政治はマイノリティに光を当てるべき...泉房穂が「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」受賞で語った思い
2024年02月13日 公開
本の要約サービス「flier」とグロービズ経営大学院は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」の受賞作品を発表しました。本グランプリは、一般投票により決定するビジネス書の年間アワードで、今年で9回目を迎えます。エントリーされた123冊の書籍の中から選ばれた受賞作品や受賞者・泉房穂氏の言葉、フライヤーCEOの大賀康史氏による受賞作品の総括をご紹介します。
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」受賞作品
【総合グランプリ/リベラルアーツ部門賞】
『きみのお金は誰のため』(田内学/東洋経済新報社)
所得、投資、貯金だけじゃない、人生も社会も豊かにするお金の授業、開講! 今さら聞けない現代の「お金の不安や疑問」を物語で楽しく解説! 日本は借金まみれでつぶれるの? 少子化でもやっていける方法って? 元ゴールドマン・サックスのベストセラー作家が描く、青春「お金」小説!子どもでも楽しめて大人の教養になる! ラストで泣ける物語!
【イノベーション部門賞】
『温かいテクノロジー』(林要/ライツ社)
世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発者が語る、「ChatGPT」だけでは見れない世界。「この本は、最先端の人工生命体「LOVOT」を題材にして、人間というメカニズムとぼくらの未来を知るための本です。ロボットを開発することは、人間を知ることでした」――AIの見え方が変わる! 人類のこれからが知れる! 22世紀への知的冒険書。
【マネジメント部門賞】
『任せるコツ』(山本渉/すばる舎)
「自分でやったほうが早い」「無責任」「仕事を押しつけている」といった理由で、部下に仕事を振らずに自分自身でこなしていませんか? しかし、それは部下にとっても、リーダーである自分自身にとっても最大のパフォーマンスを発揮できない原因の一つです。著者自身が任せてこなかった失敗経験から、任せることの重要性と部下育成・成長、対応の仕方までをわかりやすく解説。相手のことを考えた「正しい丸投げ」は、個人も組織も劇的に成長することができます。
【政治・経済部門賞】
『社会の変え方』(泉房穂/ライツ社)
市長になったのは、障害を持った弟に対する冷たい社会への「復讐」だったーー。就任までの経緯にはじまり、明石市で実行した「日本初」の政策の数々、市民の「生きやすさ」とまちの「経済」にもたらした効果、また「明石でできることは全国でもできる」を合言葉に、その実現に向けて実行した「お金と組織の大改革」の舞台裏まで。コロナ禍で見えた自治体から国を変える可能性、そして、日本の政治をあきらめてしまっていたわたしたちへのメッセージ。
【自己啓発部門賞】
『世界一やさしい「才能」の見つけ方』(八木仁平/KADOKAWA)
オリジナルメソッド「自己理解プログラム」を開発した著者が、累計30万部を突破した前著『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』に続いて、『世界一やさしい「才能」の見つけ方』を伝授。才能を見つけた瞬間から、人生が大きく変わる。それは、著者自身をはじめとする1000人以上の体験者が証明しています。「短所は克服しない」「憧れはあきらめる」「成功者の真似をしない」「資格やスキルを重要視しない」など、これまでの通説を根底からひっくり返す著者オリジナルの“非”常識=“新”常識メソッドで、「一生ものの自信」が手に入る一冊です。
【ビジネス実務部門】
『頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉/ダイヤモンド社)
どれだけ考えても、伝わらなければ意味がない。でも、話し方のスキルだけでは、人の心は動かせない。コンサルで叩き込まれたのは、人の心を動かす、思考の「質」の高め方でした。本書は「頭のいい人」が何をどう考えているかを明確にし、誰でも思考の質を高め、「頭のいい人」になれる方法を伝授します。さあ、手に入れよう。あなたが本来持っている考える力を自動発火させ、「信頼」と「知性」を同時に得ことができる黄金法則を。
<特別賞>
【ロングセラー賞】
『DIE WITH ZERO』(ビル・パーキンス、児島修(訳)/ダイヤモンド社)
お金の「貯め方」ではなく「使い切り方」に焦点を当てたこれまでにない「お金の教科書」経済学者、起業家、ニューヨークタイムズ紙なども絶賛! あなたの人生観を ガラリと変える「人生が豊かになりすぎるお金の使い方」とは?
<特別賞>
【グロービス経営大学院賞】
『冒険の書』(孫泰蔵、あけたらしろめ(イラスト)/日経BP)
「私たちはなぜ勉強しなきゃいけないの?」「好きなことだけしてちゃダメですか?」数々の問いを胸に「冒険の書」を手にした「僕」は、時空を超えて偉人たちと出会う旅に出ます。そこでわかった驚きの事実とは――起業家・孫泰蔵が最先端AIにふれて抱いた80の問いから生まれる「そうか! なるほど」の連続。読み終えたあと、いつしか迷いが晴れ、新しい自分と世界がはじまります。
泉房穂「マイノリティにこそしっかり光を当てていくべき」
――『社会の変え方』は政治不信を払拭されるような作品だったと感じております。出版された背景について教えていただけますでしょうか?
