竹中平蔵 × ムーギー・キム 大企業エリート信仰は時代遅れ
2018年01月24日 公開 2024年12月16日 更新
「正社員だからハッピー」は、もはや恐竜の発想
竹中 その意味では、派遣労働も理に適っているんです。世の中には、派遣労働のほうが都合がいいという人がたくさんいます。
例えばある派遣会社で派遣で働いている人にアンケートを取ると、7~8割の人は、派遣のほうがいいから派遣で働いていると答えた。もちろん、本当は正社員になりたいけれど派遣で働いているという人もいますが、そういう人は2割程度なんです。
実際、派遣にはいろいろメリットがあります。人間関係に囚われなくていいし、転勤や残業もない。仕事より子育てを優先したい人などには最適でしょ。一人の人生の中でも、ライフステージによって今は残業をしたくないとか、当面は午前中だけの勤務にしたいとか、働き方のニーズはいろいろあると思うんです。
そういう多様な働き方を認めるということは、自由な生き方を認めることとほとんど同義なんですよね。
キム まったくそのとおりですね。正社員になることが目的化してしまっている、労働市場の「恐竜のような言説」が独り歩きしています。
竹中 日本では、働き方に様々な制約がある。その最大の元凶は、終身雇用と年功序列こそ正しい働き方であるという前提の下に作られた制度です。これは民主党政権が発足したとき、社民党が連立政権に入ったことによってできてしまったんです。
キム どんな制度ですか?
竹中 最たる例が、派遣などの労働契約は3年経った時点で長期の無期契約に変えなきゃいけないというもの。これが今、ものすごい弊害を生んでいるんです。
企業側としては、派遣で働いてきた人を終身雇用に切り替えたくない。そこで3年目が終わる前に、派遣契約を切ってしまうんですよ。これがいわゆる「雇い止め」で、要するに雇用を減らす政策になっているわけです。自由を妨げるといかに弊害が出るか、その典型ですよね。
ではなぜ企業は無期契約で働かせることを嫌うかというと、解雇ができないから。1979年の判例で、解雇条件が決まっているんです。雇う側は強い、雇われる側は弱い。これが事実ですよね。立場の違いがある以上、雇われる側がある程度守られるのは当然ですよね。簡単にクビを切ってはいけない。
強すぎる解雇条件のパラドクス
竹中 しかし、解雇条件が示された1979年の判例は、あまりにも雇われる側が強いんです。現実には、会社が潰れるまで辞めさせられません。だから労働争議で解雇を撤回させた途端、会社が潰れたなどという実例もあるんですよ。
キム それだと、会社は人を雇えないですよね。
竹中 だから訴訟リスクを感じる大企業は、正規雇用で雇うことにすごく慎重にならざるを得ない。あるいは逆もあって、訴訟を起こされて賠償を命じられても払えないと開き直っている中小企業は、平気でクビを切ったりしています。時代遅れの変な判例のおかげで、労使ともに不利益を被っているわけです。
もう一つ、日本で象徴的なのは、「契約社員」という言い方です。短期で契約している社員を指す言葉ですが、これっておかしいですよね。無期雇用の社員だって契約しているはずです。見方を換えれば、無期雇用の社員は無条件で会社に居続けるという前提になっているわけです。
キム しかも、その無期雇用の社員が恵まれているかといえば、そうでもない。
竹中 そうなんです。正社員と呼ばれる彼らはけっしてハッピーではない。
年功序列・終身雇用を前提にするかぎり、クビにならないという安心感はあるかもしれませんが、その会社で偉くなれなかったり人間関係で失敗したりすればやり直しが効かないというリスクも抱え込んでいる。これはものすごく不幸なことだと思います。
人それぞれ、どこで幸せや不幸を感じるかわからないですから、様々な道を自由に選べるようにしないといけないですね。
※本記事はPHP研究所刊、竹中平蔵・ムーギー・キム著『最強の生産性革命』より、一部を抜粋編集したものです。