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コロナ禍も生き延びたラーメン店の「知られざる工夫」とは

藏本猛Jr(ラーメンプロデューサー・一般社団法人国際ラーメン協会代表)

2021年06月25日 公開 2021年07月05日 更新

 

スープの量がちょうどいい「どんぶりの形」

ほとんどのお客様にとって、一般的なラーメン店で出されるスープの量は多すぎます。私がラーメン店をやっていたとき、お客様の中でラーメンのスープを全部飲み干す方は一割くらいしかいませんでした。

その一割にしても、スープが大好きで飲み干す人もいれば、出されたものは全部食べるというマナーでむりやり飲み干していた人もいたでしょう。なので、ラーメンのスープはもっと少なくしてもお客様の満足度は変わりませんし、むしろスープを残す罪悪感がなくなって嬉しい人もいるかもしれません。

一方、お店にとってみれば、スープにはお金がかかっていますから、一人に出すスープの量が減れば、同じ仕入れ量のスープでより多くのお客様にラーメンを提供できることになります。つまり、スープの量を減らすだけでラーメンの原価率を下げることができるのです。

見た目に物足りなく感じさせず、お客様にとってちょうどいいスープの量にするためには、どんぶりの形を工夫します。最近の新しいラーメン店が使う円錐型のどんぶりは、横に膨らんでいないため、昔ながらのどんぶりと比べると、中に入るスープの量が少なくなっています。

にもかかわらず、どんぶりの高さや、上から見たときの大きさは従来のどんぶりと変わらないので、お客様はスープの量が少ないとは感じません。

 

待ち時間を楽しくする

通常、私がプロデュースするラーメン店では、メニューにつけ麺を加えますが、つけ麺専門店にすることはまずありません。普通のラーメンのほうが圧倒的に受けますし、つけ麺は麺が太いため、ゆで時間がかかってお客様の回転率を上げられず、麺の量が多いため、原価も高くなるからです。

しかし、あるお店は「自分の好きなつけ麺を、オーナーとしていつでも食べられればそれで幸せ」と言うオーナーさんの強い希望により、つけ麺専門店としてオープンしました。

外食というのは、単に食事というだけではなく、イベントであり、体験です。

つけ麺自体はおいしかったけれども、長時間待たされたことでネガティブな印象になってしまえば、お客様の体験は良いものにはなりません。このお店は特注の極太麺を使っており、麺がゆであがるのに10分もかかります。そこで私は、お客様が待ち時間を長く感じないような工夫を考えました。

それは鰹節のトッピングです。座席に鰹節と削り器を配置して、麺がゆであがるまでの時間、お客様ご自身でつけ麺のスープに入れる鰹節を削ってもらうようにしました。今の時代、鰹節自体を見たことも触ったこともないという若者が多いと思います。

昔はこのような文化があったのだという紹介も兼ねて、また自分で食べるものを自分で作り出すというアトラクション的な意味も込めて、鰹節削りをしてもらっています。

もちろん鰹節はいらないという方は、無理に削らなくてもかまいません。「欲しい人はご自由にどうぞ」のスタンスですが、ほとんどのお客様が面白そうにチャレンジしてくれます。ラーメン店に来るという体験をどれだけ豊かなものにできるかが、リピーターを獲得できるかどうかの分かれ目です。

 

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