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CMでする決意表明はイタい? コンサルが考える「お客さま第一な企業」の特徴

小宮一慶(経営コンサルタント)

2022年06月08日 公開

 

「お客さま第一」かどうかはCMにも表れる

コマーシャルを見ていても、その会社の姿勢が分かる。最近のみずほ銀行のCMのキャッチコピー、「One MIZUHO」。あれは控えめに言っても最悪である。

ご存じの通り、みずほ銀行は第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が統合されてできた銀行だ。それから約20年が経ち、彼らは「私たちは、今までは内部で対立や分断がありましたが、やっと1つになりました」と、なぜか誇らしげに宣言する。

だが、みずほ銀行の顧客にとって、それが何だと言うのか。社内向けの広報誌にでも書いておけば良いことであり、私たちがそんな自己満足を聞かされる道理はない。要は、内部志向なのだ。

やっと1つになったことが、お客さまにとって何の価値があるのか。銀行を大々的にアピールするキャッチフレーズだから、役員の事前決裁もあったはずなのに、役員の誰かや広告代理店もおかしいと思わなかったのだろうか。

問題となったシステム障害も、その帰結と言って良いだろう。もし彼らが「お客さまのために」という外部志向を常に持って仕事に向かっていたら、発生しなかったに違いない。

巨大銀行が統合したのだから混乱も致し方ない、というのは体の良い弁解に過ぎない。三菱UFJ銀行も三井住友銀行も統合行だが、システム障害など起こしていない。

こうした、巨大企業の意識のズレは、CMに如実に表れる。日産もそうだった時期がある。同社が以前、経営危機に陥ったころのCMには、それもむべなるかな、と思わせるものがあった。

「100分の1秒から1000分の1秒の世界へ、技術の日産」

これまた、顧客にとっては「それがどうした」の世界だ。F1レーサーならいざ知らず、一般のドライバーに100分の1秒単位の精度など必要ないし、まして1000分の1秒なんてどうでも良い。

もちろん、すばらしい技術であることは間違いない。だが、彼ら自身の関心事が、ひたすら自分たちの技術力の高さのみであることが情けない。そこに、顧客のニーズという視点がまったく存在していない。

その後、同社が掲げたCMコピーが「イチロ・ニッサン」。イチローさんという偉大な選手がCMに出てくれたから買いなさい、ということか。これまたドライバーの利便性にも快適性にもまったく関係がない。内部指向なのだ。そして、ほどなくルノーの傘下に入った。

そして最近のCMコピーはと言うと、「やっちゃえNISSAN」。このCMのキャッチコピーに関しては、判断は読者の方たちに委ねよう。

 

会社の決意表明にお客さまは興味がない

このように、広告は企業の姿勢をきれいに映しだす。30字にも満たない短いメッセージだが、その中に「お客さまや社会に何をもたらすのか」が含まれているかどうかは、重要な分岐点だ。

私は、消費者として、経営コンサルタントとして、必ずそれを見る。ユーザーや社会のどんな困りごとを解決してくれるのか、もしくは、どんな利便性の向上を提供してくれるのか。そのどちらも含まない掛け声だけの決意表明を見せられてもどうしようもない。

ましてや「One MIZUHO」のように、「ようやく1つになりました」のようなメッセージは何の意味があるのだろうか。

私の会社のコンサルタントたちにも、会社を見るときには、外部志向か、内部志向かを見極めるように、と常々伝えている。分からなければ「お客さま第一」かどうかだけを見てくるようにと言っている。

経営者はすべからく、これを自問するべきだ。そこだけ見ていても、良い会社かどうかがはっきり分かるからだ。

 

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