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「前向きな人ほど感情が1.9倍暴走する」 人事評価トップ5%社員が手放したこと

越川慎司(株式会社クロスリバー代表取締役社長)

2026年11月06日 公開

「前向きな人ほど感情が1.9倍暴走する」 人事評価トップ5%社員が手放したこと

「ポジティブシンキングが大事」「前向きに考えよう」——ビジネス書やセミナーで繰り返し語られてきたこの言葉を、自分に言い聞かせながら働いている人は少なくないでしょう。

ところが、のべ17万人のビジネスパーソンの行動データをAIで分析してきた株式会社クロスリバー代表の越川慎司さんは、「常にポジティブでいよう」と意識している社員ほど、感情が暴走する頻度が1.9倍高いことを明らかにしました。しかも人事評価トップ5%の社員の多くは、「常にポジティブでいるべきだ」とは考えていなかったのです。

本記事では、無理な前向きさがかえって心を乱してしまう理由と、トップ5%社員が実践している「感情のフラット化」について解説します。

※本稿は、越川慎司著『17万人の分析データから導き出した トップ5%社員の感情に振り回されない習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

押さえ込んだ感情は、あとから強く噴き出す

「ポジティブシンキングが大事」「前向きに考えよう」
こうした言葉は、ビジネス書やセミナーで繰り返し語られてきました。弊社が人事評価トップ5%の社員(以下、5%社員)とそれ以外の95%の社員(以下、95%社員)を比較したアンケートでも、95%社員の76%が「常にポジティブでいるべきだ」と回答しています。SNSやビジネス書の影響もあって、現代のビジネスパーソンは「ポジティブであること=優秀」という強力なメッセージにさらされ続けています。

しかし、弊社が23社を対象に行った調査で、意外な事実が判明しました。「常にポジティブでいよう」と意識している社員は、そうでない社員に比べて、感情が暴走する頻度が1.9倍高かったのです。「常にポジティブでいよう」とすることで、ネガティブな感情を押さえつけ、結果として、抑え込んだ感情があとからより強い形で噴き出す「感情のリバウンド」が発生していたのです。

「大丈夫」と口に出すたびに、脳は「では、なぜ大丈夫と確認する必要があるのか?」という逆方向の問いを起動します。確認回数に比例して、不安の存在が裏側で強化されていく構造です。日常の例えなら、プールに浮かぶビーチボールを手で水中に押し沈める場面を思い浮かべてください。押さえている間は静かですが、手を離した瞬間、ボールは勢いよく水面へ跳ね上がります。感情も同じで、強く押し込むほど、戻ってくる力は大きくなるのです。

 

「元気なふり」が招くポジティブ疲れ

さらに問題なのは、「ポジティブ疲れ」という現象です。弊社が14社で行った追跡調査では、「常にポジティブでいよう」と意識している社員の63%が、3か月後に「疲労感が増した」と報告しました。

本当はつらいのに笑顔でいる、本当は不安なのに「大丈夫」と言い続ける。この演技にエネルギーを使い、本来の仕事に回すエネルギーが減ってしまうのです。社会学者のアリー・ホックシールドはこれを「感情労働」と呼びました。感情の演技では、表情筋の制御・声色の調整・本心の隠蔽という三つの並列処理が常時行われます。本来の業務判断に回せる認知資源が、その分だけ目減りします。

体調が悪い日に、ホームパーティーで笑顔を絶やさず過ごしたあと、どっと疲れた経験はないでしょうか。その疲れの正体は、パーティーそのものではなく「元気なふり」という演技です。職場で毎日続けるポジティブの演技も、これと同じ疲労を静かに積み上げていきます。

弊社の調査によるセンサーデータでも、「常にポジティブでいよう」と意識している社員は、1日のうち表情管理に費やしているエネルギーが、そうでない社員の約1.7倍に達していました。笑顔を維持するコストが、思考や判断のコストを圧迫している状態です。表情管理に使われたエネルギーは、報告書の精度や会議での発言の鋭さからは差し引かれます。同じ8時間でも、「素のままの8時間」と「演技付きの8時間」では成果物の解像度が変わります。

 

トップ5%社員は感情を「フラット」にしている

5%社員はどうでしょうか。「常にポジティブでいるべきだ」と回答した5%社員はわずか19%でした。5%社員が実践しているのは「感情のフラット化」。彼らの多くは「ポジティブもネガティブも、どちらも必要な感情だ」と答えています。

弊社が15社で行った比較分析では、「感情をフラットに受け入れている」社員(ポジティブもネガティブも否定しない社員)は、「常にポジティブでいよう」とする社員に比べて、月曜朝の出社時のストレス値が31%低く、金曜夕方の疲労度も24%低いことがわかりました。

無理にポジティブでいようとしないこと。これは「諦め」ではなく、ポジティブを維持するための演技コストを削減して、その分を本来の業務に回す賢い選択です。

「メンタルが弱い」と感じている人の多くが、実は「ポジティブでいなければならない」というプレッシャーに押しつぶされています。弊社のヒアリングでは、「自分がネガティブな感情を抱くのは、自分がポジティブシンキングできていないから」と思い込んでいる社員が多くいました。そうではありません。ネガティブな感情を感じること自体は、精神的に健全な証拠です。問題は感情ではなく、感情への解釈なのです。

プロフィール

越川慎司(こしかわ・しんじ)

株式会社クロスリバー代表取締役社長

2005年に米マイクロソフトへ入社し、後に日本マイクロソフトの業務執行役員としてPowerPoint、Excel、Word、Microsoft Teamsなど、主要プロダクトの事業責任者を歴任。

2017年、株式会社クロスリバーを設立し、全メンバーが週休3日制と複業(専業禁止)を実践する独自の働き方で、これまでに800社以上の業務改善・働き方改革に携わる。教育者としても活動し、京都大学大学院をはじめとする教育機関で教壇に立つ一方、年間400件を超えるオンライン講座を展開。受講者満足度は平均98%を誇り、学んだ内容を実際の行動に移す受講者が95%を超えるなど、確かな成果を上げている。

著書は直近8年間で32冊に上り、『仕事の「ムダ」が必ずなくなる 超・時短術』(日経BP)や『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は海外でも翻訳・出版されベストセラーとなる。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」ほか、多数のメディア出演実績を持つ。数字に裏打ちされた具体的なノウハウと豊富な実績を基盤に、組織と個人のパフォーマンス最大化を支援し続けている。

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