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生き方

ある日突然、彼氏が女装を始めた...交際中の私が周りに言われた“好き勝手な本音”

石野リサ(皮膚科医)

2024年04月04日 公開

ドイツで知り合ったエリートエンジニアの彼氏が、ある日突然、「女装」をはじめた...! 美容道にまい進し、どんどん綺麗になっていく彼氏に、パートナーはどう対峙していったのか。石野リサさんがご自身の経験を語ります。

※本稿は、石野リサ著『彼氏が女装をはじめました...』(インプレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ある日突然、彼氏が女装を始めた件

「ねえ、今日から新しいトリートメントに変えたの。香りもよくてね…。寝る時オイル塗ってシルクキャップすると、しっとりするの」

「へー、そうなんだ。サラサラしてきれいね、髪」

これはおしゃれな女子友との会話ではない。大恋愛からお付き合いして10年になる彼だ。

それは2022年1月2日に始まった。私たちはいわゆるアラフォーの普通のカップルである。彼、「うさぎ君」は年末から連絡が取りづらかった。

もともと何かに気が向くと他の関心は極めて薄まる人なので、それほど気にならなかったが、どこかに違和感があった。なんだろう。

とりあえず新年会でもしようか、とチャットを送る。

即レスで「良いね!」「で、男子がいい? 女子がいい? 中性がいい?」

...??? 「じゃ、中性...」???

まあいい、後でわかるだろう。

ぴんぽーん。時間になり、彼は来た。特に変わりなし。ふと靴を脱ぐ足元を見た。えっ? ロングスカートとブーツ? 上は普通のおっさんである。

「...なんかあった?」
「別に」
「なんでスカートなの?」
「穿いてみたかったから」

よくわからない。確信に満ちた笑みで彼は言った。

「今にボクが日本の男の標準になるんだよ」

これが新型ハイブリッド男子となった彼と私の恋人ライフ、第二のスタートだった。

 

勢いを増す「彼の美容道」

数日後、近所のお店で呑むことになった。うさぎ君はすでに席に着いていた。が振り向いた顔がヤバい。真っ白ファンデにどピンクのチークでオカメインコ化している。

そして、はいているのはレザーのタイトスカート。気合が入っていることはわかるが、一風変わったファッションの若者たちが集まってくる下北沢でもかなり個性的なほう、というより完全に浮いている。

「どうせだったらメイクもって、ボクのサポーターさん達にすすめられて、やってみた♪」

後でわかったけれどサポーターとは彼が仲良くしている劇団女子のことらしい。熱燗をチビチビ飲み、エイヒレをがっつく姿はおっさんそのものなのだが...。

絵としておかしい。ふと心配になる。

「...捕まらないようにね」私は言った。
「捕まりません!」

以後、彼の美容道は勢いを増していく。メイク技術もサロンやらお店やらインスタやらで研究しまくり。女装はかなり楽しいらしく、サポーターの皆さんも熱血指導してくれている模様。一時の気の迷いで余計なことしないでよっ! 私はその度プリプリしていた。

「ボク、エンジニアなんで研究熱心なんです!」

うさぎ君は前職の、開発エンジニアの血が騒ぐらしい。もともと思いついたら止まらない性格なのだ。ついにアドバイスをもらうため女装専門フォトスタジオまで訪問してしまった。仕上がったメイド姿の写真を満足げに見つめるうさぎ君。

「メイクのまま帰る人はいないから驚かれた~。くすっ(笑)」

そりゃそうだろう。女装フォトスタジオは普段はごく普通の紳士が非日常を体験するコンセプトのようだ。髭を隠すファンデ、脚の毛を隠す厚手タイツなど独特のノウハウがあるらしい。

「色々なメイクのノウハウも聞いてきた♡」

メイク熱に更に磨きがかかっている。この変化に私はまだ追いついていない。いや、追いつけない。

春になる頃には驚くほどの進歩でおっさん美女が出来上がっていた。そのへんの女の子より女子力高いかもと、ドヤるうさぎ君。年齢&お肌の劣化にイジイジしがちな私からすると、この自己肯定感は羨ましい。

彼はどこでも自信満々でこのファッションで出かけていく。そして大抵の人はポジティブな反応なんだそうだ。

「キレイ」と言われ続けると本当にキレイになるみたいで、私はうさぎ君の変貌に舌を巻いた。

そんな怖いもの知らずのお出かけにも弱点があった。トイレだ。移動前には"誰でもトイレ"のある駅をチェックする。男女別になっているお店もダメなんだそう。

言われてみればそうだ。昨今、女装した男性が女湯に侵入したという事件や、性自認が異なる人のトイレ問題が報道されているが、当事者になるまでピンと来なかった。私もトイレにいきなり女装男子が入ってきたら動揺するだろう。

もしMtF(Male to Female)の人なら、こちらの動揺ぶりに傷ついてしまうだろうし、本当に変質者だったら危険だ。見た目ではわからない。

デリケートなテーマだ。のちにうさぎ君はフレアパンツという武器で「この人どっちだろう」というファッションをあみ出し、解決した。

男性だったパートナーの、見かけの性別が変わるストレスと戸惑いは案外大きい。わかっていてもギャップが大きすぎるのだ。彼の意思を尊重しなければと思うほどプレッシャーになる。

女友達にグチると決まって「案外リサって保守的なんだね。私は気にならないけどなあ」(←絶対自分なら気にするくせに)、「いっそ女子コーデでペアルックとか楽しんだら?」(←自分だってその歳でやらないだろう)とか、「ゲイの友達もいるから慣れてるしー」とか、「2丁目のバーに行ったりするから平気。抵抗ないし」とか。

「所詮、女の子にはなれないから、徐々にいきづまってヒステリーになるらしいよ」など、独断的な知見と親切なアドバイスをくれる友達も。そのうちうさぎ君も性転換するかもだの、胸にシリコン入れるかもだの、男の恋人つくるかもだの、まあ皆さん好きなことを言う言う。

極めつきの質問は「あっちのほうは? してる?」

...出た。これ必ず聞かれる。素朴な疑問だと思う。でも余計なお世話だよー。

 

多様性の世の中と叫ばれているけれど...

彼のファッションよりも、リベラルであるはずの人たちから透けて見える本音に驚かされたりもした。当初は私も頭に来ていたが、よく考えるとアップデートできていないのは皆同じなのかも。

そもそもこの世界は複雑だ。LGBTQは色々なカテゴリーに分かれている。うさぎ君は女性らしいファッションと世界観を楽しんでジェンダーから自由になりたいQだ。もちろんQだって様々なバリエーションがある。

その中でもファッションの完成度を楽しむ「男の娘」というフィールドらしい。彼の場合、性的にはいちおう男子。そのほかは基本、女子。うさぎ君が嫌いなのは昔ながらのジェンダーに囚われている人(特に男性に多いらしい)。

で、「いちおう男子・基本女子」のパートナーである私は...やっぱり疲れる。

Qに限らず、あらゆる性自認&スタイルにみんなが「そうなんだ」って肯定できたら、この概念自体いらない気がする。多様性の世の中と叫ばれているけれど、でも今の日本はそうじゃない。かくして私とうさぎ君の微熱を帯びた日常は続く...。

 

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