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穢土の聖者~日本を美しくする会・鍵山秀三郎相談役

櫛原吉男(マネジメント誌『衆知』編集主幹)

2016年04月07日 公開 2023年01月19日 更新

魂を揺さぶる人

またある時、なかなか思うように成果が上がらず、苦しんでいる部下がいた。

そこで鍵山相談役に会わせてみたらと考え、彼を一緒に連れて行った。新商品の打ち合わせが終わった時、部下が申し訳なさそうに色紙を出し、記念に揮毫を書いてほしいと申し出た。

笑いながら快く、「力耕せば 吾れを欺かず 鍵山秀三郎」と書かれた。

それを見て思わず感嘆した。

「君にぴったりの言葉だ。大切にしなければ」と私は言葉を添えた。鍵山相談役は、今日初めて会った他社の若手社員に20分程、懇切丁寧に言葉の由来や意味を話してくれた。

後日、部下がお礼状を書いた。すぐに鍵山相談役から封書で返事がきた。

「こんな手紙をもらいました」嬉しそうに報告してきた。彼はすっかり、鍵山相談役の心酔者になっていた。

手紙を見て、私は思わず涙がでそうになった。寸暇を惜しんで全国を飛び回られている身なのに、それほど深い関係でもない人間に、こんなこまやかな情をかけられるなんて。直属の上司でさえ、なかなかここまで出来ないだろうと、わが身を反省した。

一人の魂を揺さぶることが出来る者は、万人を魅了できる者なのだ。

努力が無駄になることはありません

目前の成果に一喜一憂している人間にとって、この最後の言葉が、心の中でいつまでも余韻として残った。

 

言行一致

かつて、亀井民治社長(PHP研究所から発刊している鍵山相談役著書の編者)よりこんなお手紙を頂き、思わず目頭が熱くなったことを思い出した。

「6月29日、30日の早朝、イエローハット本社最後の掃除をご一緒させていただきました。参加者は、わたしを含めて3名。6時から8時までたっぷり2時間の掃除でした。30日はあいにくの雨。ビル引き渡しの最後の日でした……」

そして、雨合羽を着て無心に掃除に打ち込む鍵山相談役の二枚の写真が添えられていた。心血を注いで築かれた本社ビルを手放した鍵山相談役の心中いかばかりか。

「断腸の思い」などと、言葉にするにはあまりにも軽すぎる。ましてや引渡しの当日の朝まで掃除されるという鍵山相談役の行動は、とても私のような凡人の考えが及ぶところではない。

それにしても、いかにも「鍵山相談役らしい生き方」だ。鍵山相談役ほど、言行の一致した人を私は知らない。

「私は揚子江の濁流を一人で止めようとしています。人は愚かと笑うかもしれません。しかし、止めません。今までの努力は、そんなに簡単に諦められるようなものではないからです」

「私の人生は失うばかりです」と以前、話しをしてくれたことを思い出した。

「損と得の道あらば、損の道を行く」そんな生き方かもしれない。

これから、どんな境遇に陥ろうと、決して諦めず、投げ出さず、自分なりに全力で打ち込もう。もし挫けそうになった、その時はこの写真を見て、「鍵山相談役でさえ耐えてこられた」ことを思い出そう。

鍵山相談役と同じ時代に生き、親しく謦咳に接することの出来た幸せを感謝したい。

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