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くらし

あえて綺麗にしない...横浜・野毛に“場末の空気”が漂うワケ

佐野亨(フリーライター)

2023年01月24日 公開 2023年12月26日 更新

 

萬里の秘宝十九番

特別中国ランチ

メニューには一番の焼餃子から通し番号がふられているが、十九番に特別中国ランチなるメニュー名が書かれている。

平岡正明は、この特別中国ランチをアンドレ・ブルトンの『秘法十七番』にかけて「萬里の秘宝十九番」とよんだ。楕円形の皿の上に白飯、野菜のうま煮、白身魚の揚げもの、焼豚、キャベツがのっている。

平岡氏にこのメニューを教えたのは、1986年(昭和61年)からこの地の看板行事として開催されている野毛大道芸のオルガナイザー橋本隆雄で、橋本氏によると「まず醤油をかける。やおら飯の山を箸でつき崩して具とまぜる。これが19番の食べ方」(『横浜的』)だそうだ。

野毛ならぬ「余毛」を舞台とした山崎洋子の小説『ヨコハマB級ラビリンス』に登場する商店主は、「余毛の店は二代目、三代目が多いから、いま中年になってる店主なんかも、みんな小学校の同窓生だったりするんです。学校が一緒じゃなくても近所の遊び仲間だったとかね」と語っているが、萬里の福田大地さんも三代目だ。

ちなみに、平岡正明とも懇意だった二代目の福田豊さんは、橋本隆雄とおなじく野毛大道芸の初期からの運営メンバーである。

「野毛はどこまでも裏町であるべきだと思っているので、あえてきれいにしないほうがいいんじゃないかな。まちには、きれいごとだけではすまない、気兼ねなくホンネを吐き出せるような場所も必要でしょう。駅の反対側のみなとみらいはきれいで便利だけれど、タテマエばかりで居心地がわるいと感じるひともいて、野毛はそういうひとたちのためのホンネのまちなんです」(大地さん)

 

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