ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『人材投資のジレンマ』(守島基博、初見康行、山尾佐智子、木内康裕著、日経BP・日本経済新聞出版)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
今、人材投資に注目が集まる
「人」が一番大切な資産。そう経営者が答えているインタビューをよく目にします。そして今、政府が後押しする形で、人的資本経営、リスキリングに注目が集まり、人材投資が重視されるようになりました。
しかし、人材投資には成果がすぐに表れにくいからか、本格的な投資に二の足を踏んでいる人材育成担当も目にします。本書は研究結果に基づき、人材投資の意義と効果の発現について、よりクリアにわかる一冊です。
ヒト、モノ、カネ、と言われる経営資源の中で、世界的に投資資金は増え続け、モノとカネはもはや制約ではなくなり、ほとんどの会社では「ヒト」が最重要のテーマとなっています。各社は、優秀な人材確保と育成に注力していることを盛んに訴えています。
出生率が低く推移しているため、働く世代の人口減少はこれからもしばらく続くことがほぼ確定しています。求人倍率の上昇傾向は止まらず、今の指標は80年代後半のバブル期並みの水準にあります。
今までは人が退職したら代わりの人を雇えばよかったのですが、人材が潤沢に採用できなくなってきたため、社員の育成が会社にとっての重要な使命となるのは明白です。ところが、海外の企業と比較すると、人に対する人材育成投資の規模が全く足りていないことも見えてきます。
本書は様々な統計データと提言が紹介されているため、これからの人材投資を俯瞰する助けになるでしょう。以降でその内容に触れていきます。
人を大切にするという言葉を実行に移すべき理由
実際、人材にどの程度の投資が行われてきたかを理解するために、本書で紹介されている人材投資額(対GDP比)の推移を参照していきます。2005年ごろには製造業、非製造業でそれぞれ0.43%、0.39%程度だった人材投資額は、2018年時点ではそれぞれ0.35%、0.29%程度に低下しています。
また、海外との比較を見てみると、米国・英国・ドイツ・フランス・イタリアのいずれと比較しても、半分以下になっています。それだけ日本では、人に対する投資が実際は重視されてこなかったとも言えます。
内閣府の調査によると、人的資本投資が1%増加すると、労働生産性が0.6%上昇すると試算されています。労働生産性の国際比較では、先進国の中で最も低い水準になっています。ここに労働生産性の改善の糸口が見えてきます。
もう一つ気になるデータがあります。大企業における男性の離職率の増加傾向です。元々は男性の離職率が低く、女性の離職率が高い傾向が見てとれました。
しかし、2000年以降はその差が徐々に詰まってきています。女性の離職率は下がった一方で、男性の離職率が上がってきています。特にその傾向は大企業において顕著です。
雇用におけるジェンダーの差はなくなっていく方向性の中で、大企業に勤めれば一生安泰、という考え方で過ごしてきた大企業の男性社員も、外の世界に目を向けるようになってきたのです。