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自分の人生、このままで大丈夫? 脳科学者が語る「不安が消える」1つの手法

西剛志(脳科学者)

2023年11月20日 公開 2024年12月16日 更新

やりがいを感じられない仕事、代り映えのしない生活...自分はこのままでいいのかと不安を抱えていませんか? マイナスな感情を解消し、生き生きとした人生を歩むにはどうしたらいいのでしょうか。脳科学者の西剛志さんが、人生を好転させるための「やりたいこと探し」の手法を紹介します。

※本稿は、西剛志著「1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方 」(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

旅に出てみよう

私たちは仕事や人間関係など、自信を失うと「トンネルビジョン(視野狭窄)」と言って視野が狭くなることがわかっています。イリノイ大学の研究でも、視野が狭くなると、ストレスばかりに目が行き、不安が増幅してやりたいこともわからなくなってしまうことが報告されています。

しかし、場所を変えることで気分が変わり、問題が小さく見えたり、「こんな方法があったのか!」と気づいたことはありませんか? これには脳の海馬にある「場所細胞」の働きがかかわっています。

場所細胞とは、場所や空間を把握する役割をもった細胞です。特定の場所にいるときに発火するのですが、同じ場所にい続けると慣れてしまい、発火しなくなるという性質を持っています。ところが、今いる場所から移動すると再び発火し、それにつられて脳が活性化するのです。

見逃せないのは、近年の研究でわかった「場所細胞の活性化は、海馬と脳の司令塔でもある前頭前野の一部の活性化と連動する」という発見です。

前頭前野(特に背外側前頭前野)は、感情にブレーキをかける場所でもあります。ここが活性化すると、不安な気持ちを客観視できてマイナスの感情が消えていくため、自分を冷静に見ることができるようになります。

つまり、視野が広がるのです。心理学では、この現象を「オーバービューエフェクト」と呼びます。

宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士が、「人類はなんてちっぽけなんだ」という感想を漏らすのを聞いたことがありませんか?

これは、オーバービューエフェクトの典型です。地球の外から自分を眺めるように、自分の内面や経験したことから距離をとると、それらを客観的に見ることができる。そんな効果です。専門用語で「セルフディスタンシング」とも言われます。この状態にある人は、物事を多角的に幅広い視野で見ることができます。

「人は、自分のことをわかっているようで、よくわかっていない」と昔から言われますが、私たちは「内観幻想」という自分の感覚が正しいと信じる脳のバイアス(偏った考え方)が働くため、意外と自分のことを正しく認識できていないことが数々の研究から証明されています。しかし、オーバービューエフェクトによって、「内観幻想」から一部抜け出せるため、「他人の視点で、自分を見る」ことで、自己理解まで深まる効果があるのです。

そこで、脳科学の分野では「バケーション効果」と言って、年に2〜3回は旅行をすることが推奨されています。旅という非日常を味わうことで、日頃の自分を相対化し、それまでの考え方がリセットされます。旅先で、「どうして、こんなにちっぽけなことで悩んでいたのだろう?」という感覚になるのは、そういう理由です。

近所の公園に出かけたり、お気に入りのカフェに出かけるだけでも、脳が活性化して気分が変わります。あれこれ悩んでいるなら、部屋にいないでとりあえず外へ出てみましょう。

ちなみに、普段働いている座席から離れて、コワーキングスペースで仕事をするだけでも気分が変わります。立ち上がってコーヒーを淹れたり、同僚たちとおしゃべりするのも同じ効果があります。

いずれも、場所細胞を含む脳の広い範囲が発火し、脳が活性化するために起こる現象です。近年は脳の報酬系でもある線条体が活性化することも報告されています。

まずは冷静に自分を理解したければ、「場所を変える」。これを覚えておいていただけると嬉しいです。

 

「寄り道」をしてみよう

場所を変える応用編としておすすめしているのが、「寄り道をすること」です。現代の世の中では効率を求めるあまり、動画まで時短のために倍速で見るなどする若い方々も多いと聞きます。仕事や学習を効率的に進めるにあたっては、メリットも多いでしょう。

しかし、一見ムダに思えるようなことが、「好き」の発見につながり、「やりたいこと」を見つける近道になることがあるのです。

私が以前サポートした女性の方は、やりたいことが分からず、営業職や接客業、アマゾンの配送員や、夜の仕事など手当たり次第に経験していました。しかし、いろいろな職を体験しているうちに、自分は人と接することが本質的に好きで、出会った人が元気になることに気づいたそうです。

それをきっかけに、現在はファッションを通して人を元気にするコンサルタントとして活躍しています。

また、プライベートでぶらっと立ち寄った旅行先で出会ったアフリカの生地に魅せられて、アフリカで服飾のビジネスを起業した人もいます。

オックスフォード大学の研究でも、「キャリアの8割は偶然の出来事で決まる」というプランド・ハップンスタンス理論が発表されていますが、私自身もそのような事例を数多く見てきました。

世界の偉人でも、ウォルト・ディズニーやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ココ・シャネル、オードリー・ヘプバーン、エイブラハム・リンカーンなども本業に辿り着くまでに、複数の職業を経験したといわれています。

多くの人は「成功」とは、一直線に進んで得られるものだと思っています。 道を逸れることは非効率に見えるでしょう。しかし、実はこの寄り道こそが、その人にとっての最短コースだったりするのです。

これを私は「寄り道の法則」と呼んでいます。

その当時はわけもわからず進んでいても、後になって振り返ると、今の仕事へ辿り着くための最短コースだったことに気づくことがあります。

ですから、もしも今やっていることが、目標へと一直線に進んでいるように思えなくても、自分を責めないでください。たまには、横道にそれることもあるでしょう。時には、後退しているように感じるときもあるかもしれません。

しかし、寄り道することで、自分が知らなかった世界や新しい自分の本質を発見できることがあります。

世の中には無駄なものは何もありません。時短も大切ですが、たまには関係ないと思える遊びも体験すると、意外な方向に人生が進むことがあるかもしれません。ぜひ試してみてください。

 

著者紹介

西剛志(にし・たけゆき)

脳科学者

東京工業大学大学院生命情報専攻卒。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで3万人以上に講演会を提供。テレビやメディアなどにも多数出演。近著に『脳科学者が考案 見るだけで自然に脳が鍛えられる35のすごい写真』( アスコム)がある。

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