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成功事例が示す「最高のサービス」実践の鉄則

武田哲男(武田マネジメントシステムス代表)

2012年08月27日 公開 2024年12月16日 更新

モノが溢れかえり、“過去の成功”を基に事業を続けていくことが難しい時代。武田マネジメントシステムズ代表・武田哲男氏は、「サービス」を基盤とした業務設計がこれからは大事になってくるという。

実際、サービスの向上はどのように進めるべきなのだろうか。武田氏の著書より、具体的に説明している一説をお届けする。

※本稿は、武田哲男 著『「最高のサービス」を実践する80の鉄則』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

“本質的な”サービスの時代が到来した

長年、サービス、CS(顧客満足)・CSM(CS経営)に特化し諸課題に取り組んできた私どもに、近年多くの問い合わせや「サービス開発」の各種依頼が届いている。

しかも、従来からサービス業と呼ばれてきた物販業、飲食業だけではなく、メーカー、卸・商社それに各省庁、自治体、ソーシャルメディアをはじめ海外企業など今までとかくサービスに疎遠であったところからの要請である。

これは過去の成功体験が通用しないほど、変化の激しいビジネス環境の中で、「次の一手」の根拠とすべきものを多くの企業が模索していることの表れではないだろうか。

「新」「創造」「革新・イノベーション」をいくら求めても、新製品・新技術・新システム開発にかかわる諸要素はそう簡単に見つけ出せない。かといって、KKD(経験・勘・度胸)で拙速に走れば各種トラブルを生み出す。

さらに、安易な値引きに走れば企業は体力を消耗し、成長を阻害され、時には消滅してしまう。

とはいえ、そんな中で、顧客から圧倒的な支持を受け業績好調を継続している企業も存在する。その差は一体どこにあるのだろうかと考えてみると、「サービス」を基盤とした組み合わせ・統合・融合という答えに行きつく。

顧客自身が気づいていない心の奥に潜んでいる要望を浮き彫りにして(そのために役立つのが顧客不満足度調査である)、今までにない価値を提供しているのだ。

企業規模、業種・業態に限らずすべての企業に関係があり、さらに大げさな発明・発見でなくとも他社と大きな差異化ができるということがサービスの特性である。だからこそ、今多くの企業が「次の一手」の根拠としてサービスに注目しているのだろう。

こうした状況を見て、今更ながらだが、「本質的なサービスの時代が到来した」との思いを強くしている。

その一方で、それに反比例するように、人々のサービスマインドが低下しているという現実もある。事実、その話題になると話に夢中になる人が多い。エチケット・マナー、教育問題、ソーシャルメディアの発達によるコミュニケーション力の低下……、話題はつきない。

だが、単に嘆いているだけでは何も始まらない。

そうした能力が全体的に不足しているということは、それを高めることができれば、世の中が良くなるし、企業・組織にとっては世界規模での強力な武器になる。環境激変はピンチだが、日本企業にとって大きなチャンスでもある。

確かに「サービス」は、非常に捉えどころのない代物だ。そのため多くの人が、「サービス向上を目指したいのだが、どこから手をつけ、どのように取り組み、どうやって具体的な成果を生み出せばいいのかわからない」と悩んでいる。

「サービスとはマナーや言葉遣いのこと」という短絡した考えに陥ってしまい、その結果、CS、サービス向上活動が、実質的にはマナー研修と捉えられ(もちろんそれも大切だが)、現場にばかりしわ寄せがくるという問題も発生している。

しかし、サービスは「顧客に貢献すること」「顧客の幸せを創造すること」という主旨を突き詰めて考えれば、どのように考え、取り組み、何をすべきかがおのずと見えてくる。

本来サービスはマネジメントと捉えるべきものなのだと、私は考えている。

 

2度目の購入がなければ3度目以降の購入はない

なぜ、今特にサービスが重要なのか。その1つの理由は時代の変化によるものである。

「売上がなかなか伸びない。だから新規顧客の開拓に力を注げ!」

このようなことを言うリーダーは、各社に多い。

だが、ちょっと考えてみてほしい。成熟市場、飽和市場における新規顧客の開拓は至難の業だ。おまけに顧客の継続購入がなされないから、余計に新規顧客の開拓に注力する悪循環を招いている。

業界にもよるが、今や顧客の90%以上が、買い替え、買い増しである。生まれて初めて購入する比率は数パーセントにしか過ぎない市場が多く、そもそも絶対数が少ないエリアにいくら力を入れても、その成果は覚束ない。

特に近年は新規開拓にかかわるコストは増大している。これは当社がリーマンショック以前に調査した数字だが、新規顧客を開拓するために要する経費と、既購入顧客に再度購入を促す際に要する経費を此較すると、日本では新規顧客の開拓に約8倍の経費を必要とするのだ(アメリカでは約5倍とのことである)。

