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江戸前寿司でサーモンは邪道? 寿司職人が「海外SUSHIブーム」に思うこと

小川洋利(寿司職人)

2024年05月30日 公開

寿司職人の小川洋利さんは、日本のすし文化を全世界に広めるため、世界50カ国以上にわたって、すし指導員として外国人シェフに調理指導をされています。本稿では、カリフォルニアロールやサーモンが世界で根強い人気を誇る理由について、小川さんが解説します。

※本稿は、小川洋利著『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』(キーステージ21)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

カリフォルニアロール誕生と人気であり続ける理由

日本でもなじみになってきたカリフォルニアロール。伝統的な日本のお寿司とはまた違ったおいしさがありますね。

カリフォルニアロールは、カリフォルニアのお店が発祥と言われていますが、実際には、太平洋戦争のあとにカリフォルニアに移住した日本人たちが、お祭りのときやパーティーのときに「寿司を作ろうよ」と言って作ったのが始まりとされています。

当時はまだキュウリがなかったから、キュウリのかわりにアボカドを使いました。お米も日本のようなお米がなくて、どちらかというとパサパサなお米でした。アメリカでは白いお米を食べる習慣がなく、必ず味つけをして食べます。

そこに、飛び子、ゴマなどで味つけして、生魚のかわりによく食べられるエビやカニを入れました。当時のアメリカでは、生魚を食べる習慣がなかったからですね。なおかつ、海苔は黒くて見た目が悪いから、中に巻いて隠したのです。俗にいう裏巻きです。

寿司もそうですが、世界に広まっていくのに、日本から広まることはまずありません。アメリカが最初に始めて、流行ったものが後から世界に広まることが多いのです。

カリフォルニアロールはなぜこんなに人気があるのでしょうか? 外国人は生魚を食べる習慣はないが、エビ、カニは世界共通で、どこの国に行ってもあります。あとは巻物なので食べやすいという理由もあります。アボカドも、比較的どこの国へ行ってもあり、最近は日本でも食べられます。この組み合わせがどんどん広まって、だんだん進化してきています。

それから、白いご飯を食べる習慣がない人は、ご飯をつぶすことによってパン感覚で食べることができます。アフリカだと、ご飯をつぶしてサンドイッチ状にして食べたりします。タイではカオニャオというもち米を食べます。

カリフォルニアロールは巻物で、手で食べることができるので、そういうところで世界中の人が気軽に食べられるのかなと思います。国によっては歩きながら食べる人たちもいるんですよ。テイクアウト感覚、ハンバーガー感覚で。

もともと日本でも江戸前寿司は屋台で売られ、ファストフード感覚のものだったので、海外でも同じ感覚でカリフォルニアロールが広まったのでしょう。手軽に食べられるし、世界共通の食材が入っていて、パン食の国でもサンドイッチ感覚で食べられます。

いろいろなソースをつけて食べられるのも人気の理由かもしれません。日本では寿司は、生の食材のうまみを味わうという文化がありますが、海外ではクリームチーズなど、自国の食材を入れてアレンジしたり、好きなものを入れたりします。国によってはチョコレートやイチゴを入れてデザート感覚で食べるところもあります。

 

外国人指名ナンバー1の寿司は「サーモン」。選ばれる最大の理由とは?

今、日本でも、お寿司の好きなネタランキングの一位は、マグロを超えてサーモンになっています。

2002年頃、私が東京で店を出したとき、周りにもけっこう寿司店が多くて、7~8店舗はありました。他の個人店はわりと江戸前にこだわっていましたが、私の店では出前のメニューや店頭でも、サーモンを多く取り扱っていました。

私は日本で店を出す前に海外でも働いていて、サーモンが海外で人気があるのをよく知っていました。日本ではその当時、まだサーモンがそれほど有名ではなかった時代で、やっぱりマグロが寿司ネタで一番人気でした。

