「バレるかも」の恐怖が快感に なぜ人は盗撮にハマり、抜け出せなくなるのか
2026年08月07日 公開
なぜ人は盗撮をやめられないのか? 精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは著書『校内盗撮』にて、単なる性欲ではなく、落語の「緊張と緊張の緩和」にも通じる「脳の依存メカニズム」から、盗撮依存の実態と再発防止策を解説しています。今回、そんな興味深い研究結果を同書よりご紹介します。
※本稿は、斉藤章佳著『校内盗撮』(集英社インターナショナル)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「バレるかもしれない」が快感になるとき
なぜ人は盗撮にハマるのか。依存症としての盗撮を理解する上でポイントになるのが、「〈緊張〉と〈緊張の緩和〉」という考え方です。
この〈緊張〉と〈緊張の緩和〉とは、もともとは落語家の桂枝雀さんが唱えた笑いの理論です。たとえば葬儀など厳粛な場では、「お坊さんの頭にハエが止まった」など、ごく些細なハプニングですら参列客の笑いを引き起こすきっかけになりえます。このように、場の空気が張り詰めているとき(緊張)に、ふっと和ませる(緊張の緩和)ことで、笑いが生まれる現象。これが〈緊張〉と〈緊張の緩和〉です。プロの漫才師やお笑い芸人の「ネタ」も、基本的にはこのフォーマットに則っているといわれています。
そしてこれは、盗撮を繰り返してしまうメカニズムにもよく当てはまります。盗撮を実行する直前の期待、そして加害者は「やりたい」という欲求と「見つかったらどうしよう」という激しい葛藤に苛まれ、極度の緊張状態に置かれます。
その後、被害者や周囲に気づかれることなく盗撮を終え、人目につかない場所で画像や動画を確認した瞬間、その緊張感は安堵感や達成感へと変わります。まるで振り子が急激に振れるように、緊張が緩和へと変わるとき、脳内では職場や家庭でのプレッシャー、将来への不安、生きづらさといった苦痛が一時的に遠ざかる感覚になるのです。先ほど例に挙げた校内盗撮を繰り返していた田中氏も、筆箱に隠し入れていたスマホのデータを確認した瞬間、この〈緊張〉と〈緊張の緩和〉による達成感や優越感を得ていたに違いありません。
こうしたメカニズムは盗撮に限らず、あらゆる依存症に共通するものです。アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM -5」においても、万引きがやめられない「窃盗症」の基準として、「実行直前の緊張の高まり」と「実行時の快感や満足、解放感」が明記されています。万引きをする前のヒリつくような〈緊張感〉と、万引きを終えた後の「バレなかった」という〈緊張の緩和〉。このスリルそのものにハマって、やがて欲しくないのに万引きをしてしまう。この感覚は、窃盗症でない方にもイメージしやすいと思います。
「盗撮のスリル」にハマる脳のカラクリ
「盗撮をやめていると、断食をしているみたいなんです。頭の中に条件反射の回路ができていて、最後には自己使用(自慰)しなくなり、『盗撮のための盗撮』になっていくんです」
これは、かつてプログラムの受講者が口にした言葉ですが、盗撮と脳内メカニズムの関係を端的に示しています。
やや専門的になりますが、こうした状態は、「報酬系回路の機能不全」と呼ばれます。報酬系とは、快感や達成感などの「ご褒美(報酬)を脳が感じるときに働くネットワークです。
アルコールや薬物を摂取する。盗撮や痴漢といった性的問題行動に及ぶ。このような場合、脳内では報酬系が刺激され、快楽を司る神経伝達物質「ドーパミン」が大量に分泌されます。
やがて盗撮をした直後に、性的な快感を得たり、「見つからずに済んだ」という負の成功体験を味わったりすると、脳はその体験と記憶を強烈に学習してしまいます。
すると、「女性の尻を目にする」などといった特定のきっかけ(トリガー)が与えられただけで、脳が報酬を予期して、本人の意識とは無関係に、「盗撮しなければいけない」といった強い渇望や衝動が引き起こされるようになります。これこそが、「断食」にも似た強い飢餓感の正体です。
驚くべきことに、当クリニックを盗撮で受診した1031名のうち、半数近くは自己使用を目的に盗撮していません。(図2 -1)つまり、性的興奮よりも「盗撮という行為そのもの」に伴う〈緊張〉と〈緊張の緩和〉が、目的化しているのです。これが「盗撮のための盗撮」です。この回路が一度でき上がると、本人がどれほど強い意志でやめようとしても、自力で食い止めることはきわめて困難です。

ここまで述べてきたように、繰り返す盗撮行為には依存症の側面があります。しかし、だからといって性加害者は「病気だからしかたない」とその罪を免れることができるわけでは当然ありません。再犯を防ぐためには、加害をした「原因」と、自分が犯した罪の「責任」は、しっかりと分けて考えなくてはならないのです。加害者臨床の現場でも、性加害を「病気だからしかたない」と病理化するのではなく、行為責任を明確化した上で、プログラムを行っています。
名古屋市で発覚した教員グループによる盗撮事件でも、「変態教師による鬼畜の所業」など、センセーショナルに取り上げる記事が散見されました。しかし実は、繰り返す加害行為の背景には認知の歪み、ストレス対処法のレパートリーの少なさ、過去の逆境体験、報酬系回路の機能不全、小児性愛症という性嗜好など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているのです。
「性欲を抑えられなかったから、校内盗撮をした」と議論を短絡化させたり、加害者を悪魔化したりするだけでは、有効な再発防止策につながりません。性欲や倫理観だけでは断罪できない、「やめたくてもやめられない」依存症としての盗撮。このメカニズムを知ることが、新たな被害者を生まないためのひとつの足がかりとなるのです。









