若宮正子 著者に聞く『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』
2018年05月11日 公開 2018年05月14日 更新
聞き手:編集部 写真:吉田和本
――若宮さんは2017年6月、米アップル社が開催する世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待されました。80歳を超えてからプログラミングを学び、開発したiPhoneのゲームアプリ「hinadan」(携帯画面上の雛壇に五人囃子や三人官女など12体の人形を正しい位置に並べるゲーム)に同社のティム・クックCEOが注目したわけですが、まずは同ゲームアプリ開発の経緯から教えていただけますか?
若宮 いまでは多くの方が当たり前のように持ち歩いているスマートフォン(スマホ)ですが、じつはシニアには「便利」「楽しい」という感覚はあまりありません。私も同世代だからわかるのですが、まず、なんといっても使いにくい。そもそも、指で画面をスライドさせるのが簡単ではないのです。指先が乾燥しているからか、私もムキになって力いっぱい操作したら、スライドじゃなくて長押しになった経験があります(笑)。
――スマホを開発している世のビジネスパーソンには気付きにくい問題点かもしれません。
若宮 だから、「WWDC 2017」でクックさんにお会いしたときに、シニアがスマホを使うときの不便さをはっきりと訴えたんです。とても興味を示してくださって、拙い話を真摯に聞いてくださいました。
もう1つ、私が問題だと感じていたのが、シニアが喜んで使えるアプリが少ないことです。ゲームも若者向けのものばかりで、どれも楽しめそうにありません。そこで、ある若い友人に「私たちが喜びそうなゲームアプリをつくってよ」と話したら、「僕らの世代じゃシニアの好みはわかりません」と返されました。続けてのひと言が、「だったら、マーちゃん(若宮さんの愛称)が自身でつくればいいじゃないですか」。ハッと「たしかにそのとおりだ」と気付き、自分でつくってみようと考えたのです。
――その時点で、プログラミングの知識はあったのでしょうか?
若宮 いえ、ずぶの素人でした(笑)。すぐに入門書を3、4冊購入して、片っ端から読みました。私はいつも「これをやりたい!」と思ったら、それだけに集中する〝一点集中〟タイプ。「hinadan」をつくるときも、プログラミングを教えてくださった方に「これをつくるために必要なことだけを教えてください。3月3日の雛祭りまでにつくりたいんです」とお願いして、基礎の勉強はとりあえず後回しにしました。
――結果、81歳にして「hinadan」を開発したのですね。クックCEOが注目したのも頷けます。
若宮 人生って本当にわからないもので、この半年間は疾風怒濤のごとく、思いもかけないことが次々と起こりました。クックさんとお会いして、それがきっかけでさまざまなメディアの方からお声掛けいただきましたし、今年の2月にはニューヨークで開かれた国連総会の基調講演にも立たせていただきました。80歳を過ぎてこんな忙しい毎日を送るなんて、想像していませんでした。
――若宮さんは2017年、安倍政権の看板政策・人づくり革命の具体策を検討する「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにも選ばれています。さらにご著書を出版され、2冊目の作品として刊行されたのが本書です。
若宮 友人からは、「本は名刺代わりだから、自分の思いの丈を述べなさい」といわれました。そこで頭に浮かんだ問題意識が、「私と同年代のシニア層が周囲の目を気にしすぎている」ということです。
たとえば服装1つとっても、「こんな服を着ていると『いい歳をして派手すぎる』といわれるんじゃないか」とビクビクしている方がいます。パソコンだって、習いたいのならば教室に通えばいいのですが、「仲間外れになって脱落してしまうのではないか」などと気にして躊躇してしまう。自分を押さえ付けずに自然体で過ごしたほうが、間違いなく人生を楽しむことができます。そんなシニアに応援のメッセージを届けたいという想いで、この本を著しました。
(本記事は、『Voice』2018年6月号、「著者に聞く」若宮正子氏の『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』を一部抜粋したものです)