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部下にやさしい上司ほど「職場の害」になる

相原孝夫(人事・組織コンサルタント)

2023年12月04日 公開

 

まずは自分への批判を歓迎する

ダメな仕事を率直に伝えるのはとても難しいことですが、スムーズに行える状況があります。それはフィードバックの文化が備わっている状況です。

4象限の「徹底した正直さ」が発揮できる状況にするために、一人ずつにフィードバックの教育をしていくことは得策ではありません。当たり前にそれができるフィードバック文化を組織に醸成することで、誰もがためらいなく「徹底した正直さ」を発揮できるようになるのです。

そのような文化を醸成するためには、何よりも上司自身が進んで耳の痛いフィードバックを受けるようにするのが早道です。つまり、「私が間違っていたら教えてほしい」と心から言えるかどうかにかかっています。

キム・スコットも、「徹底した正直さ」を発揮できる文化を築くには、「まずは部下から上司である自分を批判してもらうほうがいい」と言っており、その理由として次の3つを挙げています。

・ 第1に、批判を歓迎することで、あなた自身もよく間違えるということを自覚していることや、間違っていたら教えてほしいと思っていること、反対意見を歓迎していることを周囲に示すことができる

・第2に、自分自身について多くを学ぶことができる

・第3に、批判されるとどんな気持ちになるかがわかる

また、フィードバック文化を醸成する出発点としては、組織に好循環を起こす優れた見本が重要です。

例えば、ある優れたリーダーが率直なフィードバックをして、そのフィードバックを活かして当人が結果を出せば、信頼関係は深まり、さらに率直なフィードバックをすることができる。このように、上司と部下との関係は上手く行き始めると好循環が生まれます。

さらに、上司と部下の関係性に留まらず、チーム全体に対しても、1つの見本として好影響を与えます。そうして組織全体としての文化が醸成されるのです。

一方、悪い関係は悪循環を起こします。

十分な信頼関係がない状態だと率直なフィードバックのつもりが「不快な攻撃」になってしまい、それによって関係はさらに悪化し、より一層、率直なフィードバックが行えない状況になり、やがて対話も少なくなり、上司・部下の関係もそうですが、チーム全体にも悪影響を及ぼしてしまいます。

残念ながら良い影響より悪い影響のほうが、影響力が大きいのです。

「ネガティブ・バイアス」と言われるもので、ネガティブな出来事はたった1つで大きな影響を及ぼし、いとも簡単にチームに悪循環をもたらしてしまいます。

一方、好循環を起こすには、多くの継続的でポジティブな働きかけが必要となるのです。まずは、悪循環の流れを断ち切ることから始めるのが得策でしょう。

 

【相原孝夫 (あいはら・たかお) 】
人事・組織コンサルタント、作家。株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て現職。コンピテンシーにもとづく人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。 職場で他者の模範となり、継続的に高い成果をあげている人材である、ハイパフォーマーへのインタビューを30年以上続けており、これまで延べ3,000人以上を調査・分析している。 著書に『人望が集まるリーダーの話し方』(かんき出版)ほか多数。

 

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