは完璧なのに…」面接でメッキが剥がれるAI時代の就活

「最近の学生のエントリーシートは、本当に完成度が高いですね」
採用担当者と話していると、そんな声を耳にする機会が増えました。しかし、その後に続く言葉は少し複雑です。

「ただ、面接で会うと別人みたいなんです」
エントリーシートでは論理的で自己分析も深く、将来のキャリアビジョンも明確に語られている。ところが面接になると、自分の言葉で説明できなかったり、少し質問の角度を変えると答えに詰まったりする。

採用現場では今、「なぜこんなことが起きるのか」という戸惑いが広がっています。背景にあるのは、言うまでもなく生成AIの急速な普及です。

ChatGPTやGeminiをはじめとした生成AIは、就職活動のあり方を大きく変えました。エントリーシートの添削だけではありません。自己PRの作成、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)の整理、面接想定問答の作成まで、就職活動のほぼ全工程をサポートできるようになっているのです。

かつては適切な文章で表現力もあるいわゆる「文章力が高い学生」が有利でした。ところが今は、AIを活用すれば誰でも一定水準以上の文章を作れる時代になっているのです。採用活動は新たな局面に入ったと言えるでしょう。

 

完璧なESに人事が抱く「拭えない違和感」

私は企業の人事担当者や採用責任者から相談を受ける機会がありますが、この1年ほどで明らかによく聞くようになった話があります。「エントリーシートだけでは判断できなくなった」というものです。

実際、ある企業の採用担当者はこんな経験を語っていました。
応募者のエントリーシートには、「店舗の売上向上のために顧客分析を行い、施策を提案した」と書かれていました。内容は具体的で、課題発見から改善策の実行まで見事に整理されています。

ところが面接で、「どんな状況だったのか。なぜその施策を考えたのか。もう少し具体的に教えてください」と対話の中で踏み込んで聞いてみると息詰まってしまい、答えられない。さらに、「もし同じ状況になったら別の方法はありますか」と聞くと沈黙してしまったそうです。

もちろん、緊張していた可能性もあります。しかし、採用担当者はこう感じたと言います。「文章は素晴らしい。でも、エントリーシートと面接ではギャップがあり、その人自身が見えてこない」

この感覚こそ、多くの採用担当者が抱いている違和感ではないでしょうか。生成AIは文章を整えることが得意です。しかし、本人が経験した苦労や葛藤、失敗から学んだことまでの熱量を完全に再現できるわけではありません。

だからこそ現在の採用活動では、「何を書いたか」よりも「どのように考えたか」の重要性が高まっています。

生成AIの活用が当たり前になっている今、「素晴らしいエントリーシート=優秀な人材」とは言えなくなっています。AIを活用して体裁は整えられているが中身のない人。その反対に、AIは使っておらずエントリーシート自体は完璧とは言えないが会社に対しての熱量や思考と行動が一貫している人。単にエントリーシートで判断することにより、人の本質を見抜くことが難しくなっています。言い方を変えれば、エントリーシートで判断する時代は終わっていると言えるのではないでしょうか。

 

AIで答えはつくれても…AIネイティブ世代の「強み」と罠

現在の学生はAIがある環境で育った世代です。私たちがインターネット検索を当たり前に使うように、彼らにとってAIは電卓や検索エンジンと同じツールの一つです。

そのため、「AIを使ったから評価しない」という考え方は現実的ではありません。むしろ企業で求められるのは、AIを使いながら成果を出せる人材です。

実際、企業の現場でも営業職は提案書作成、人事は求人票作成、管理職は会議資料の整理など様々な場面でAIが活用されています。

一方でAIネイティブ世代には弱みもあります。それは「答えを作ること」と「考えること」が混同されやすい点です。AIを使えば一定水準の答えはすぐに手に入ります。しかし、

・なぜそう考えたのか
・何を優先したのか
・どのような選択肢で迷ったのか

こうした意思決定の過程までは代替できません。

企業が本当に知りたいのも実はここです。つまり、これからの採用活動で重要なのは「何を作ったか」ではなく「どのように考えたか」を見極めることなのです。

 

AI活用が進んでも変わらない「採用の原則」

では企業は何を見ればよいのでしょうか。私は社会保険労務士として多くの企業の採用担当者とも関わってきました。その中で感じるのは、AIの活用が広がっても採用にあたっての原則は変わらないということです。

例えば、何を一番に求めるかによって聞く質問は変わります。主体性の高い人材を採りたい企業があったとします。その場合、「学生時代に何を頑張りましたか」という質問だけでは不十分です。なぜならAIを使えば魅力的なエピソードはいくらでも整理できるからです。

それよりも、「最も困難だった場面で何に悩みましたか」「そのとき他にどんな選択肢がありましたか」「なぜその選択をしたのですか」と掘り下げていく方が、その人の価値観や行動特性が見えてきます。この価値観、行動特性こそ企業が欲しい人材か判断するにあたり重要な要素です。

実際にある企業では、面接で「成功体験」ではなく「失敗したときにどう考えたか」を重点的に聞くようにしたところ、入社後の定着率が向上したそうです。結果そのものよりも、そこに至る思考のプロセスが自社の価値観と合致している人材を採用できるようになったからです。

採用とは能力を測る作業ではありません。自社に合う人材を見つける作業です。だからこそ企業はまず、「自社はどのような人材を求めているのか」を明確にする必要があります。そして、その人物像に照らして、応募者がどのような場面で何を考え、どのような判断をしてきたのかを対話の中で確認していく。

AIの活用が進んでもこれらは以前から変わらず行われてきたことではないでしょうか。むしろAIの活用が進んだからこそリアルの場での問いかけがより重要な位置づけとなっているのです。これがAI時代の面接の本質と言えるでしょう。

完璧すぎるエントリーシートに振り回される必要はありません。エントリーシートはあくまで入口です。AIを使ったかどうかも本質ではありません。むしろAIを活用することは、これからのビジネスパーソンにとって当たり前の能力になっていくでしょう。

重要なのは、その人がAIをどのように使ったのか。そして、その人が学生生活の中でどのような判断を積み重ねてきたのかです。

採用担当者が見抜くべきなのは文章の完成度ではありません。その裏側にある思考のプロセスです。生成AIが普及した今だからこそ、企業は「何を書いたか」ではなく「どう考えたか」を問う時代に入ったのです。

プロフィール

土井裕介(どい・ゆうすけ)

社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所 特定社会保険労務士

医療労務コンサルタント、ジョブオペTM認定コンサルタント。静岡県出身。家族の病気をきっかけに医療現場の働き方を目の当たりにする。働きやすい医療現場作りに貢献したいと考えコンサル業務に取り組む。また、フジテレビの番組「Live News イット!」において「調べてみたら」の年金コーナーの監修を行うなど、各種メディアへの執筆を通してわかりやすい制度の解説を心がけている。
大槻経営労務管理事務所HP:https://otuki.info/

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