『「自分でやらない」ほうがうまくいく』の著者・石井玄さんは、本の執筆を終えた頃、ポッドキャスト「LuaaZのまだ名前のない会議」に出演。SBI LuaaZ代表の福山和甫さんとの対話のなかで、「人に頼るとはまさにこういうことだ」とスッと腑に落ちた瞬間があったといいます。本書には収録されなかった、予定外に生まれた"幻の8章"をお届けします。
企画の「正義」に、自分の感情を持ち込まない
仕事をしていると、どうしても「嫌われたくない」「波風を立てたくない」といった余計な感情が邪魔をしてくることがあります。特に若い頃の私は、いわゆる八方美人に立ち回り、周囲の顔色ばかりを気にして仕事をしていました。
しかし、そうした働き方をしていては「本当に良いもの」なんて絶対に作れないと、数々の失敗を重ねる中で痛感しました。うまく行かなかったプロジェクトを振り返ってみると、そこには必ず「自分自身の保身や感情」が介在していました。「こんなことを言ったら相手に嫌がられるのではないか」「ここを指摘するのは気まずい」——。今思えば、そんなものは本当に無駄な感情でしかありません。自分が保身に走ったり感情的になったりした瞬間に、企画の軸がブレて、本質からどんどん逸れていってしまいます。
どんな仕事や企画にも、絶対に達成すべき「ゴール(目的)」が存在します。たとえば「番組を面白くして、一人でも多くの聴き手に届けること」。それだけが、そのプロジェクトにおける唯一無二の「正義」です。そう考えると、ゴールの達成を阻害する要素はすべて「悪」であり、取り除かなければならないノイズに過ぎません。
私がスケジュール管理を徹底したり、時には上司に対して強気に見える姿勢で意見を述べたりするのも、決して自分の強い自我を通したいからではありません。 私個人の都合や感情はどうでもよく、ただ「企画の正義」を最優先にしたいからです。 自分のエゴを捨てて「プロジェクトのゴール」にしっかり軸足を置けば、周囲にどう思われようと、迷わずに正しい一手を打ち続けることができます。
裏方としての恐怖と「覚悟」
ラジオディレクターになりたての頃の私は、とにかく若手のお笑い芸人さんの番組を担当したくて、がむしゃらに仕事に打ち込んでいました。 この業界では、若手芸人が深夜ラジオのパーソナリティに抜擢されるというのは大きなチャンスです。注目されている証拠ですし、自分たちの新しい魅力を発揮して活躍の場を広げる絶好の機会になります。
しかし、もしその番組がたった1年で終わってしまったらどうなるでしょうか。「あの芸人はラジオをやらせてもダメだった」というレッテルを貼られてしまい、その後の彼らの芸人人生やキャリア全体に、取り返しのつかないダメージを与えてしまうことだってあります。芸人さん本人の面白さと番組が終わることは直結しないのですが、直結しているように周りからは見えてしまうからです。
一方で、制作スタッフである私たちは、番組が終わったとしても次の現場へ移動して、また別の人と新しい番組を作ることができます。演者さんの人生を左右するようなリスクを背負わせているのに、自分だけは傷つかない安全な場所に残る。 その構造に対して、私は強烈な違和感と恐怖を覚えました。
裏方である以上、演者さんの人生を丸ごと背負うことなど不可能です。だとしたら、せめて彼らのキャリアが最高の方向に向かうように、誠心誠意、番組を成功させるために全力を尽くすのが筋というものです。「番組を絶対に終わらせない」「パーソナリティを絶対に輝かせる」。そのために一切手を抜きませんし、邪魔になる要因は徹底的に取り除きます。 自分の保身を捨てて、誰かのために背水の陣を敷く。この覚悟こそが、裏方として仕事に向き合う私の原点になっています。
「最初で負けない」から、常識を超えられる
企画を立てるとき、多くの人は無意識に「思い込み」の枠を作ってしまいがちです。「この予算では無理だろう」「このゲストにオファーしても受けてくれないはずだ」と、最初から実現できそうな小さな枠の中に思考を収めてしまうのです。 しかし、企画の初期段階で自分から限界を決めて負けてしまっていては、そこから大きな成果が生まれるはずもありません。
目標を設定するときに一番大切なのは、「ゴールが先、手段は後」ということです。かつてサッカーの本田圭佑選手が、日本代表がまだそこまでの実績を残せていない時期に「ワールドカップで優勝する」と宣言して話題になりました。周囲からは笑われたり非難されたりもしましたが、「優勝を目指す」のか「ベスト8を目指す」のかで、日々の練習内容も意識の持ち方もまったく変わってきます。高いゴールを設定するからこそ、人間の脳はそのギャップを埋めようと働き、後から必要な手段がどんどん湧いてくるのです。
以前、24時間の生放送のチャリティラジオ番組でチーフディレクターを務めたときの話です。従来、この番組は「感動的な要素」を軸に構成するのが長年の慣例でしたが、私たちは「お笑いを全面に出した24時間にしたい」と考えました。そのまま上層部に話を持っていけば、当然大反対されます。「リスナーから反発があったらどうするんだ」と言われるのは目に見えていますし、例年通り感動を期待して聴いてくださるリスナーさんの存在も頭をよぎります。 不安やリスクは、もちろんありました。
