仕事上では、ときに厳しいフィードバックも必要になります。そんなとき、相手に反感を持たせず、かつ伝えるべきことはしっかり伝えるためにはどうすればいいのか。3000人以上のインタビューを通しハイパフォーマーを分析してきた人事・組織コンサルタントの相原孝夫さんに、「上手なフィードバックのための2つの要素」を聞きました。
※本稿は、相原孝夫著『人望が集まるリーダーの話し方』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
上手に相手にダメ出しする方法
<『人望が集まるリーダーの話し方』P.214>
職場におけるコミュニケーションにおいて、最難関の1つは明らかにフィードバックでしょう。特に、厳しいことを言わなければならないケースにおいては、なかなか上手くできないものです。
相手との関係が良好であればできるというものでもありません。その関係を壊さないように、批判的なことは言わないでおこうとなりがちだからです。本当の意味での信頼関係ができていなければ難しいのです。
近年は、以前と比較しても、厳しいフィードバックは年々少なくなってきているように見て取れます。理由の1つにはハラスメントへの懸念があるでしょう。相手が反感を持ってしまいパワハラと取られかねないとの思いがある場合は、厳しいことは言いづらくなります。
また、ダイバーシティにより人材が多様化すれば、それぞれに合わせたフィードバックも難しくなります。
さまざま要因はありますが、厳しいフィードバックがなくなれば、当人の成長もなくなります。成長がなくなれば、成果もあがらなくなるというように、ビジネス上のたいへん重要な側面が機能しなくなるのです。
これほど重要なフィードバックですが、これを上手くできるリーダーはどれほどいるのでしょうか。
効果的なフィードバックはそう簡単なことではありません。『GREAT BOSS』(東洋経済新報社)の著者で、アップルやグーグルの管理職研修プログラムを運営してきた、キム・スコットの分類に従えば、効果的なフィードバックには2つの側面があります。
「気づかいがある」ことと「率直に言う」ことです。この2つの要素が共に満たされてはじめて、効果的なフィードバックが成立するのです。
さらにキム・スコットは次のスティーブ・ジョブズの言葉を紹介しています。
「決して相手の能力を疑っているわけではないことを伝えながら、解釈の余地を残さないように批判しないといけない......すごく難しいんだが」。
キム・スコットは、「気づかいがある」と「率直に言う」を軸とし、4象限で示しています。この2つのどちらか一方に失敗した場合、図の「不快な攻撃」か「害のあるやさしさ」になってしまいます。
気づかいなく、ただ率直に言ってしまえば「不快な攻撃」となり、フィードバックがマイナスとなり、「言わないほうがよかった」となってしまいます。逆に、気づかいはあるが率直に言えない場合は「害のあるやさしさ」となってしまいます。「気づかいがある」と「率直に言う」の両方に失敗した場合、「摩擦の回避」となります。
上司として致命的な「いい人」
日本においては、ハイコンテクスト文化ということもあり、率直に伝えることは多くの人が苦手としており、「害のあるやさしさ」になってしまうケースが多いと考えられます。つまり「毒にも薬にもならない、いい人」ということです。
そもそも「いい人」と呼ばれる場合、相手が何か物足りなさを感じていることが多いものです。表面的につき合う相手としてはいいのかもしれませんが、こういう人が上司であるような場合、何を言いたいのかわからず、チームとしての成果はあがらなくなってしまいます。
このような場合、気づかいがあるといっても、気づかっているのは部下ではなく、それ以上に自分であるという点を認識しなければなりません。「相手を傷つけないように」との配慮の一方で、「自分が嫌われないように」との配慮も働いているのです。嫌われないように何重にもオブラートにくるんで曖昧に伝えてしまうのです。
そのような場合、部下は何を伝えようとしているのかよくわからず、行動改善のフィードバックにならないため放置されていることになります。部下にとっては成長の機会が失われることになるのです。
また、こんな「いい人」もいます。チームミーティングなどでメンバーどうしの意見の対立が起こると「まあまあ熱くならないで」と治めてしまうやさしい上司です。
冷静に議論をするためであればいいのですが、その論点について解決に至らず、お茶を濁したまま次の話題へ進んでしまうような場合は、4象限の「害のあるやさしさ」であり、チーム全体にそうした文化を植えつけてしまうことにもなりかねません。
そうしたことを何度か経験させてしまうと、メンバーは有意義な議論をしなくなってしまいます。