【泉】私自身は子供の頃からふるさと明石を優しいまちにしたいと思って50年生きてきた人間です。集大成として、明石市長12年の卒業論文のつもりでの出版になります。
ふるさと明石を誰よりも憎み、誰よりも愛したものとして、本を出すのであれば地元の明石の出版社からと、ライツ社からお声をいただき出版に至ったので嬉しいですね。諦めを希望に変える本ですから、幅広い方に読んでほしいと思います。
――まず子育て世帯に対する政策から注力されたと伺っておりますが、子育て支援の政策を初めにすることによってどのような影響があるでしょうか。
【泉】子供は未来そのものですから、子供を応援することはちっちゃい子の応援のみならず、その家庭の応援のみならず、子供を応援して町が元気になると、町全体に勢いがつき、経済が活性化して、全体がハッピーになる。子供を応援することは私たちみんなの未来を応援すること。それは明らかです。他の国はみんなやってるんですよ。日本だけが子供に対するお金も、人も、他の国の半分で異常なんです。
明石市長としてしたことは珍しいことじゃなくて、当たり前の施策を当たり前にやった。だから実現できたんです。私は市長でしたけど、明石の市民が一緒になって町を作っていった。市長が町を作ったんじゃなくて、明石の市民が明石の町を作りたいと。その歴史でもあると思います。
――本の中の「私達はどこかの面ではマイノリティですし、何らかのマイノリティを救い上げるとマジョリティになる」という言葉が非常に印象に残りました。泉前市長にとってのマイノリティに対する思いをお聞かせいただけますか。
【泉】人は誰だって顔が違うんですから、人は全てマイノリティの面を持っていて、両面あると思うんですね。多数派の側面と、少数派の側面があって、多数派にばっかり光を当てると、どんどん意見が漏れていってみんな嫌になっちゃうんだけど、少数派に光を当てていくとみんなが救われていくわけですから。政治なんてのは少数者というか、マイノリティにこそしっかり光を当てていくべきだという考えがあります。
もう一つは、そのときはマイノリティと言われますけど、少数が多数に置き換わっていく、それがまさに政治の歴史だと思ってます。そういう意味では明石発で少数者の政治が多数になっていく途中だと思います。
【泉房穂】
前明石市長。1963年生まれ。東京大学教育学部卒業後、日本放送協会、テレビ朝日、石井紘基衆議院議員の秘書、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、2011年から2023年まで兵庫県の明石市長を務める。明石市長就任の経緯から12年間の任期での活動をまとめた著書『社会の変え方』(ライツ社)がビジネス書グランプリ2024にて政治・経済部門賞を受賞。
フライヤーCEO・大賀康史による「ビジネス書グランプリ2024」総括
2023年を振り返ると、とても変化の激しい1年だったのではないでしょうか。
ChatGPTが3月の中旬頃に出て、生成AIの本格的な台頭によって人類の唯一と言える優位性と考えられていた知性の領域が代替される可能性を感じさせられたのではないかと思います。
その一方で、大谷翔平選手のメジャーリーグでのMVP獲得や、藤井聡太棋手の8冠制覇といったこともあり、圧倒的な個人の活躍が見られたような年でもありました。
3年ほど続いたコロナ禍は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行されて、濃厚接触を気にする機会が以前よりは減ってきたような実感があります。
経済面では、デフレ経済が長らく続いていましたが、一段落して、インフレ経済への転換が始まったのではないかと思います。日本ではまだまだ低金利であることから、新NISAの導入によってようやく、貯蓄から投資へのお金の流れが本格化していると考えられます。
こうした変化を受けて、多くの人は、過去の延長上に未来はないのかもしれないと想像しています。そして個性が重んじられる時代に変わり、自分が集団の中で埋もれぬように、ただ生きているだけでは物足りないとも感じています。
このような背景を受けた受賞作の傾向から、今回のビジネス書グランプリのキーワードは、「新たな価値観の再定義」といたしました。仕事、お金、経済、投資、コミュニケーション、幸せ、生きることの全てに対して、常識と考えられていた社会全体を主体とする大きな価値から離れて、個人を主人公とした価値の再定義を促すような本に注目が集まっていると思います。
総合グランプリは『君のお金は誰のため』でした。お金という誰もが日常的に意識せざるを得ないものに対して、客観的にその仕組みを捉えて、私達が何を大切にして生きていくべきかが自然な形で導かれる作品でした。金融の最前線で長く活躍された田内さんだからこそ伝えられるリアリティのともなった考え方が印象に残りました。
自己啓発部門賞『世界一優しい「才能」の見つけ方』、マネジメント部門賞『任せるコツ』、ビジネス実務部門賞『頭のいい人が話す前に考えていること』は、いずれも、仕事や私生活で才能や努力を発揮して自分らしく生きていきたいという願いを叶える本だと感じました。
政治経済部門賞に輝いた『社会の変え方』は、多くの人が政治に少しばかりの諦めを感じている、あるいは感じていた中で、一筋の希望や道筋を示された作品だったように思います。
そして日本らしいAIやロボットへの姿勢を感じられる『温かいテクノロジー』は今回のイノベーション部門賞らしい、1冊だと感じております。
教育や個人の生き方に新たな問いを投げかけたのは、グロービス経営大学院賞に輝いた『冒険の書』でした。才能や努力によって、誰もが出世できると考えて努力を強いる、いわゆるメリトクラシーと言われる考え方を前提としてしまう怖さについて深く考えさせられる作品だと思います。
私達の世代は、社会人になる前に『金持ち父さん 貧乏父さん』で、資本主義社会に生きる人がお金を増やす方法を学んだ方が多いのではないかと思います。参考になるところがとても多いものではあったんですけれども、社会の格差が広がる中で、富の最大化が目的では、幸福感を感じにくくなっているんじゃないでしょうか。
そのお金を経験の最大化、つまり幸福のためにいつどのように使うかが語られた「DIE WITH ZERO」がロングセラー賞になったことに、今の時代が反映されているように思います。
今までの知識や経験で築かれた価値観が揺らぐ現代で、自分ならではの答えを出していかなければいけません。今回の受賞作は、自分と向き合う大切な時間を過ごせるものばかりなのではないかと思います。