しかし、例年通り無難にやるのでは、自分が任された意味がないとも思いました。 過去にこの24時間特番を担当した先輩たちに話を聴いて回り、決行できる策を必死に考えました。その方法は至ってシンプルで、「上層部にはそう見えないようにお笑いをメインにした番組づくりをする」というもの。チーム全員でゴールに向かって緻密にリスクヘッジを行い、ブレずにやり切った結果、製作途中では一部の上層部から苦言は呈されましたが、放送後には「近年稀に見る素晴らしい番組だった」と高い評価をいただくことができました。終わってしまえばどうということはありません。
他局のライバル番組を見渡してみても、結果を出しているチームは最初から限界など決めつけません。「ダメ元で世界的スーパースター、例えばブルーノ・マーズにオファーを出してみよう」といった、一見無謀と思えるレベルの「最上解」を大真面目に議論し、実際に動いています。
最初から「無理だからやめておこう」とコストや労力を削る計算ばかりしていては、絶対にそうしたチームには勝てません。 だからこそ企画を立ち上げるときは、誰もが「そんなの無理だ」と思うような一番高いゴールを設定する。 その空白を埋めるために知恵を絞るからこそ、常識をひっくり返すような成果に手が届くと思います。
人の言う通りにした瞬間、企画は死ぬ
こうした私の考え方や仕事の姿勢は、生まれたときから持っていたわけでもなければ、誰かに教えてもらって身についたものでもありません。 自分自身で壁にぶつかり、体験を通して掴んでいくしかないものだと思っています。だから、私が社員に教えるときも、答えをそのまま与えないようにしています。
上司が「こうしなさい」と指示を出した瞬間に、その企画は指示を出した上司のものになってしまいます。言われた側は「指示通りにやっただけ」となり、うまくいこうが失敗しようが「自分の責任ではない」と思ってしまう。これでは本人の成長にも責任感にもつながりません。
そうならないために、どんなに小さなことでもいいので自分で考えて企画を立てさせ、実行させて、成功も失敗も経験させることが大切です。 私から伝えられることがあるとすれば、「もう少し上のゴールを目指してみたら?」と目標の視座を上げてあげるアドバイスくらいです。 あとは、自分自身がそういう背中を見せ続けて、「自分もやってみよう」と思ってもらうしかないと考えています。
チームでしか到達できない「天井の外側」へ
自分の欲求や「これがやりたい」というエゴだけで突っ走れる仕事には、必ず年齢的な限界が訪れます。 20代のうちは、がむしゃらに働いて自分の自我や成果欲求を爆発させればいいでしょう。 しかし、個人としてのアイデアや「自分が面白いと思うもの」のストックは、30代には一度出し切ってしまうか、あるいは自分の能力の限界(天井)が見えてくるものだと私は考えています。
そこから先のキャリアでさらに大きな成果を出し、仕事の面白さを更新していくためには、「自分軸」から「他者軸」へとシフトしなければなりません。 自分のためだけに頑張るのをやめて、演者さんのため、一緒に働くスタッフのため、そしてコンテンツを楽しんでくれる聴き手やお客さんのために仕事をする。
イベントが終わったとき、かつては自分自身の達成感や高揚感だけで満足していました。しかし経験を重ねるにつれて、共に走り切ったチームメンバーや演者さんが心から喜んでいる姿を見たときのほうが、遥かに深い感動を覚えるようになったのです。
自分一人を満足させるためのアイデアなど、たかが知れています。 しかし、「このチーム全員を満足させたい」「目の前のお客さんを感動させたい」という思考に切り替わった瞬間、発想の幅は無限に広がっていきます。
自分ひとりでは絶対に辿り着けないゴールへ行くために、人はチームを作り、他者のために力を尽くす。 一人で抱え込むのをやめて、「自分でやらないほうがうまくいく」という構造を受け入れたとき、仕事は本当の意味で面白くなっていくのだと思います。
いい仕事の根底には「信頼」がある
自分軸を捨てて「この人やチームのために頑張りたい」と思えるようになるには、いい出会いが必要です。 そして、そうしたいい出会いを引き寄せるために不可欠なのが「信頼」です。
日々の仕事に対して誠実に向き合い、責任とリスクを泥臭く背負い続けてきた積み重ねがあるからこそ、周囲からの信頼が生まれ、素晴らしい仲間やプロジェクトに出会うことができます。
仕事の楽しさを「自分個人の欲求を満たすこと」から、「チームメンバーや周りの人が喜んでくれること」へと広げていくこと。 自分一人を満足させる仕事から、チームやお客さんという多くの人たちを満足させる仕事へ。その信頼のサイクルを回していくことこそが、結果として一人では想像もできなかった大きな成果へと自分を運んでくれるのだと感じています。









