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認知バイアスとは? 他人からの意見を「否定」と捉えてしまう脳の特性

西剛志(脳科学者)

2024年02月19日 公開

私たちの人生に大きな影響を与える「認知バイアス」。自分が持っている認知バイアスを把握して脳を味方につけ、よりよく生きるためのヒントを探ってみました。

※本稿は、『PHPスペシャル』2024年3月号より内容を抜粋・編集したものです。

 

人生を左右する認知バイアス

「認知バイアス」とは、脳が物事をとらえるときに起きる「認知のズレ」のこと。私たちは、見たものや出来事を、実像のままとらえているわけではないのです。

たとえば、「上司の鼻毛が気になって、話の内容が入ってこない!」といった経験はありませんか? こんなふうに、特定の物事だけに注意が集中してしまうのは、「注目バイアス」によるものです。

ほかにも認知バイアスには、さまざまなものがあります。その数は、現在知られているだけでも200種類以上。どのバイアスの影響を受けやすいかは、人によって違います。その違いによって、物事の感じ方や日々の行動、ひいては人生までもが変わってくるのです。

代表的な例で説明しましょう。コップに半分、水が入っているとき、「悲観主義バイアス」の強い人は「半分しかない」とがっかりし、「楽観主義バイアス」の強い人は「半分もある」と喜びます。明らかに、楽観主義バイアスを持って生きたほうが幸せそうですよね。

このようなことの積み重ねで、人生全体が変わってくるというイメージです。どの認知バイアスを持ちやすいかは、遺伝でおよそ4~5割、環境でおよそ5~6割が決まると言われています。

つまり、認知バイアスは、環境や習慣次第で変わる余地があるということです。みなさんも、自分が知らず知らずのうちに持っている認知バイアスに気づき、よりよい人生を送るためのヒントにしてみませんか?

 

同じ出来事でも、見る人によって変わる!

まったく同じ経験をしても、AさんとBさんでは感じ方が違っています。「出来事」を読み、自分が同じことを経験したらどう思うか、考えてみましょう。

【出来事】
会議の席で、いつもは緊張して発言できないが、勇気を振り絞って、かねてから温めてきた意見を提案してみた。ところが周囲からの反対意見が多く、一瞬で却下されてしまった。

Aさん
・こんなことなら、発言しなきゃよかった
・次も失敗するんだろうな
・私は嫌われているのかも......
・みんな意地悪だ!

Bさん
・私の意見には、改善の余地がある!
・次はこうしよう
・アドバイスをもらえて、ありがたい
・次は違う上司に話してみるのもいいかも

あなたはどう感じましたか?

Aさんの脳は、ネガティブな認知バイアスでいっぱいです。必要以上に後悔したり、不安を抱いたりする「悲観主義バイアス」をはじめ、次も必ず失敗すると思い込む「確証バイアス」や、他人が悪いと決めつける「自己中心性バイアス」などが働いています。

一方のBさんは、この出来事を「改善のヒントをもらった」ととらえています。Bさんのように、人からの意見を楽観的に受け止められると、幸福感や成功の確率が高まると言われています。みなさんはAさんとBさん、どちらでしたか? 次は、具体的な認知バイアス対処法をお伝えします。

 

お悩み別 認知バイアス対処法

不安や怒り、先送り......。それらは認知バイアスのせいかもしれません。それぞれの対処法を知ることで、日常生活をラクにしていきましょう。

【お悩み1】モヤモヤして、毎日なんとなく不安......

→「成功日記」で睡眠中の脳をポジティブに!

不安を生む認知バイアスの中で、もっとも影響力が強いのが「インパクトバイアス」。「この先に起こりそうな悪いこと」を、過剰に大きくとらえてしまうバイアスです。しかしじつは、そうした悪い想像や心配のうち、79%は起こらないということがペンシルバニア大学の研究でも判明しています。まずは、それを覚えておきましょう。

物事のプラス面に目を向ける習慣をつけることも大切です。おすすめなのが、「成功日記」。毎日寝る前に「今日うまくいったこと」を5つ書くだけ。

「電車で座れた」「ランチがおいしかった」など、どんな小さいことでもOKです。睡眠中に「いいこと」の記憶が脳に定着し、翌朝、気持ちよく目覚めることができます。

逆に、「今日はダメだった」などと考えながら寝ると、寝ている間に「ダメな自分」という認識が脳に刷り込まれ、不安が増大するので要注意です。一日の終わりはポジティブに締めくくることを、心がけましょう。

 

【お悩み2】相手が察してくれなくて、イライラする!

