1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 専門家が教える「先延ばしする人」「すぐやる人」で分かれる脳の使い方

生き方

専門家が教える「先延ばしする人」「すぐやる人」で分かれる脳の使い方

大平信孝(メンタルコーチ)

2024年01月09日 公開

専門家が教える「先延ばしする人」「すぐやる人」で分かれる脳の使い方

締切ギリギリまで動けない。集中力がすぐ途切れてしまい、やりたい作業が一向に進まない.....「先延ばしグセ」は多くの人にとって積年の悩みかもしれません。

メンタルコーチの大平信孝さんは、先延ばしグセの原因は本人の性格ではなく"脳の仕組み"が関係していると分析します。2021年に出版した著書『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』(かんき出版)は20万部を突破し、同じ悩みを抱える人に変わるきっかけを与えてきました。そんな大平さんに、先延ばしグセを無理なく治す方法をお聞きしました。

取材・執筆:片平奈々子(PHPオンライン編集部)

 

「先延ばしグセ」の正体

――「先延ばしグセ」に悩む人は数多くいます。PHPオンラインでも関連の記事を配信する度に反響があり、世間の関心の高さに驚きます。仕事のタスクや家事など、すぐにやった方が良いことを、なぜ先延ばしにしてしまうのでしょうか?

【大平】原因は"脳の仕組み"ですね。「先延ばしグセ」は能力や性格的な問題が原因ではありません。元々めんどくさがり屋な脳の性質が関係しています。そのため、つい物事を後回しにしてしまう自分を責める必要はないんです。

脳は本来、変化を嫌うものです。防衛本能があるので、今まで生き延びてこれた思考や行動パターンを変えたがりません。命に別状がない限り現状維持を好みます。

"先延ばしをやめる方法"は調べたら沢山出てきますが、それに挑戦してもなかなか先延ばしを撃退できないのは脳が急な変化を嫌うことが原因です。

――脳の仕組み上、仕方ないことなのですね。それでもやはり「すぐやる人」も存在すると思います。そんな人にはどのような特徴がありますか?

【大平】「すぐやる人」は脳の"側坐核"がうまく使えている人です。側坐核を刺激すればドーパミンが放出されます。ドーパミンは脳内で興奮や意欲を生み出す物質で、それによって「やる気スイッチ」が入ると言われています。

「すぐやる人」は熱血で気合と根性に満ちているイメージを持たれるかもしれませんが、実は脳のメカニズムをうまく活用している人が多いように思います。

――「先延ばしする人」と「すぐやる人」とでは、脳の使い方に差があったのですね。では、すぐに行動できる人にはどのようなメリットがあるのでしょう。

【大平】今は変化が激しく、正解が一つと言えない時代にあります。先行きの不透明感が強いので、まず試してみて反応を見てやり方を変えて...と繰り返し行動を起こせる人が有利になるでしょう。完成形を求めて計画を練っているうちに、世の中はどんどん変わってしまいますからね。

Amazon創設者のジェフ・ベゾスも過去のインタビューで、"ストレスは主に、自分がある程度コントロールできるものに対して行動を起こさないことから来る"と語っていました。成功を目指すなら、柔軟に動く力が何より重要になるのだと思います。

 

先延ばしグセを直す第一歩とは?

――今回の取材にあたって編集部でも「やるべきことをやっていないと、ストレスが溜まる」という声がありました。この状況はどうやったら切り替えられますか...?

【大平】やるべきタスクが積み重なって、何から手を付けたら良いかわからない状況は相当なストレスになりますよね。そんなときにおすすめしたいのは「やらない決断」です。

やらなきゃいけないことを抱えてしまう人って、あれもこれも全てやろうとしてしまいます。だから例えば、今週はBの案件はやらない、今日はCの作業は一切触れないなど、やらないことを決めてしまいましょう。タスクの引き算をするイメージです。

優先順位が大切とよく言われますが、優先順位ってそう簡単に決められないと思います。だからこそ「やらない決断」をすると本当ラクになりますよ。

――しかし、先延ばしグセに関する情報がこれだけネットや書籍などに溢れているのに、悩む人が一向に減らないのはなぜなのでしょうか?

【大平】それは皆さんが劇的に変わろうとしてしまうからです。先延ばしグセを一気に変えようすると、先ほどもお話しした脳の防衛本能が邪魔をしてきます。

でも、小さな変化なら脳は見逃してくれます。"脳の可塑性"といって、粘土に少しだけ力を加えるとわずかにへこみができますよね。そのへこみ程度あれば、変化と見なさずスルーしてくれる性質です。

つまり、先延ばしグセを本気で治したいときこそ、一気に直そうとするのではなく、小さなアクションから始めていけば良いのです。小さなアクションというのは、勉強用の参考書を鞄に入れるだけ、部屋のわずかな一区画を整頓するだけ、その程度のことで構いません。

 

“繊細な人”ほど物事を先延ばしする傾向に

――ご著書に、先延ばしグセと自己肯定感の低さは相関しているとありました。他人と比べたり、考えすぎたり、近年話題のHSPや繊細さんと呼ばれる人に当てはまるようにも思いました。

【大平】決めたことを実行できず先延ばしすると、自信がどんどん縮んでいくので自己肯定感も下がってしまいます。すると「自分なんて...」と言いながら、決めたことをますます実行できなくなって負のループに陥ります。

HSPや繊細さんに限らず、ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事に敏感な方は行動して「うまくいかなかったらどうしよう」と後ろ向きな想像をすることが多いです。だから行動自体が億劫になってしまい、色々なことを先延ばししがちです。

