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「夜更かし」は“がん”の温床…それを辞めれば健康になる 

岡本裕(医学博士/「e‐クリニック」医師)

2012年08月16日 公開 2022年11月16日 更新

医学博士の岡本裕氏は、がんをはじめとした、病気に侵されてしまうのは「自然のリズム」に逆らっているからだと語る。

多くの病気を予防できる“規則正しい生活”とは?改めて解説していく。

※岡本裕 著『「それ」をやめれば、健康になる』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

やっぱり夜更かしはよくなかった

「夜更かしをしない」なんて、まるで母親が子どもにでも言うような陳腐なフレーズかもしれません。

きっと多くの方は、「はいはい」と、右耳から左耳に何の抵抗もなく通り抜けていくはずだと思いますが、そこをあえて提案させていただきます。もちろんかく言う私もかつての私であればきっとみなさんと同じように、「今さらそんな言葉聞き飽きた」とばかり、毒づいていたでしょう。

しかしこれが意外に、最近の医学の進歩とともに、特に時間医学の進歩によって、右耳から左耳に抜けるままにしていては、はなはだもったいないということがわかってきたものですから、私も心してお耳にとどまるよう説明しなくてはいけません。

ちなみに、この「夜更かしをしない」は、子どもはもちろん、大人になってからも、そして相当に年を重ねてからも、もちろん私もみなさんも例外なく、非常に、しかも意外に大切なキーフレーズとなります。

 

規則正しい生活が一番のクスリ

特にがん患者さんにいたっては、この「夜更かしをしない」は、がんが治るか治らないかの分岐点になるくらい最重要事項の1つなのです。

ちなみにがん患者さんが、それまでの不規則な生活を少しばかり改善するだけで、あるいは夜更かしの習慣を少しばかりあらためるだけでも、体内で免疫を担ってくれているリンパ球数が格段に上がったり、基礎体温が上昇したりすることがしばしばです。

もちろんリンパ球の数や基礎体温が上昇すると、がんへの抵抗力が増し、治癒率の向上が期待できますし、現に私が診ているがん患者さんの治癒率は驚くほど高まります。

とはいえ、最初のうちは、たったこれだけのことで本当に病気が治ったりするものなのか? それはたまたまじゃないのか?と、医者の私が言うのも変なのですが、とても不思議な感じがしました。

しかし、人もしょせんは自然の法則に従って生かされている創造物だという事実を思い起こしてみれば、それは不思議でもなんでもないのかもしれません。人の営みも自然の営みの1つなのだなとつくづく感じさせられます。

がん患者さんをつぶさに観察していても、生活習慣をあらため、夜更かしをしないよう、規則正しい生活を送るよう少し心がけるだけでも、確かに、白血球数、リンパ球数、NK活性、体温が次第に上昇していくのが確認されます。

いっぽう、せっかく快方に向かい調子がよくなってきたにもかかわらず、もう大丈夫と少し油断をして、またもや夜更かしを強いるハードなスケジュールに戻ったとたんに、今度は逆に、白血球数、リンパ球数、NK活性、体温がふたたび低下していくのが観察されます。

結局はつまり、人は自然のリズム、時のリズムに乗っかって生きていくほうがだんぜん調子もいいし得策だということなのだと、あらためて自然の営みの大きさを思い知らされるはめになるようです。

したがって、自然に逆らい、時に逆らって生きると、早晩それ相応のデメリットを背負うはめになってしまうのかもしれません。

 

自然のリズムに乗ったもん勝ち

となると、できうるかぎり病気にならないようにするには、時のリズムが人に与える影響について、その特徴を知っておくのもいい方法かもしれません。

たとえば心筋梗塞や脳梗塞などは朝起きてから3時間以内が一番発症しやすいとわかっています。もちろん理由もちゃんとわかっています。

それは明け方から次第に交感神経が始動し、そのために脈拍数が急に増え、それと同時に血圧も急に上がることになります。すると、血管の内側に力が加わって傷がつきやすくなり、その傷を治そうとして血液が固まったりして血栓ができやすくなります。

その上寝起きは、脱水症状に近く、血液の粘度も増しているので、余計に血液は固まりやすくなっています。そこでできた血栓が大きくなったり、はがれたりして血管を塞ぎ、その先の心筋組織あるいは脳組織へ、栄養や酸素が届かなくなってしまうのです。