→「伝える工夫」と「自分のケア」で和らげて

他人へのイライラ感情は、一言で言えば「思い通りにならないストレス」です。そこには「透明性の錯覚」といって、自分の考えが相手にも伝わっているに違いない、と思い込んでしまうバイアスが働いています。

「どうしてわからないの」「察してよ」という、喧嘩では定番のフレーズがありますが、実際は言わないとわからないもの。わかってほしいなら、相手にきちんと伝える工夫が必須なのです。

たとえば「前髪は短めに」ではなく「2cm」と数値で伝える、買いものを頼むなら商品画像をスマホで送る、など。そうすることで、そのあとに起こるイライラを予防できます。

また、特別な理由もなく無性にイライラするのは、感情を制御する「前頭前野」の働きが低下しているサイン。原因は、睡眠不足、カロリー不足、幸せ不足のどれかです。よく寝て、きちんと食べましょう。幸せ不足の場合、「成功日記」が、ここでも効果を発揮します。

 

【お悩み3】物事にとりかかるのが、めんどくさい

→プロセスよりゴールに注目しよう

物事を後回しにすると、「すぐやる」よりも大きなエネルギーを費やすというデータがあります。それは、物事を終えるまで、長期にわたって「やらなきゃ」という焦りや不安が生じているから。何もしていないのに疲れてグッタリしてしまうことがあるのは、そのせいです。

先送りにする人と、すぐ行動する人の違いは、「注目バイアス」の使い方にあります。たとえば「富士山頂で初日の出を見ること」をイメージしてみましょう。「めんどくさい」「疲れそう」と思う人は、準備物の多さや登るときのつらさなど、プロセスに注目しています。

逆に「行きたい」と思う人は、ゴールに注目しています。山頂に着いたときの素晴らしい眺望、ご来光の美しさを想像するのです。

つまり、先送りグセの処方箋は、「プロセスのしんどさ」から「ゴールの嬉しさ」へと、着目点を移すこと。「お風呂掃除、めんどくさい」と思ったら、ピカピカの浴室で温かいお湯につかる自分を想像してみましょう。

 

\周りの人の意見がヒントに/

「仕事は順調なのに、恋愛は苦手」など、うまくいかない分野がある場合は、何らかの認知バイアスが働いているサイン。それがどんな認知バイアスかを知るには、親しい人に訊いてみるのが一番です。

「これが苦手なんだけど、どう思う?」と訊くと、「こういうクセがあるよね」といった指摘が得られて、考え方の偏りに気づきやすくなります。自分では思いつかないような意見がもらえるため、おすすめです。

 

うまくいっている人の認知バイアスの使い方

ここまで認知バイアスは「認知のズレ」だと説明してきましたが、良い方向にも利用できます。

たとえば、ビジネスで成功した人など、うまくいっている人に話を聞くと、「チャンスは目の前にたくさん流れている」という言葉がよく出てきます。

それは、その人たちがいつも「チャンスはないかな?」と思っているからです。注目バイアスが働いて、チャンスに目がいきやすくなっているのです。

「欲しいもの」を明確にすることは、とても重要です。「これが欲しい」と、頭にくっきりとイメージを描けば、目の前にある「これ」にハッと目が留まるもの。このように、認知バイアスは活かし方次第で、良い効果も発揮します。

 

\認知バイアスで「老化」が防げる!?/

ハーバード大学の実験で、ホテル清掃員を2組に分け、片方に「一部屋の掃除で300キロカロリー消費できます」と伝えておくと、そのグループは1カ月後、本当にスリムになったそうです。

思い込みは、体にも変化をもたらすのです。「私は若い」と思い込んで過ごした人の肌が若返った、という研究も。着る服や髪型、持ち物を少し「若づくり」にするだけでも、おおいに効果が期待できます。

 

幸運バイアスのつくり方

できることから実践してみましょう。

・目標を書いて壁に貼る

最初に受けた刺激が行動に影響を及ぼすことを「プライミング効果」と呼びます。これも認知バイアスによる効果です。

商業施設のトイレなどにある「きれいにご利用いただき、ありがとうございます」というような文言も、この効果を利用したもの。

目標や「こうなりたい」というイメージを書いて部屋の目立つところに貼ると、自然と実現に向けた行動ができます。目標を決めるのが難しい場合は、「感謝」など、ポジティブな言葉を書くのがおすすめです。

・比較するなら「過去の自分」と

自分と他人を比べるのは「比較バイアス」の影響ですが、それでは思考がネガティブな方向に傾いてしまいます。どんなに美人でもお金持ちでも、上には上がいてキリがないからです。

自分と誰かを比べるなら、その相手は「過去に大変だった自分」にしましょう。過去と比べて、今の自分がどう変わったかを考えると、成長と幸せを感じやすくなります。

・あえて「中断」して、楽しみを延長

中断されたら続きが気になる「ツァイガルニク効果」も、認知バイアスによるものです。これは読書や勉強に利用できます。

好きな本は時間制限を設けて読むことで、ワクワク感が長く続きます。また、電車の中での勉強もおすすめです。降車駅が来てやむなく中断すると、「帰りもやるぞ!」となり、やる気がアップします。

 

著者紹介

西剛志(にし たけゆき)

脳科学者

1975年生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。工学博士取得後、国家公務員を経て新会社を設立し、世界的に成功している人の脳科学的なノウハウや才能を引き出す方法を講演会などを通して1万人以上に提供。『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)など著書多数。

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