私の店で海外で人気があるからとサーモンを使っていると、周りのお店からは、「小川さんとこはサーモン使っているよね」「あいつの店は江戸前をうたっているのにサーモン使っているぞ」と言われたりしました。

当時30歳で店を出したときは、周りの職人は昔ながらの大先輩ばかりでした。江戸前といえば、ふつうはサーモンはありません。江戸の東京湾でとれた魚を使うのが基本的に「江戸前」とよばれるので、サーモンが邪道だという意識が、昔ながらの江戸前寿司屋にはありました。

ところがサーモンはすごく売れるので、商売としてとてもいい。しかも当時、まだ仕入れ値はそれほど高くなかった。だんだん人気が出てきました。そうして使い続けていると、うちの店は忙しくなってきました。

そうなると他の店からも注目されるようになりました。2、3店舗の寿司店の方に会って話をしてみると、最近出前の電話で、「お宅の店では、サーモン置いていますか?」とすごく聞かれると言っていました。「サーモンは置いていない」と答えると「ないんだ...」と言われ切られちゃう。だから、商売にならないという話をよく聞きました。

でも今、江戸前と言ったって、東京湾でとれる魚がどれだけあるのという話です。時代とともに変わってきているのだから、そこにこだわらなくてもいいんじゃない、という話をしてたら、だんだん周囲の店もサーモンを使うようになってきました。そのくらい、サーモンはみんなが愛しているというか、人気があります。

その理由はなぜかというと、まず一つは見た目、色でしょう。サーモンは不思議なことに、時間がたっても色が変わらない。これはすごい魅力で、普通マグロや他の魚は、時間がたつと劣化とともに変色していきます。サーモンにはそれがないし、しかもちょっと橙色っぽくておいしそうに見える。それが人気の理由の一つです。

あとは、サーモンは身質が非常にやわらかい。欧米の人たちはあごが弱く、歯ごたえのあるものを好みません。例えば、外国人が苦手なのは、タコやイカやアワビのような貝類。固くて食べられません。面白いのは、普通に活締めした新鮮な魚を、とくにヨーロッパの方に食べさせると、固くて食べられないと言います。

一方で日本人は、あのコリコリとした歯ごたえを好みます。とれたてで身が硬直して、歯ごたえがあって、それが鮮度がいいと言ってよろこびます。この点はとても対照的ですね。

最近、「熟成」というのが日本でも流行ってきていますが、熟成したやわらかい、口で溶けるような食感が海外の人たちは好きで、サーモンは最初から最後まで身質がやわらかく、口の中で溶けやすい。背のほうもほのかに脂があって、身がやわらかいから人気がある。

また、値段が手頃なのもいい。サーモンは世界でも養殖をしている国が多く、日本ではノルウェーサーモンが有名ですね。私はノルウェーに何度も行っていますが、とにかく自然が豊かで環境もよく、海を使って養殖しています。稚魚を育てて、どんどんどんどんイクラをふ化させる。しかもそれをイクラとして売らず、サーモンのみを扱っている。

最近ではイクラがとれなくて、世界中で問題になっています。寿司ネタで今一番値上がりしているのがイクラではないかと私は思います。私がお店を始めた2002年当時より5倍近く上がっている。今後イクラはもうなくなってくるかもしれません。

なぜかと言うと、イクラよりサーモンにしたほうがお金になるから、ふ化させてしまう。養殖しやすいから、値段が手頃になるんですね。

ノルウェーサーモンに関しては、アニサキス対策がしっかりされていて、安全に提供されています。サーモンはキロ1500円前後だけど、マグロはよいものであれば、キロ一万、二万、それ以上にいってしまう。

そういう面では、サーモンは手頃だし、とにかく色がきれいで身質もやわらかい。臭みもないから子供はサーモンが大好きですね。焼いても、スモークにしてもおいしいし、どこの国でも愛されています。

どこの国でも流通が簡単というのもあります。カナダ、南米チリ、北欧のノルウェーなど、世界中で手に入りやすい。流通が利いて手頃だから人気があるのでしょう。

 

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