ハーバード大学で実践されている 「相手の能力の見極め方」
2018年07月19日 公開 2023年03月01日 更新
パートナーを選ぶのも、政治家を選ぶのも、そう変わらない
「実践的知恵」が備わっているのは、かつて問題に対処した経験がある証でもある。
だから、「それは場合による」という発言の次に、似たような経験談をしてくれるかどうかで、その人に実践的知恵が備わっているかどうかがわかる。
たとえば、私の母が、父にシャツをプレゼントするのはあまりいい考えではないと思いはじめたものの、ビリヤード台はちょっと高すぎる、と考えているとしよう。
母:あそこにあるボーリングのセットはどうかしら?
実践的知恵のあるセールスマン:ご自宅の芝の状態にもよります。私もあのセットを試してみたことがありますが、石やでこぼこがあると、ボールが真っすぐに転がっていかないんですよ。
「実践的知恵」のあるセールスマンなら、このプレゼントが誰のためのものかも考えるはずだ。
もしかすると父の日は、母がちょっとしたおもちゃを自分のために買う口実なのかもしれない。そうであれば、母に物を買わせるのはもっと簡単になる。
たとえば、政治の仕事とはあまり関係のない経験をさも関係があるかのように語る候補者がいたら、ほかの候補者に投票しよう。
エイブラハム・リンカーンは、よく田舎暮らしについて語ったが、ホワイトハウスを丸太小屋に例えることはなかった。
もちろん、大統領職が企業弁護士の仕事に似ているとも言わなかった。彼の経験は彼の実践的知恵に反映されていたが、リンカーンがその経験だけをもとに決断を下すことはなかった。
相手はあなたの「本当のニーズ」を考えているか
あなた自身もスイート・スポットがどこにあるのかわからないとき――論点がよくわからないときや、何を買ったらいいのかわからないときなど――にも、「実践的知恵」は役に立つ。
語り手を信用していいのかどうかを決めるときは、こう自問してみることだ。「この人は私のニーズがわかっているだろうか?」――つまり、あなたの本当のニーズが何だかわかっているだろうか?
「実践的知恵」の大切な特性のひとつが推測する能力、本当の論点は何なのかをつかむ技術だ。医療ドラマ『ハウス』に登場するぶっきらぼうな医師グレゴリー・ハウスは、この技術に長けている。
ハウスは誰にもわからなかった患者の本当の病因を正確に突き止める。あるエピソードでは、皮膚がオレンジ色に変色した患者が背中のけいれんを訴えて病院へやって来る。
ハウス:残念なことに、大変な問題があるようだ。君の奥さんは浮気をしている。
患者:何ですって?
ハウス:君は皮膚がオレンジ色だ! 君は気づいていないかもしれないが、奥さんが君の皮膚が変色していることにも気づいていないのだとすると、君のことをまったく気にかけていない、ということになる。ところで、君は最近人参を大量に食べたりビタミン剤を大量に飲んだりしたか?
(男が頷く)
ハウス:人参を食べすぎると皮膚が黄色くなる。ナイアシンの過剰摂取は皮膚が赤くなる。それから、いい弁護士を雇うことだ。
患者の背中のけいれんは、ゴルフによるものだとわかった。ハウスはもっと大きな問題を指摘したのだ。
夫の肌の色が人参のような色に変わったことにも気づかない妻は、浮気しているに違いない、と。
米国医師会は医者がシャーロック・ホームズのような技法を使うのを歓迎しないだろうが、ハウスは最高の「実践的知恵」を示した。聞き手の真のニーズは何なのか、そして本当の問題は何なのかを解明したのだ。
※本記事は、ジェイ・ハインリックス著『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。