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宇都宮徹壱 サッカー日本代表「終わりの始まり」

2018年06月06日 公開
2018年06月06日 更新

宇都宮徹壱(ノンフィクションライター)

3年間の「集大成」をひっくり返す

あらためて、田嶋会長が会見で語った4つのポイントについて、なぜツッコミどころ満載なのか検証したい。

まず①について。ベルギーの2試合は、1分け1敗に終わったが、あくまでも現時点での戦力を見極めるテスト。本来、それほど重視すべきものではなかった。加えて「選手とのコミュニケーションや信頼関係」は、たしかに重要な要素のひとつではあるが、それらが「多少薄れてきた」ことが解任の理由となることに、納得できる人はどれだけいるだろうか。

次に②。監督からではなく、選手から直接話を聞いたということは、会長自らが不満分子の意見を受け入れたと捉えられるリスクがある。また、それが事実ならば、ナショナルチームそのものが成立しえなくなるだけでなく、ファンにも余計な疑心暗鬼を与えることになりかねない。

そして③。監督と選手とのコミュニケーションや信頼関係に問題があったとするならば、最も身近にいた西野技術委員長は適切な仕事ができていなかったことになる。その責を問われることもなく、後任監督にスライドすること自体、道義に反する話だ。

最後に④。「1%でも、2%でも、W杯で勝つ可能性を追い求めていきたい」のであれば、なおさらハリルホジッチ監督を、このタイミングで解任すべきでなかった。また、W杯で指揮を執った経験をもたない西野新監督が、前任者よりも好成績を残せるという論拠も、この会見では示されていなかった。

田嶋会長の会見は、まったく説得力の感じられない言葉に終始した。納得できないばかりか、怒りさえ込み上げてきた。なぜなら今回の決定によって、われわれサッカーファンは、W杯での楽しみを大会前に奪われてしまったからだ。この事実は、きわめて重い。

ロシアで開催されるW杯は、ハリルホジッチ体制の3年間の「集大成」となるはずであった。多少のストレスを感じながらも見守ってきた、これまでの試合の数々が、どんな伏線となって極上のカタルシスへと昇華させてくれるのか。

そして3年間の努力の成果が、コロンビアやセネガルやポーランドと相対したとき、どれだけ通用するのか(あるいはしないのか)、しっかり見極めた上で、次の4年間への指針となるはずであった。

この3年間の集大成を、ロシアの地で見届ける。それは、多くのサッカーファンがずっと楽しみにしていたことであり、これまでの強化プロセスの成果を確認する意味でも不可欠であった。それらが会長の一存によって、ひっくり返されてしまったのが、今回の解任騒動の本質的問題なのである。

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