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社会

「B面」から見えてくる社会…どうバランスポイントを見出すか

野口健(アルピニスト/富士山レンジャー名誉隊長)

2011年07月14日 公開 2022年12月28日 更新

野口健

「守る」とは次代につないでいくこと

物事をある一面だけ見て白だ黒だといっていると、判断がゆがむ。

たとえば、捕鯨問題にしてもそうだ。シーシェパードなどの団体は、鯨やイルカを獲って食べる日本人は野蛮だとしきりに攻撃する。なぜ牛や豚や鶏を食べることは問題なくて、鯨だけに噛みつくのか。

鯨やイルカは頭のいい動物だからと彼らはいう。たしかに脳は大きいが、からだの比率からすれば特別頭がいいとはいえないという説もある。

そもそもアメリカは、かつて捕鯨大国で鯨を乱獲した張本人だった。それがベトナム戦争で世界の非難を浴びつつあった1970年代に、「鯨を救えなくては世界は救えない」というメッセージで強硬な反捕鯨姿勢を打ち出すようになった。情報操作で人々の関心の矛先を変えようとしたのだ。

現在、本当に鯨が激減しているかというと、種類によっては必ずしもそうとはいえない。鯨はあれだけの大きなからだを維持するために相当の量の魚を食べる。

それは人間が消費する総量の五倍に相当するといわれている。そんな鯨が増えすぎたらどうなるか。海洋資源、生態系のバランスが大きく崩れてしまう。

アフリカでは同じようなことが、象で起きている。アフリカの国立公園では象を殺してはいけないことになっているが、近年、アフリカでは象が増えすぎている。

象は1日200キロから300キロの草を食べる。その結果、サバンナの草がみんな象に食べられて砂漠化が進んでいる。象が増えすぎることで、ほかの草食動物も生息できなくなる。

1つの生物だけを守るということは、生態系全体が崩れていくことを意味している。ある程度バランスをとっていかなくてはならない。

白神山地が世界遺産に登録され、鳥獣保護区になった。それにより、いまマタギは熊を獲ることができなくなってしまった。環境保護団体は、マタギは環境破壊をしている、動物愛護の精神に反すると主張したが、マタギは森とともに生きてきた人たちなので、乱獲をしない。

必要な分だけを獲り、その命を尊重して隅から隅まで有効活用する術を知っていた。自然と調和して生きていく知恵を持っていた。しかしマタギの生活手段が奪われたことで、マタギの文化も消滅しょうとしている。

鯨を救おう、象を守ろう、熊を守ろう、いずれも言葉としては聞こえがいい。正しい主張のように聞こえる。だが、その裏で何が起きるのかを無視した一元的な視点は、長い目で見たときにいい解決策とはいえないのではないか。

環境を考えるということは、「どちらもありだよ」という姿勢で両面を考えないといけないと思う。本当の意味での 「守る」とは、バランスの中で、きちんと次の時代につないでいくような方法論を考えることだろう。

 

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