「新卒一括採用は悪」は本当か? 日本の就活システムが持つ意外な強み
2026年06月08日 公開
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『日本の就活 ――新卒一括採用は「悪」なのか』(常見 陽平著、岩波新書)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
日本の就活は問題なのか

人生において思うようにならないことは多いものです。学生の間でも、友人、恋愛、学業、部活動、受験、など次々と人生の難題がふりかかってきます。誰もがその一つ、あるいはいくつかで大きな失敗経験があるのではないでしょうか。
そして、学生生活の最後の砦として立ちはだかるのが、本書のテーマである就活です。内定難易度ランキングのような記事は大量にあり、好待遇で知名度の高い優良企業の少ない椅子をかけて、激戦が繰り広げられます。もはやそれこそが、偏差値教育のなれの果てとでも言うべきものに見えます。
求める人材像についても、コミュニケーション能力、主体的思考力、リーダーシップ力などから始まり多様な側面に及びます。そのような人物だったら即社長ではないか、と感じる人も私だけではないはずです。さらに応募者により自分こそがその希少な人材です、というアピールを繰り広げられます。
もうそのような就活はやめにしよう、という意見がメディアで繰り返されるのもわからなくはないでしょう。しかし、本当に日本の新卒一括採用という仕組みは悪いことばかりなのかというと、そうとは言い切れなさそうです。本書はそのような就活を総合的に俯瞰できる一冊と言えるでしょう。新卒一括採用とは何を表すのか、という原点から本書の内容に触れていきます。
新卒一括採用
厚生労働省が設置した今後の若年者雇用に関する研究会によると、新卒一括採用は次のように定義されるといいます。
「企業が計画的・継続的に、卒業予定の学生・生徒に対象を限定し(近年は概ね既卒3年以内の者を対象に含む場合も多いもの)募集・選考を行い、卒業時(通常春季)に一括して採用を行う慣行。大企業を中心とした、基幹人材を基本的にこうした新卒採用及びその計画的養成により賄う人事方針(中途採用等は新卒採用の未充足、見込を上回る転職等が発生した場合のあくまで補充的位置づけ)としての側面を指す場合も多いもの。」
これはたしかに私たちが認識している新卒一括採用だと言えるものです。卒業予定の学生・生徒に限定した募集・選考があるということは、これから仕事を探そうという人にとっては便利な側面もあります。日本の若年失業率は世界の各国と比較して低く抑えられており、このシステムは未経験者の就業機会をなかば強制的に提供できる仕組みとして有効とも言えそうです。
4つのマッチング手段
実際に人を採用する役割になってみると、内定企業のレベル分けなどの議論がいかに本質とは離れているか、ということに気づかされます。適切な学校の選択が重要である以上に、会社こそ多様な存在でその個人に合っているかどうかが大事です。ほぼ均一に定義された人材像であることを演じるのではなく、生身の人間として等身大の姿を面接で見せ、アピールすべきことはしっかり伝えることが大事です。そのスタンスで臨み会社に合っていると言われるようなところがその人に合った会社なのだと思いますし、面接をする人は飾られた姿ではなく求職者の真の姿を見る目が必要でしょう。
今の就活には4つに分類されるアプローチがあって、それぞれ本書で紹介されています。就職ナビに代表される「メディア」、中途採用同様の「エージェント」、公開した自分のプロフィールに対して企業側からアプローチがある「スカウト」、社員の紹介からの採用である「リファラル」の4つが該当します。
その中でも「スカウト」や「リファラル」は近年発達してきた手法で、会社側の視点からも知名度に頼らず個々の会社の魅力を具体的に伝えられる点で特長のあるものです。スタートアップ企業など特色ある会社の個性と求職者の個性を結びつけるためにも、幅広いアプローチを駆使していくことも重要と言えます。
一般的な就活の姿
インスタグラムやXなどのSNS上ではいわゆる有名大学出身者が有名企業に内定していく様子がポストされ、メディアでも取り上げられていきます。ただ、就活生の大多数は違った景色を見ています。著者の常見氏は一貫して採用領域に関わってきた後に中堅の大学の教員として就活の支援も担われています。
就活の現場では、大学3年になる前後から複数のインターンシップを経験し、多数の会社説明会に参加するような学生はむしろ珍しいといいます。何から始めたらいいかわからず、きめ細やかなサポートが必要な学生も多いそうです。他にはやりたいことが見つからない、というのも就活生の共通の悩みのようです。
これは社会人に聞いても実際は同じようなものかもしれません。今は転職も一般化していることに加え、自己研鑽という観点でも本や新聞などに限らず、有料・無料の動画やサービスを活用すれば、あらゆることが学べる時代です。つまり、その人次第という自由度がある一方で、その人次第という残酷なまでに自己責任の時代でもあります。そこで輝かしいキャリアを歩めるかどうかという点で、はじめに入る会社は大事な一歩です。理想通りとはならなくても、少なくとも自分自身が納得して自分で決めたというプロセスはしっかり提供してあげたいものです。
新卒一括採用の是非
新卒の就職者は、直近5年間において年間45万人弱にもおよぶと本書でも言及されています。海外の就職のように経験者を優遇する仕組みになると、若年層の失業率にも悪影響があるかもしれません。加えて、今は生成AIの時代です。今まで求められた事務作業、分析作業、議事録作成などの社会人としての基礎力を習得できる機会は減っていくでしょう。だからこそ未経験者とキャリアの接続点は大事になってきます。
すでに一部の職種では、未経験者よりも上位の経験者を今まで以上に優遇する動きは始まっています。そのような社会の変化から、新卒一括採用の大枠の仕組みは残し、個々の課題は対策をしていくべきだとも感じます。
本書で語られていて印象的だったのは、企業が求める価値観・志向・職種の多様性と採用プロセスの多様性を区別せず、新卒では定まったプロセスがあることを理由に、日本の人材に多様性が生まれないとする乱暴な議論はすべきでない、ということです。多様性の優れた人材獲得と採用プロセスの活用はうまく組み合わせられるもので、採用する側も批評する側も解像度の高い議論が求められます。
本書は、客観的なデータと著者の経験に基づく主観的な意見のバランスが優れ、新卒一括採用の全容を理解できる頼りになる作品です。経営層や人事、就活生に限らず、子供を持つ親やただ就活への理解を深めたい方など、幅広い人にお薦めできます。気になる方はぜひ手に取ってみて下さい。







