ビジネスモデルの構築は、物理の理論構築と似てる
【北川】物理学者のものの見方でもう1つ特徴的なのが、「直感」です。
【深井】直感、ですか。
【北川】はい。超一流の物理学者とそうじゃない人を分けるのが、直感です。ただこの直感とは、きわめて強い理論や数式に下支えされたうえでのものです。
【野村】単なる勘ではないのですね。
【北川】ええ、違います。ひたすら数式を解き続け、毎日大量に計算をしまくった結果、残るのが直感というわけです。
【深井】なるほど。物理だけではなくて、社会科学や社会学でもそうだと感じます。
【北川】まさにそうですね。とくに物理は、1兆分の1の精度で理論の正しさが確認されているから、直感も正確になりやすいです。
だから物理学者同士で話すときは、すごく身振り手振りが多くなります。会話の中に数式は入りますが、直感的な表現で理論を構築していく。ある意味、とてもクリエイティブなんです。
【深井】へええ。
【北川】そして僕は10年近くビジネスをやってきて、ビジネスモデルの構築は、物理の理論構築とよく似ていると感じています。きわめて直感が働きやすい。
うまくいっている企業のビジネスモデルやオペレーション、またどういうインシデントが発生しているかをひたすら学んで理解していくと、あるビジネスモデルに接したときに、うまくいくかどうかが直感的にわかるようになります。
【野村】逆に、「直感的には儲からないはずなのに、なぜか収益を上げているな」と思う企業やビジネスモデルはあるのでしょうか?
【北川】それもありますね。僕の経験から考えて、そのような企業は間違いなく、彼らの業界でしか理解されない「慣習」があるんです。
本来、ビジネスは儲かることしかやらないはずだから、「こうなるはずだ」と思って組み立てていっても、「あれ? おかしいな」ということや、「何でそんなことをするの?」という行動や考え方に出会うことがある。
そこにはたいてい、慣習が横たわっています。ビジネスの世界に移ったとき、僕はここに苦労しました。それが顕著なのが、規制業種です。
たとえば、電気料金は少し前まで国によって決められていたので、マーケットの原理が成り立ちません。そうした「最適化」されていない状況では、理解が難しかったですね。
物理学とビジネスの大きな違いは、物理学が原理原則でものごとを理解できるのに対し、ビジネスは長い時間をかけ、いろんな慣習やプレイヤーの歴史を背負っている点です。
税率などもそうですが、物理学的に見て最適化されていない点は、まず覚えてしまう。そのうえで過去の経緯も踏まえると、直感的な理解ができることが多くなります。