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社会

竹中平蔵 × ムーギー・キム 大企業エリート信仰は時代遅れ

『最強の生産性革命』(PHP研究所刊)より

2018年01月24日 公開 2018年01月31日 更新

竹中平蔵 × ムーギー・キム 大企業エリート信仰は時代遅れ


 

働き方の生産性革命を起こそう

「好きなことをやる」のが一番生産的な人生

キム 今、政府は「働き方改革」の議論をしていますが、私にはどうもピンと来ません。結局、自分がおもしろいからやろうと決めたことじゃないとがんばれない。それに尽きると思うんです。
個人のIQの差は、大したことはありません。明らかにものすごく賢い人もいますが、ではその人がなぜ賢くなったかと言えば、好きなことをやり続けたからですよね。

竹中 そのとおり。かつてコロンビア大学で、世界を代表する大企業「フォーチュン100」(グローバル企業の総収入ランキングトップ100)の各CEO(最高経営責任者)に、「あなたはどうしてCEOになれたと思いますか」というアンケートを取った人がいるんです。その結果、圧倒的に多かった答えは「自分が好きなことをやったから」でした。
よくストレスや過労死が話題になりますが、いわゆるオタクの人で過労死した人って聞いたことがないですよね。

キム たしかに、鉄道写真を撮り過ぎて過労死した人って聞かないですね。

竹中 しかし、嫌なことをやらされたら辛いよね。ロシアの作家ゴーリキーの有名な言葉に、「仕事が楽しければ人生は極楽だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」というものがあります。
仕事は自分と社会との接点であり、社会に貢献することによってお金をもらえるわけです。そこには膨大な時間が費やされ、家で家族と一緒にいるより職場で働く時間のほうが長い人もたくさんいる。その意味では、仕事は人生そのものなんですよね。
その時間をどう過ごすかは、私たちにとってすごく大事なことでしょう。

自分の労働力を切り売りして、苦痛の対価として賃金を受け取るなどというのは、まさに時代遅れの感覚だと思います。仕事と自分の人生とをどう結びつけるか、何をやるか、どういう働き方をするかは、もっと自分で選ぶべきなんですよね。

キム そうですよね。好きなことをできているかどうかで、人生の幸福度の大半は決まると思います。
 

働き方ポートフォリオを作り、「ハイフニスト」を目指せ

キム 働き方についての意識も改める必要がありますよね。グローバルな観点で言えば、もう優秀な人ほど大企業には行きません。コンサルティングファームや金融に行くのは私みたいな一昔前の人間(笑)。
私がMBAをとったフランスのインシアード(INSEAD、フランスのビジネススクール)の卒業生も、最初は6割くらいがマッキンゼーやボストン・コンサルティングなどに入りますが、3年も経てばかなりの割合でアントレプレナー(起業家)になっていますよ。
つまり、カッコいいキャリアのモデルが一昔前とはずいぶん変わっている。世界の一流ビジネススクールのランキングでは、以前はマッキンゼーに送り込んだ人数みたいなことが基準になっていましたが、今はどれだけ起業家として成功させたか、というほうが重視されるんです。

竹中 そうなんだよね。

キム ところが日本では、いまだに「寄らば大樹の陰」的な思考がものすごく強い。日本の労働市場やキャリア像はタイムラグが大きく、いまだにコンサルや大手金融機関に就職することが夢のキャリアだと思っている。
自分で独立してフロンティアを切り開いてやろうという意識が不足していますね。教育機関でも、起業家精神を育てようというところはあまりありません。リスク選好性が低いんです。

そこで提案なんですが、私は人それぞれ「働き方ポートフォリオ」みたいなものを作ればいいと思うんです。
とにかく「一つの仕事に一生懸命打ち込め」という発想は、まさに時代遅れの思い込みでしかありません。言いなりになって一つのことばかりやっていたら、転職できる可能性は限りなくゼロに近づくだけです。もちろん一つのことに打ち込む自己実現のあり方もありますが、人によってはパラレルキャリアみたいな形で、好きなことを全部やればいいんですよ。
私自身も、仕事をいくつかに分けています。これは稼ぐための仕事、これは勉強になるからやっている仕事、これは人脈のための仕事、これは趣味の仕事……という感じです。こういう「働き方ポートフォリオ」を、個人がそれぞれ自分に合うようにオーダーメイドで考えなくちゃいけないし、考えられる時代だと思うんですよね。

そうしていろいろやってみることで、本当に自分が好きな仕事、合っている仕事にヒットする確率も高くなるわけです。とにかく「好きなこと全部やりなはれ」というのが、私が言いたいことですね。

竹中 その一つの入り口になるのが、会社が社員の副業を認めることなんですよ。「専念義務」というわけのわからないルールを設けているところもありますが、これも時代遅れ。ちゃんと副業を認めれば、人それぞれ有意義な働き方ポートフォリオを作るチャンスを得られるわけです。
資生堂名誉会長の福原義春さんがよく使われる言葉に、「ハイフニスト」があります。一人で最低2つの肩書や専門性を持ち、それをハイフンでつないで表記しようというわけです。例えば「大学教授―小説家」とか「経営者―ミュージシャン」とか、人によっていろいろ考えられますね。

この点で有名なのが、日銀の理事をされていた吉野俊彦さん。その役職の他に、森鷗外の研究家としても一流だったんです。ご自宅には2つの書庫があり、帰宅してから夜の12時までは第一書庫でエコノミストとしての研究を行ない、12時を過ぎると第二書庫に移って森鷗外の研究をされていたといわれています。

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