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クマが出没する「危険な時間帯」とは?専門家が教える正しい対策【解説】

山﨑晃司(茨城県自然博物館館長 東京農業大学名誉教授)

2026年09月23日 公開

クマが出没する「危険な時間帯」とは?専門家が教える正しい対策【解説】

テントにクマ撃退スプレーを予防的に撒くのはNG(イラスト=瀬川尚志)

クマとの遭遇を避けるには、鈴や撃退スプレーなどの装備だけに頼るのではなく、クマの行動を知り、出遭いにくい状況をつくることが重要です。
特に注意したいのが、活動が活発になる朝夕の薄暗い時間帯や、ランニングなどでクマに急接近してしまうケースです。一方、ネット上などで紹介される「クマよけ」には、効果が十分に検証されていないものも少なくありません。

東京農業大学名誉教授の山﨑晃司氏が、クマとの遭遇リスクを下げる行動と、最新の忌避対策を科学的な視点から解説します。

※本稿は、山﨑晃司・編著『クマに出遭ってしまったら? 』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

薄暗い時間帯を避ける

クマは通常、朝夕の薄暗い時間帯に活動が活発になる昼行性です。クマの出没が心配される地域や時期には、日の出前後や日没前後のウォーキングやジョギング、イヌの散歩などは控えたほうがよいでしょう。
動画サイトで飼いイヌがクマを撃退するAI生成動画がやたらと増えた時期がありましたが、実際は特殊な訓練を受けたイヌでなければ、クマを追い払うことはできません。むしろ、興奮したクマを飼い主のところに引き連れて戻ってきてしまうこともあるので大変危険です。

【POINT】
▼クマが出没する可能性がある地域では、薄暗い時間帯の外での活動を控える。
▼一般的な飼いイヌがクマを追い払うことはできない。

 

クマに逃げる時間を与える

クマは基本的に人を避ける動物ですが、クマが逃げるための時間的な余裕を与えないスピードでの接近は、クマの防御的攻撃を誘発してしまいます。2025年の北海道の羅臼岳登山道ヒグマ人身事故や、本書では詳細を紹介していませんが、2008年8月に東京都の多摩山地で登山トレーニングのためにランニングをしている最中に、親子グマの間に入ってしまい襲われた登山家の人身事故などがこのパターンにあてはまります。

野山を駆けるトレイルランや、マウンテンバイクで急斜面を下るダウンヒルなどでクマに出遭うようなことがあれば、クマには逃げる時間がありません。大人数でのレースであればクマは近づかないとも考えられますが、単独でのトレーニングなどの活動はクマとの遭遇リスクを増大させる危険があります。

【POINT】
▼クマに人から逃げる時間的な余裕がないと、追い詰められて攻撃に転じる危険がある。
▼ランニングや山中でのレースは、クマに逃げる時間を与える間もなく接近してしまう可能性があるので注意が必要。

 

クマをよせつけない新たな試み

個人のアイデアとして、クマの優れた嗅覚を逆手にとって蚊取り線香などのにおいを発するものを身につけたり、空のペットボトルをぺこぺこ鳴らしたりする対策がネット情報などで報告されています。また、携帯用の高周波を発する音響装置なども市販されるようになりました。ただし、一定条件でくり返し効果を検証する、あるいは対照試験を並行して比較するなど、きちんとした実験を行なって統計的に評価した製品はまだないようです。

クマがいやがるにおいや音については、まだ十分には解明されていません。クマは刺激物に興味を示す動物で、スギやヒノキといった針葉樹に含まれるテルペンなどの芳香性物質に引き寄せられたり、シュウ酸カルシウムを多量に含むマムシグサ科の植物の根や茎を好んで食べたりもします。ペンキなどの有機溶剤、クレオソートなどの防腐剤も大好きで、ペンキ缶をかじって体をこすりつけたり、道標や木道をかじり削ったりすることもあるほどです。したがって、刺激性のある物質は逆にクマを呼び寄せる可能性も高いといえるでしょう。

クマ撃退スプレーも、予防的にテントの周りに撒く人がいるようですが、スプレーの効果はクマの粘膜部に直接噴霧した場合の“痛み”であり、単に撒いてしまうとかえってクマの好奇心を誘うかもしれません。
音についても高い周波数を発するクマよけ製品が販売されていますが、どの程度の効果があるのかは不明です。子グマを除き、クマはほとんど音声を発しないので、音声がどのようにコミュニケーションに影響しているのかもよくわかっていません。

アフリカゾウなどは、人が聞こえる範囲(約20Hz)よりも下の低周波域を使って長距離コミュニケーションをとっていることが知られています。もしも、クマにもそのような音声コミュニケーションがあり、個体同士で危険な存在を伝達するチャンネルが存在するのであれば、そうした音声を人工的に再現することでクマよけが可能になるかもしれません。クマの可聴域に関する研究はこれからの課題となっています。

個人で利用できるクマ情報についても触れておきましょう。近年の深刻なクマ出没にともない、多くの自治体はクマの出没情報をウェブサイトで公開しています。たとえば東京都の「TOKYOくまっぷ」や、秋田県の「クマダス」などがあります。また、自然公園を管理するビジターセンターやインフォメーションセンターなどでは、管轄内のクマの出没情報をマッピングして掲示したりもしています。このような情報を事前に手に入れることにより、クマと出遭う可能性を低減することができるので、ぜひ利用しましょう。

このほかにもクマを遠ざけるためのさまざまな試みがなされています。再現性のある効果が実証されれば、大きな商機にもなります。そのため、さまざまな企業が商品開発に取り組んでいるほか、鉄道各社やNEXCO各社などの交通機関の管理者も忌避剤の開発や、クマの存在を検出するためのシステムづくりに挑戦しています。

【POINT】
▼クマ撃退スプレーを予防的に撒くのは意味がなく、かえってクマを引き寄せてしまう危険もある。
▼自治体や自然公園の管理者などが発信しているクマの出没情報を事前にチェックする。

プロフィール

山﨑晃司(やまざき・こうじ)

茨城県自然博物館館長 東京農業大学名誉教授

1961年東京都調布市出身。 森林動物生態学が専門。東京農工大学連合大学院博士(農学)。ザンビア国立公園局野生動物調査官、東京都高尾自然科学博物館学芸員、茨城県自然博物館首席学芸員、東京農業大学地域環境科学部教授を経て、茨城県自然博物館館長。元日本クマネットワーク代表、元International Association for Bear Research and Management 理事、IUCNクマ専門家委員会委員、東京都自然環境保全審議会鳥獣部会長、千葉県環境審議会鳥獣部会長、環境省鳥獣保護管理プランナーなどを務める。著書に『日本のクマ』(東京大学出版会・共編著)、『ツキノワグマ すぐそこにいる野生動物』(東京大学出版会)、『ムーン・ベアも月を見ている』(フライの雑誌社)、『クマとともに』(東京大学出版会・共著)など。

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