もちろん、新規開拓は大事だ。だが、飲食業、物販業、サービス業などの場合、固定顧客を含め、平均して1年間に約 24%の顧客が離脱する傾向にある(当社調べ)。

そうなると新規開拓はもちろん大切だが、1度来店してくださったお客様に2度目の来店を促すサービスのほうが重要となるのだ。

現在4店舗、約80名のスタッフを擁する浦和の総合美容サロン・アンジュは、この取り組みでは群を抜いている。

元々はヘアーサロンとしてスタートしたが、顧客の声を忠実に反映した結果、次第にヘアー、エステ、ネイル、フットケア等々と業態化してきた。また、働き手と顧客双方の要望を受け、県認定の保育園も併設。さらには、技術はもちろんサービスマインドを伝えるアカデミーも設立した。

そして2012年末には顧客の潜在意識に応じ、新ビル内で新たなサービスを提供する。さらに相乗効果を生むシステムを “The Ange” として提供するのだ。

これらの努力の結果、現在は新規顧客の 90%以上が現在の顧客からの紹介、また顧客の 90%以上が継続顧客という驚くべき状況を達成しているのである。

具体的にはどのようなことをやっているのだろうか。

たとえばある時、顧客がセット後の寝癖や髪の乱れについて不満を持っていることがわかった。寝癖は本人の寝相などの問題もあるが、それを直すためだけには来店しにくい。しかし自分ではうまく直せない。そのため、「技術が劣る、へたくそだ」と店のせいにしてしまい、再来店が得られない、という問題があった。

そこでアンジュでは、初来店顧客がお帰りの際に「明日の朝、寝癖がついてしまったり、またセットが乱れてしまった場合、短時間で済みますのでどうぞ遠慮なくお立ち寄りください。手直しさせていただきます」とお声がけをするようにした。

また、前髪だけのカットなど様々な顧客サービスが、「2度目以降の来店」を促進し、さらにはその際、自分でも手入れをすることができる「プロの裏技プレゼント」によりますますファンを増やしたのだ。

当然のことだが、2度目の来店がなければ、3度目以降の来店はない。アンジュも開業当初は2度目の来店が20数パーセント、3度目の来店も似たようなものだったが、スタッフの様々な工夫により2度目の来店促進を図った結果、3度目以降の継続率が高くなり、ついには 90%以上が継続顧客になるというサービス効果が達成できたのである。

 

一人ひとりが身につけておきたい「サービスの基本」

一人ひとりが真のサービスを提供するために、必要な要素は何か。私はこれを「サービス(SERVICE)」の頭文字による語呂合わせで説明している。

まずは最初のS。これは「営業の3S(スリーエス)」と呼ばれている要点と同じだ。

最初のSは「Speed(スピード)」である。

次いで「Smile(スマイル)」、微笑みである。自然体の心からの微笑み、笑顔は、それだけで人をとろけさせてしまう至宝のサービスといえる。

さらに3つ目は「Sincerity(誠意)」。嘘をつかない、誤魔化さない、だまさない、誠心誠意ということは、サービスというより人間として当然のことである。その場しのぎの対応やでたらめな取り組みは、顧客の不信感を買うばかりである。

次のEは「Energy」。きびきび、活き活きとしたエネルギーに溢れていなければならない。のろのろ、だるそうな鈍い動きや生気のない姿はサービスに相反する。

そしてサービスには「Revolutionary」のR、すなわち革新的な要素が必要である。革新まではいかなくとも、常に新鮮さは大切だ。サービスはひとたび顧客に提供すると、その瞬間から慣れが始まり、次のサービスが求められていくからだ。

続いてのVは「Valuable」。これは、顧客だけではなく提供側の企業・組織にとっての価値も必要だということである。Win-Winの関係、つまり顧客、企業の双方にとっての価値が大切である。そうでなければ長続きしない。

Iは「Impressive」、すなわち印象・感銘の深いサービスが大切で、ここから良質なコミュニケーションがスタートするのである。

 そしてCの「Communication」が重要なのは言うまでもない。これは双方向でなければならない。そして、コミュニケーションの基盤には「Entertain(おもてなし)」の心が備わっていなくてはならない。Eである(いずれも多数顧客の声から整理した)。

 

【PROFILE】武田哲男 武田マネジメントシステムス代表

 「サービス」「CS・CSM(顧客満足経営)」「クレーム」を中核として理論と実践のバランスによる具体的な取り組みを専門としている、この分野の第一人者。海外企業も含め、多数企業が採用している「顧客不満足度調査」による顧客研究にも注力。(株)服部時計店(現・セイコー)に入社し、小売り部門の銀座・和光勤務。

退社後中小企業の役員を経て(株)武田マネジメントシステムス代表・一般社団法人エチケット・サービス向上協会・代表理事。2012年4月で33年目の「“顧客・サービス向上”研究会(通称<CS研>)」を主宰。企業規模、業種・業態に関係なく多数企業、省庁・自治体をはじめとして海外企業の課題も受託。事例基盤の実践的講演、セミナー、社員教育には定評がある。雑誌対談・シンポジューム等の司会も多く、近年はサービスを基盤とした革新の成功事例紹介依頼が増えている。
『「サービス」の常識』『顧客「不満足」度のつかみ方・活かし方』(以上、PHP研究所)など専門分野の著書は100冊以上。ほか、台湾・韓国・中国で翻訳されている著書は約20冊。 

 

 

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