反対に、行動できるタイプの人は「うまくいったらどうしよう」と考えるんです。ここでうまくスピーチできて、褒められて、その先の結果に結びついたら楽しそうって。行動を抑止するネガティブな発想がありません。

自分はネガティブ思考だからすぐ行動できないと、落ち込む必要はありません。繰り返しになりますが、先延ばしグセ自体は本人の問題ではなく"脳の仕組み"のせいなんです。まずその性質を知ることが大切です。

自己肯定感が低く、何か行動する前に否定的になりがちな人は、自分に部分点をつけてあげることをおすすめしています。

例えば一冊何か本を読みたいと思っても、なかなか進まないことってありますよね。そんな時は、1日1行読んだだけ、本を手に取っただけでも、読むための行動ができたと認めていくのです。予定通りのところまで読めなくても1ページ読めたなら、10点満点中、2点くらい自分にあげても良いと思います。

すべてを0か100で考えると、できない自分が嫌になり先延ばしにつながります。完璧でなくても、少し動けた自分を褒めてあげる。この積み重ねで心理状態も徐々に上向いていき、すぐやる人に近づいていきます。

 

現代人の集中力が低下した根本原因

――集中力の低下に悩む人も年々増えているように思います。スマホやネットなんかも関係してそうですが、大平さんは原因をどのようにお考えですか?

【大平】身近に情報が溢れすぎていることが原因の一つだと思います。さらに価値観が多様化しているため、自分の軸を持ちにくくなっています。軸がないと、入ってきた情報を「その通りにしなければ」と何でもかんでも受け入れてしまう。するとあちこちに意識が散って、集中できない状況に陥るのです。

――確かに、現代は沢山の価値観を受け入れなければいけない空気がありますね。これはどう対処できますか?

【大平】情報がいくら多くても、自分の中に明確な目的があれば、方向を見極めて一点に集中することができます。

例えば、何か資格を取得したいとき資格取得自体は目的にはなりません。その資格を活かしてどんな自分を目指すかが最も重要です。しかし、勉強を続けるうちに資格を取ることだけが目標になってしまうことがあります。本来の目的を見失ってしまうと、努力の方向性がズレてしまいます。

片付けであっても、くつろぐ空間を持ちたいのか、仕事のスペースを整えたいのかなど、目的をまず明確にしましょう。「何のために片づけるのか?」という目的が明確になれば、手段である片づけに集中できるので作業も捗ります。

 

すぐ始められる“集中力を高める習慣”

――他に集中力を高める手軽な方法はありますか?

【大平】集中力を阻害するものを特定して排除することも有効です。特にスマホは時間泥棒の主犯格です。何かに集中したいときはスマホを別の部屋に保管する。ダラダラ見てしまうアプリがあれば、沢山スクロールしないとアクセスできないようにします。テレビのせいで集中できないのであれば、リモコンを遠くに置いたり、コンセントを抜いてみましょう。

反対に、何か集中したいものがある場合には、すぐ手に取れる場所に置くのがおすすめです。読書習慣が欲しければ本をいつも座る席の近くに、何か演奏がうまくなりたければ楽器を日頃から目に入る場所に置くと良いでしょう。私たちは視界からの情報に強く影響されているのです。

――リモートワークで集中できない場合はどのような対策ができますか?

リモートワークで集中するためには、2つの対策が考えられます。一つ目は、同じ場所で同じことを行う習慣をつけることです。家のこの部屋では事務作業、企画を考えたりクリエイティブな作業は喫茶店で、などと場所を決めてみるのです。

これは、一部屋しかなくてもできます。家の中で机に座る向きを変えるだけでも良いでしょう。窓が見えるか見えないかだけでも気分を切り替えられますよね。

これを心理学では「アンカリング」と呼びます。同じ場所で同じ作業をすると決めると、徐々に脳に刷り込まれていくので自ずと集中できるようになるのです。

二つ目は、メモを活用することです。例えば、在宅勤務中に宅配便の受け取りなどで作業を中断せざるを得ないとき、何の仕事が途中だったのかを付箋に書き残しておきましょう。机に戻ってきた未来の自分が、何から手を付けるべきか迷うのを防ぐためです。

また、仕事やプライベートで考え事が多すぎて集中できない状況にもメモは有効です。頭の中だけで考えているときって、どうしても物事を大きく捉えすぎてしまう傾向があります。頭にあるモヤモヤを書き出して見える化してみると、意外とあっさり解決できることに気づくものです。

――確かに頭の中だけで考えているとき、やけに大きな悩みを抱えている気持ちになります...メモ、活用してみます!ちなみに、メモはスマホに打ち込むより手書きの方が良いのでしょうか?

【大平】付箋やノートを用意して手書きするのがおすすめです。日々頻繁にデジタルに触れている人ほど、メモはアナログにすると気分転換にもなって良いと思います。

 

著者紹介

大平信孝(おおひら・のぶたか)

アンカリング・イノベーション代表

中央大学卒業。長野県出身。
脳科学とアドラー心理学を組み合わせた、独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。その卓越したアプローチによって、これまで1万5000人以上の課題を解決してきたほか、オリンピック出場選手、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績が話題となり、各種メディアからの依頼が殺到。現在は法人向けにチームマネジメント・セルフマネジメントに関する研修、講演、エグゼクティブコーチングを提供。これまでサポートしてきた企業は、IT、通信教育、商社、医療、美容、小売りなど40以上の業種にわたる。
「2030年までに次世代リーダーをサポートするプロコーチを1000人輩出し、日本を元気に!」を目標に掲げ、プロコーチ養成スクール「NEXT」を開講。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×