となれば、朝起きればすぐさま水をのむ、そしてついでに寝る前にも水をのんでおくという智慧が浮かびますし、実際にそうすれば効果的であることもよくわかっています。

一方、脳出血やくも膜下出血は、活動とその疲労がピークをむかえる夕方頃に多く発症すると言われています。

となれば、残業はできるだけ避け、夕方までには仕事もクールダウンを終えるよう、段取りよく仕事をしたほうがよさそうだなという智慧も浮かぶではありませんか。

ちなみに心臓病の発症は、日曜日に少なく、月曜日から火曜日に最も多い。……なんとなく納得できそうですね。そして第2の山が木曜日にあります。さらに、1年では12月~1月の冬に多いというのも定番です。

特に早朝や夕方は、副交感神経系優位から交感神経系優位に、あるいは交感神経優位から副交感神経優位へと切り替わる時間帯です。このため血圧、脈拍などの自律神経系は非常に不安定になります。こういうことも知っておいて損はありません。

その他にも、気管支喘息は夜明け前、朝4時、5時頃の覚醒前がピーク。この時間帯には、気管支が最も細くなります。また、気管支粘膜の過敏性を“刺激”する朝の冷気や、免疫の関与も発生原因と考えられます。

さらには、細胞が複製する時に光を浴びるとがん化する可能性があるので、複製するのは夜にと、私たちの身体は賢明に気遣ってくれています。にもかかわらず、肝心の夜間に夜更かしして光をがんがん浴びてしまうといったいどうなるでしょう?

当然のことながら、がん化を促しているようなものであることは容易に想像ができると思います。という理屈がわかれば、できるだけ夜更かしはやめておいたほうがいいというのも腑に落ちるのではないでしょうか?

 

自然のリズムに逆らうとバチが当たる

みなさんにも思い当たるふしはありませんか? 少し思い起こしてみればどうでしょうか。体調を崩した時というのは、なべて少しばかり時のリズムに逆らった時ではないでしょうか?

私自身もやはりそうです。時の流れに乗っかっている時は、さほど体調を崩すことはありません。体調を崩してしまう時というのは、決まって、ついつい忙しさにかまけて夜更かしをしてしまったり、不規則な生活がしばらく続いたりしたあとです。

今はもちろん当直業務などとんでもない話ですが、若い頃はルーチンの仕事として当直業務がありましたし、私など少しでも多くの症例をこなしてやろうと意気込んでいたせいか、人よりも率先して当直業務を買って出た時期もありました。

そんな時期、少し無理をして長く当直業務が続いてしまうと、風邪をひきやすくなっていたことを思い起こしますが、その当時のリンパ球比率は20%そこそこ、リンパ球数は1000~1500くらいでした。

当直業務をしなくなってからは、リンパ球比率は30%後半~40%前半と上昇し、リンパ球数も2000以上に。さかんに当直業務をこなしていた頃は、まさしく医者の不養生そのものです。

夜間勤務を強いられる看護師さんのデータなどもよく発表されていますが、想定通り、リンパ球や白血球の数は著明に低下したり、乳がんの発症率が高まったりと、そんなネガティブな結果が数多く明らかにされています。

子どもの頃に嫌と言うほど聞かされましたが、やはり夜更かしはいけなかったのです。

夜更かしをするということは、一日のリズムが狂うということです。それはつまり、生命活動を担っている自律神経(交感神経・副交感神経)の機能が狂うということです。

自律神経が生命活動の基盤の機能を担っているのですから、このリズムが狂うとろくなことはありません。それは先ほどから例に挙げている通りです。

私たちがリズムのいい音楽によって心身がリラックスするように、私たちの細胞も、オンとオフとのリズミカルな繰り返しがきっと合っているんでしょう。したがって、一日のリズムができるだけ狂わないよう心がけたほうが得策だということになります。

 

【PROFILE】岡本裕 医学博士、「e-クリニック」医師

1957年、大阪市生まれ。大阪大学医学部、同大学院卒業。大学病院、市中病院、大阪大学細胞工学センター(現・大阪大学大学院生命機能研究科)で、主として悪性腫瘍(がん)の臨床と研究に携わる。その後、従来の医療・医学の考え方と手法に限界を感じ、臨床医をやめる。1995年、阪神・淡路大震災をきっかけに「21世紀の医療・医学を考える会」を仲間と立ち上げ、2001年、本音で情報発信し、本音で答えるウェブサイト「e-クリニック」をスタート。
著書に『9割の病気は自分で治せる』(中経出版)『一生、「薬がいらない体」のつくり方』(三笠書房)等がある。

 

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