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社会

「なんのために大学を出たんだ…」氷河期世代の苦しい胸中

平岡陽明(ひらおかようめい:作家)

2019年11月05日 公開 2019年11月06日 更新

 

「早くこんな生活から抜け出したい」

僕らは散々な目に遭った世代だった。

就職氷河期のど真ん中だから、まともな会社に入れた人間なんて1人もいなかった。仲間うちでもフリーターになった者が2名、仕方なく実家の酒屋を継いだ者が1名、パチプロになった者が1名。

僕もかろうじて出版社の契約社員に滑り込んだが、卒業と同時に奨学金のローン返済が始まり、毎月結構な額を引き落とされた。自分で保険料やケータイ代を支払うと、手元に残るお金はフルタイムでアルバイト生活を送る友人よりもずっと少なかった。

なんのために大学を出たのだろう、早くこんな生活から脱け出したい、とじっと手を見るような20代が続いた。

曲がりなりにも正社員になったのは小野だけだったが、本人が「SEなんて使い捨てだよ」と言うし、僕らもそう思っていた。卒業してからの小野はいつも疲れ果てていた。

20代後半になると、「宝くじ当たらないかなぁ」が口癖になった者がいた。正社員の中途採用に50件続けて落ちて、引きこもりになった者もいる。

そんななか、小野だけが生まれ変わろうとしていた。僕らが贈るべきは、嘲笑ではなく声援だったはずだ。

しかし自分を愛せない者が、他人を愛せるはずもなかった。そのうち同窓会も開かれなくなった。

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