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若者と中高年、どちらの「読解力」が優れている? 国際調査で判明した意外な事実

飯田一史(出版ジャーナリスト)

2026年10月29日 公開

若者と中高年、どちらの「読解力」が優れている? 国際調査で判明した意外な事実

「最近の若者は文章が読めない」「昔に比べて読解力が落ちている」...そんな声を耳にすることは少なくありません。

しかし、OECD(経済協力開発機構)が15歳を対象に実施する国際学力調査「PISA」の2022年調査では、日本はOECD加盟国中2位。世界トップクラスの成績を収めています。

では、成人についてはどうなのでしょうか。若者は中高年と比べて、読解力は高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか。

その手がかりとなるのが、成人を対象とした国際調査「PIAAC」です。調査データから浮かび上がった、世代間の読解力をめぐる実態を、書籍『「若者の読解力低下」というウソ』より紹介します。

※本稿は、飯田一史著『「若者の読解力低下」というウソ』(集英社インターナショナル)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

PISAに似ているPIAAC

学力低下・読解力低下騒動の歴史に入るまえに、おそらく少なくない読者が気になっているであろう「PISAで測定している15歳の子どもの能力ではなく、日本人の大人、とくに若者の読解力はどうなのか?」ということについて整理しておこう。

大人の読解リテラシーについては、国際成人力調査PIAAC(Programme for the International Assessment of Adult Competencies)でわかる。

PISAは15歳の生徒(学校に通っている層)が対象なのに対し、PIAACは学校に通っていない若者や非就業者を含む16歳以上65歳以下の全成人が対象だ。やはりOECDが中心となって実施している、成人のスキルを測定するための国際比較調査である。

「成人のスキル」(成人力)と言われても、なんのことかと思うだろう。

PIAACで測定する「成人力」は、

・日常生活や職場のさまざまな場面において
・文章や図などで提供された情報を理解し
・それらを活用して課題を解決する

という、実社会での総合的なスキルのことだ。学校教育や職業訓練、生涯学習など、各国の人材育成政策を改善・立案するための客観的なデータを得ることを目的としている。

PISAと似てるな、と思ったかもしれない。そのとおりである。

PISAとPIAACは、ほぼ共通の思想に基づいて設計されている。PIAACの枠組み自体が、先行するPISAから影響を受けている。たとえば両者はともに「読解リテラシー」「数学的リテラシー・数的思考力」「問題解決能力」という共通の領域を測定している。もっとも、同じ組織が年齢を変えて行う調査で、あまりにも違うことをやられても、それもどうかという話だ。

ただ、完全に同じではない。PISAの数学的リテラシーでは一次関数の傾きや図形問題のような、学校で習う数学知識を求める問題が含まれる。一方でPIAACの数的思考力は、基本的には高度な数学の公式を知らなくても解けるようにできているという。

また、PISAの読解リテラシーでは連続した長い文章を読んで情報を統合し、よく考えさせる問題の比率が高い(約60%)。対して、PIAACはウェブサイトや図表などを組み合わせたテキストから必要な情報を素早く見つけ出すような問題の比率が高い。

というわけで、PISAとPIAACは、スコアの直接比較はできないようになっている。

なお、PISAとは異なり、PIAACは調査員が対象者の自宅などを訪問する対面方式で行われる。2011年の第1回調査ではおもにPC(および紙ベース)が使用されたが、2022〜3年の第2回調査では専用のタブレットを用いた方式に移行した。

 

日本の若者は世界トップレベルに読解力が高い

図1-11 PIACC成人読解リテラシー上位10か国の平均得点(2023年)

そんなPIAACで、日本は読解リテラシー(平均289点)、数的思考力(平均291点)の両分野で、OECD参加国中でトップクラスに高い平均スコアである。フィンランドが1位、日本が2位だ(図1-11)。

日本の成人の約5人に1人が読解力でもっとも高いレベル(レベル4または5)。つまり、トップパフォーマーの割合が非常に高い。

数的思考力でもレベル3以上のスコアを獲得した成人の割合が62.6%。これは他国を大きく引き離している。

ITを活用した問題解決能力がレベル1以下(またはコンピュータの基本操作テスト不合格・経験なし)の層でも、他国の同レベルの層と比較して読解リテラシーと数的思考力のスコアが著しく高いのが日本の特異な傾向だ。

なお、読解リテラシーは16〜24歳の平均は298点、55〜65歳では268点。

若者のほうが中高年より点数が高い。

したがって中高年が「最近の若者は読解力がない」と批判する資格はない。ただし、これはほかの多くの国でもそうだ。

参加国全体で見ても、読解リテラシーや数的思考力、ITを活用した問題解決能力のいずれも、25〜
34歳(30歳前後)の若年・中堅層でピークを迎える。その後は年齢が上がるにつれて下がっていく
(図1-12)。

図1-12 PIACC読解リテラシー年齢層別の平均得点(2023年)

実は日本人は年をとってもスキル低下がゆるやかだ。高年齢層でも成績が高い。日本の55〜65歳の読解リテラシースコア(平均268点)は、アメリカ、イングランド、アイルランド、イタリア、スペインの16〜24歳の平均スコアを上回っている。また、すべての年齢層でOECD平均より成績がよい。かつ、世代差による成績のバラつきが小さい。これは誇っていいことだ。

 

女性はITスキルがあるのに使う機会がない

もっとも「日本人の成績は文句のつけどころがなく、パーフェクトだ」とまでは言えない。

日本の成人は、ITを活用した問題解決能力では、若年層は高いスキルがあるものの、高年齢層になるにつれて習熟度が急激に下がる。高年齢層にはコンピュータの使用経験がまったくないひとの割合も多い。

そして日本の労働者は職場で「読む」「書く」スキルはよく使っている一方、「ICTの利用」や複雑な「問題解決」を使用する頻度は相対的に低い。ようするにIT後進国なのだ。

しかも、各種リテラシー領域において高い基礎スキルがあるはずなのに、実際には活用していないこともわかっている。とくに女性は、他国の女性よりもスキルを仕事で使う機会が少なく、宝の持ち腐れになっている。能力があっても、使われていない。

使う場がない。人的リソースの社会的な配置・配分がアンバランスなのだ。これが男女の賃金格差や全体的な生産性低迷の一因だとOECDから指摘されている。

ともあれ、PISAとPIAACの結果を合わせてみるならば、国際的に見れば「日本の子ども・若者の読解力が崩壊している」とはとうてい言えない。中高年も同様だ。むしろ世界でトップレベルに読解力がある国なのだ。

こっけいなことに、それなのにずっと学力低下、読解力崩壊と騒がれ続けている国でもある。

プロフィール

飯田一史(いいだ・いちし)

出版ジャーナリスト

出版ジャーナリスト・ライター。1982年、青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌やライトノベルの編集者を経て、独立。出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブ小説などについて取材、執筆している。JPIC読書アドバイザー養成講座講師、一般社団法人電子出版制作・流通協議会「電流協アワード」選考委員。著作に『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』『「若者の読書離れ」というウソ』(共に平凡社新書)、『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『9割の日本人のための「ゆる読書」入門』(時事通信出版局)など。

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