ハーバード大学で実践されている 「相手の能力の見極め方」
2018年07月19日 公開 2023年03月01日 更新
<<上司を説得したい、部下をうまく動かしたい、妻の機嫌を損ねずに話したい……ビジネスだけでなく、人生のあらゆるときに役立つ最強の伝える技術があります。それが、「レトリック」。
レトリックは、あのハーバード大学をはじめ、欧米では最近注目が集まっています。アリストテレスからオバマまで、2000年にわたって世界のリーダーが使ってきた技術とはどんなものなのか。
ハーバード大学の必読図書トップ10に選出された『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』 の著者が、「相手の能力の見極め方」を紹介する。>>
能力が高い「実践力のある人間」が言う2つの言葉
スイート・スポットは、状況や聴衆によって変わる。たとえば、家を買いたい場合は、ビリヤード台の価格よりも20万ドルから30万ドルほど高い価格がスイート・スポットとなるだろう。
政治やビジネスの話題になると、この原則はさらにややこしくなる。子育てのことになるとなおさらそうだ。
ここでものを言うのが、説得者の「実践的知恵」だ。
次のふたつの言葉を言うかどうかで、説得者に「実践的知恵」が備わっているかどうかがわかる。
まず、「それは場合による」と言うかどうか。
実践力が備わっている人は、答えを出す前に、問題の大きさを考える。アドバイスをくれる人は、まずあなたに状況を尋ねてくるはずだ。あなたが抱えている問題がどういうものなのかを知りもせずに話し出すような相手の判断は、信用しないほうがいい。
新米の親:トイレ・トレーニングについての本を読むと、ものによってまったく反対のことが書いてあったりするんです。オムツをとるのは何歳ごろがいいんでしょう?
ずれた答え:トイレ・トレーニングをしたほうがいいなんて、嘘っぱちよ。子どもがオムツをはずしたいって言うまで待っていればいいのよ。
もっとずれた答え:2歳までには始めなければだめよ。
実践的で賢明な答え:その子にもよるわね。お子さんはトイレ・トレーニングに興味を持っている? あなたにトレーニングを始める気持ちはある? オムツだと問題はある?
これは実体験に基づいた話でもある。
娘のドロシー・ジュニアは我が家の初めての子どもだったので、数々の子育て本に振り回されることになった。
私たちはよかれと思って小さなプラスチックのトイレを使ったり、大慌てで娘をトイレに連れて行ったりしたものの、トイレ・トレーニングはまったくの失敗に終わった。
幸いにも娘の記憶には残っていないらしい。結局何か月か後になって、娘は自分からトイレに行くようになった。
いまでは私たちの子どもも大きくなったので、親になったばかりの人たちは、私たちが子育てについてはよくわかっているとお思いだろう。確かに、わかっている――ただし、うちの子どもたちのことなら。
思い返してみても、娘のときにはうまくいったことが、息子のジョージのときにはまるでうまくいかなかったりした。だから、誰かが私に一般的なアドバイスを求めてきても、こう答えることにしている。
「誰からのアドバイスもきかないほうがいいよ」
私はいつでも例外なくこう答えているのだが、それも考えてみれば実践的知恵に欠けていると言えるかもしれない。その点、友人のディックは、ずっと賢明だ。
うちの子どもたちがまだ小さいころ、彼と彼の妻のナンシーが、海外に引っ越すことになった。夫妻は5人の子どもを立派に育てて大学まで出させ、すでに夫婦ふたりきりの生活を送っていた。
妻と私は、休暇で彼らの住むヨーロッパを訪れたことがあるのだが、そのとき彼らのアパートのバルコニーに腰掛けながら、親としてどう振る舞えばいいのかさっぱりわからない、という悩みをディックに聞いてもらったのを覚えている。
私:娘をどう扱ったらいいか、やっとわかったころには、娘はもう成長してしまっているような感じだよ。それに、娘にはうまくいったことが、息子にはまったく通じない。自分は親になる用意がまだできていないんじゃないかと、ときどき思うんだ。
ディック:君の気持ちはよくわかるよ。僕だっていまだに親になる準備なんかできちゃいない。
それまでに聞いた育児関連のどんな話よりも心強い言葉だった。
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