事業承継のコツ 100年企業にみる6つのポイント
2015年02月25日 公開 2024年12月16日 更新
《『ヒト・モノ・コトを次代へつなぐ 事業承継の教科書』より》
事業承継はこんなに厳しい
実は事業承継を取りまく環境は大変厳しいものがあります。ここ10年で中小企業数は13%減少し、かつ社長の平均年齢は約2歳上昇しました。今後も経営者の高齢化による廃業の増加が予想されます。
さて、これらの会社は業績が低迷したので廃業してしまったのでしょうか? 必ずしも業績不振のみが廃業の引き金となったわけではありません。『中小企業白書2014』によると廃業時に資産超過だった会社は41.1%で債務超過23%を大きく上回り、経常黒字44.1%とこれも2期以上経常赤字36.1%を上回っています。
ではなぜ社会的意義もあり、おそらくは愛着もある事業をたたむことになってしまったのでしょうか。
多くの経営者はご自身の年齢や健康問題を理由として廃業を決意されています(38.1%)が、「特に対策は行わなかった(39.2%)」と回答しています。誰かに「相談しても解決するとは思えなかった(39.8%)」そうなのです。
これはとても残念なことです。もし早期に事業承継の道を探していたら、親族や社員から後継候補者が現れて後継教育の時間が持てたかもしれない、内部から現れなかったとしても適切な第三者に相談していたら、雇用を守ったまま会社を買い取ってもらえたかもしれないからです。
1990年頃は親族に引き継がれるのは9割でしたが、最近10年では6割に減少しています。それだけ身内で承継することが難しくなってきているのでしょう。まずは親族を後継者にと目しても、育成には最低3年は必要と考えられています。
さらに後継を託そうとした親族が結果的に継がないことを選択したとき、次の候補者あるいは買い手を探さなければなりません。そのためのゆとり期間を置くためにも、ご自身のリタイア予定の10年ほど前から承継計画を立てる必要があります。実は事業承継自体がひとつの事業ともいえるでしょう。
事業承継に秘訣はあるのでしょうか? 私どもTOMAグループでは2010年から100年企業サミットを開催し、多くの老舗企業のパネルディスカッションを通して事例を学んできました。その中から浮かび上がってきたポイントは以下のとおりです。
(1)経営理念、家訓の遵守
船を動かすには動力が必須ですが、羅針盤がなければただ海を漂流することになります。経営理念とは事業の羅針盤であり存在意義を定義づける根本です。家訓は必ずしも事業に直結したものとは限りませんが、祖先を敬う心が先代の思いを受け継ぐ意思に通じるところがあるのでしょう。
(2)お客様重視
やはりお客様あっての事業です。お客様の支持がなければ事業は存続しませんし、お客様の忌憚ないご意見が新しい事業の芽になることは往々にしてあります。お客様第一に真摯に向き合う姿勢が大切です。
(3)品質重視
当然ながらお客様に選んでいただくためには商品やサービスの品質が重要です。安心していただける品質が確保できなければ顧客の信頼を得られなくなるばかりでなく、場合によっては社会的意義を失います。極端な例では事故米を転売して破産に至った三笠フース、食べ残しの再提供や産地偽装などの不祥事で廃業した船場吉兆などが記憶に新しいでしょう。
(4)コアコンピタンス(絶対的差別化)
ただ、単に品質が優れていればよいわけでないのが事業の難しさです。コアコンピタンスとは、商品やサービスなど事業の活動分野における「競合他社を圧倒的に上回る状態」をいい、ホンダのエンジン技術などが代表例としてあげられます。
コアコンピタンス経営は、未来の競争に向けて自社の優位性を認識しつつ、未来の市場機会を創出するためにその優位性をどう活かし、また再開発をはかっていくかを課題とする経営手法であり、単に不採算部門を切り捨てて目先の利益を改善する手法と対極にあるといわれます。コアコンピタンスには未来志向性があり、それが事業永続をもたらしているのかもしれません。
(5)従業員満足の追求
従業員満足は事業価値を高めるもっとも重要な要因です。
「ES(Employee Satisfaction =従業員満足)なくしてCS(Customer Satisfaction =顧客満足)なし」といわれます。従業員のやる気しだいで業績に大きな差が出るのはよく知られたところです。
どんなに素晴らしい商品があっても従業員が売ってくれなければ世に広がることはなく、どんなに立派な理念を掲げても従業員が自分ごととして捉えてくれなければ伝えていくことはできません。
(6)バトンタッチの仕組み
電車を例にしてみましょう。立派な車体があって目的地もしっかり定まって運転手も乗客もそろいました。けれどもレールがなければ前に進むことはできません。駅から駅へと電車を運ぶレールのような仕組みづくりは欠かせないものです。
トップが代わっても組織を守り前進させる仕組み……例えば中期行動計画、機関設計、人事評価制度等の各種規定の構築は必須のこと。場合によっては役員や親族間で「経営に関する覚書」を取り交わすことも大切です。スムーズなバトンタッチを目指し、事業承継計画の準備を心がけましょう。
承継チェックリスト
私どもTOMAグループでは、100年企業はなぜ永続できたのかを研究してきました。こうした企業は、結果として100年以上続いてきたのではなく、あることを徹底してやり続け、なるべくして永続企業になりえたのだということがわかりました。
100年以上事業を行っていれば、経営が窮地に立たされる局面をいくつも迎えます。数々の危機を乗り越えた企業が実践してきたことに、これからの時代を生き残っていく秘訣があります。
社長はご自身の事業を何年残せそうでしょうか? まずは次の表でセルフチェックしてみましょう。
◇ YESの数でわかる「何年事業を残せるか」
12個 100年企業になれます
10個 100年企業になれる可能性があります
8個 100年は絶対続きません
5個 2代しか継続できません
3個 1代しか継続できません
0個 すぐに手を打つ必要があります
<書籍紹介>
TOMAコンサルタンツグループ 著
本体価格 1,800円
事業承継においてモノ(財産)だけでなく、経営理念や中長期計画、経営権といったコト、ヒトをも網羅し、成功例と失敗例を交えて解説。
<著者紹介>
TOMAコンサルタンツグループ
TOMA税理士法人、TOMA社会保険労務士法人、TOMA監査法人、TOMA行政書士法人、藤間司法書士法人を母体とする創業130年を数える老舗コンサルティングファーム。税理士30名、国税局OB税理士7名、公認会計士7名、社会保険労務士10名、中小企業診断士4名、司法書士3名、行政書士6名、M&Aシニアエキスパート3名ほか総人数180名(2015年1月現在)の専門家を擁している。代表の藤間秋男は事業承継をライフワークとし、100年企業研究家として関連セミナーを1650回以上開催。「日本一多くの100年企業を創り統け1000年続くコンサルティングファームになります」をビジョンに掲げ、経営者の「想い」を次世代に残すコンサルティングで「100年企業創り」を支援し続けている。
藤間秋男の著書として、『どんな危機にも打ち勝つ100年企業の法則』(PHP研究所)、『1/4は捨てなさい!』(ダイヤモンド社)、『100年企業100選』(共著・東方通信社)などが、TOMA税理士法人編著として。『事業承継・相統税チェックポイント88』『法人税節税チェックポイント82』(以上、税務研究会出版局)、『法人税の実務Q&A寄付金・交際賞』(中央経済社)などがある。