「はきはきと聞き取りやすい」「滑舌がよく、流暢」話し方が上手な人にはこのような特徴があげられるだろう。しかし佐藤政樹氏は、「話し方が上手くなければ人を惹きつけられない」という訳ではないと語る。不器用な人でも実践できる心に響く話し方とは?
※本稿は佐藤政樹著『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
不器用でも惹きつけられるスピーチ
「話が上手いほうが、人を惹きつけられる」
普通は、こう思えますよね。ここで、結婚披露宴で私が経験した、あるスピーチのエピソードを紹介させてください。誰がどう見ても口下手で不器用そうな男性が、決して上手とはいえない話し方で、聴衆を惹きつけて感動をもたらした話です。この話にヒントがあります。
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ある二人の男女が、新郎新婦を祝うために友人を代表してスピーチをしました。
まずは女性からです。彼女は人前で話すことに慣れているようで、魅力的な笑顔でスピーチをはじめました。とても上手です。一度も噛みません。流れるような綺麗な話し方は、聞いていてとても安心感があります。最後に彼女が「本日は、おめでとうございます」と締めくくると、会場からは拍手が湧きました。
次に、男性のスピーチです。男性は自分の名前が紹介されると新郎新婦の横に向かいました。明らかに緊張していて顔が真っ青です。ガチガチな姿を見た会場は「この人、大丈夫なの...」という不穏なムードに包まれました。参加者も不安そうな目で彼を見つめます。
「ほ、本日は、ごご、ご結婚...おめでとう、ございます」。用意していたスピーチ原稿を広げて、彼はか細い声で読みはじめました。しかし、そのうちに手が震えてしまってまったく読めなくなってしまいました。
紙が震えてパタパタと音が響き、怯えた姿はまるで生まれたての小鹿のようです。彼は一生懸命に原稿を読もうとするのですが、あまりの緊張のために声が出ないようです。会場はざわつき、「がんばれー」という声も聞こえます。イヤな間がしばらく続きました。
そのときです。彼は突然、「ちくしょう...」とマイクに向かってつぶやきました。会場はシーンとしています。すると、彼はもう一度「ちくしょう!」と叫んで、手を振り下ろしました。なんと、用意した原稿から完全に目を離したのです。
そこからは別人のようになって、新郎新婦の二人をしっかりと見つめながら、思い出を語りはじめました。
「大吾、美希...、あの、俺が、セッティングしたバーベキューでお前ら二人が出会って...結婚するなんて、俺、マジで夢にも思わなかったよ...めちゃめちゃ嬉しいよ...」
会場の空気は一気に変わりました。全員が食事や会話もやめて、しーんと静まり返り、彼の一言一言を逃さないよう、集中して聞きはじめました。二人との思い出のストーリーを淡々と語る姿に、新郎は目を真っ赤にしています。
スピーチをしている彼は自分も泣きそうになっていましたが、なんとかこらえて、深い呼吸をして気持ちを整え落ち着かせているようでした。しばらく、会場では無言が続いています。
最後に彼は、新郎新婦に向けて「おめでとう」と、重みのある言葉を言い切りました。するとその直後、会場に文字通り割れんばかりの拍手喝采が鳴り響いたのです!
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いかがでしょうか。スピーチをした彼は、決して話し上手ではありません。むしろ、こう言っては申し訳ないのですが、決してセンスがあるわけでもなく不器用なタイプだと思います。
特に、人前なんて大嫌いでしょう。しかし彼は、確実に人を惹きつけて、聞く者の心を動かしていました。場の熱量や参加者の集中力、新郎の涙、拍手の量など、どれをとっても、間違いありません。
披露宴が終わった後も、参加者が口々に「あのスピーチはすごかった...」「今日の感動は全部彼が持っていった」と話すくらい、感動的なスピーチだったのです。なぜ、彼の話は人を惹きつけたのでしょうか。
実はこういったことは、私たちの生活や仕事中にも頻繁に起こっています。自分ではしっかり練習して綺麗に話せたつもりなのに、現場では空振りだった。逆に肩の力を抜いてありのままの自分をさらけ出してしまったときには、むしろ高く評価してもらい、成約につながった。
いつも結果が出ているあの人は、決して話し方が上手いわけではないけれど、妙に説得力がある。もしかしたら、あなた自身にも思い当たる経験があるかもしれません。
このエピソードを通じて伝えたかったのは、「最も心に響くのは、上手にすらすら話す人の言葉ではない」ということです。たとえ口下手でも、演じるのではなく等身大の自分として話せれば、人の心を動かすことができるのです。
人を惹きつけて結果を出すためには、まず「上手く話さなければいけない」「かっこよく綺麗に話さなければいけない」といった思い込みをリセットする。これが第一歩です。