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「上っ面だけの人」と「信念ある人」 その圧倒的な差は自己紹介に表れる

大澤正彦(日本大学文理学部准教授)

2024年07月25日 公開 2024年12月16日 更新

日本大学文理学部准教授の大澤正彦氏は、相手にどうやって自分自身を知ってもらうか、「自己紹介」について突き詰めて考えることで自分自身への理解が深まると語ります。自己紹介がもたらす効果について、書籍『じぶんの話をしよう』から、ご紹介します。

※本稿は大澤正彦著『じぶんの話をしよう。 成功を引き寄せる自己紹介の教科書』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

自己紹介を練習するのは不誠実か

「自己紹介を練習しよう」と言うと、否定的な反応を示す人がいます。そういう人たちは、「自己紹介を練習しても、それは単なる上辺だけのもので、本質をごまかしている。だから自己紹介を練習すべきではない」と主張します。

どういうことかというと、例えばプログラマーの場合、「プログラムを書く能力」と「その能力を人に伝える能力」があるとします。両者は独立していて、前者を"本質"、後者を"上辺"ととらえる人が多いのです。

これは日本の学校教育の影響も大きいと思います。日本の教育では、文部科学省が定めた学習指導要領に沿って、決められた正解をいくつ答えられたかで学力が測られます。正解を積み重ねることが"実力"の証明であり"本質"だと思ってがんばってきた人にとって、自分の"実力"を言葉で表現しようとする自己紹介は、「やるべきことをやれていない人の逃げ道」、上辺だけであり不誠実であるというわけです。

実際、上辺だけの自己紹介に遭遇することも多いので、そのようにとらえられるのも仕方がないのかもしれません。本当に上辺だけの自己紹介なら、練習しないほうがいいでしょう。ハッタリだけうまくなっても、人生がうまくいくとは限らないからです。

 

それらしい夢にしない

大澤研で自己紹介の研修を担当する学生Dさんは、自分の体験談としてこう語っています。情報セキュリティなんて全然興味ないのに、自分に噓をついて自己紹介を考えたら地獄だった。というのも、Dさんは最初、「私は情報セキュリティに興味があります」と自己紹介していました。

ところが、しばらくして気づいたと言います。「情報セキュリティに興味がある」というのは、自己紹介をそれらしく成立させるための噓だった。実際には情報セキュリティに興味なんてなかったのだ、と。

それをきっかけに、Dさんは自分の過去に向き合い始めました。自分はどんな人生を送ってきたのだろうか、と。ふり返ると、小中学生の時は親の転勤で転校が多く、そのたびに新しい環境に飛び込んで馴染んできたそうです。

「新しい場所に飛び込んでいくのが自分は得意なんだ」と気づいたDさんは、それを自己紹介で話すようになり、自分の強みを活かしてRINGSや大澤研でいろんな取り組みに積極的に参加し、成果も上がるようになりました。彼に憧れてさまざまな活動に励む後輩学生もいたりして、大澤研やRINGSで影響力のある存在になっていきました。

自分のことを正直に話すから、自分の強みを活かしながら、つながりたい人とつながって、チャンスが舞い込んできます。そのためには、自分が大切にしている価値観や信念、自分が本当にやりたいことを伝えられているのか、自分の肚落ち感に妥協しないことが大切です。厄介なのは、かつてのDさんのように、本人自身も自分がついた噓に気づいていないことが多いことです。

 

話が抽象的に流れるか、具体的に深まるか

それに、上辺だけの自己紹介は大体、聞けば分かるものです。あるパネルディスカッションに招かれたとき、「あなたの夢は何ですか?」と他のパネラーに尋ねました。1人は地元企業の経営者で、次のようなやりとりでした。

Q.あなたの夢はなんですか?
A.地元に貢献することです。
Q.なぜ貢献したいのですか?
A.それは僕の情熱だからですね。
Q.なぜそこに情熱が湧き上がってくるのですか?
A.それは人生だからですね。

このやり取りを読んで、みなさんはどう感じるでしょうか。質問されるたび、話が抽象的になっていくことに気づくと思います。上辺だけで辻褄を合わせようとすると、話が抽象化に向かいます。質問に対してうまく返すことが目的になっているので、間違いではないところをグルグルと回るだけで、話が一向に深まらないのです。

もう1人、地元の大学生にも同じ質問しました。

Q.あなたの夢はなんですか?
A.地元のPRをやりたいです。
Q.なぜそう思うのですか?
A.過去に◯◯という体験があって、地元のことをもっと知ってもらいたいと思ったからです。
Q.地元のどんなところを知ってもらいたいのですか?
A.私は◯◯というところが大好きで、こういうところを知ってほしいです。

こちらはどうでしょうか。聞けば聞くほど具体的な話や原体験が出てきます。自分にとことん向き合ってきた人は、こうなります。本気で考えている人と、ハッタリで話している人の違いとして、質問に対してより抽象的な言葉で返ってくるか、具体的な言葉で返ってくるか、で見極めることができます。

話が抽象的に流れるか、具体的に深まるかで、その人の自己紹介が上辺だけのものなのか、本質につながったものなのかが分かります。自己紹介を否定的にとらえる人に伝えたいのは、自分の本質から外れた、上辺をよく見せるためだけの自己紹介なら、しないほうがいいでしょうということです。

かといって、本質を究めた人は、自己紹介をしなくていいかというと、そうではありません。その人の本質をみんなが理解してくれるわけではないからです。自分の本質を言語化し、分かりやすく伝える自己紹介なくして、チャンスを引き寄せることはできません。

 

著者紹介

大澤正彦(おおさわ・まさひこ)

日本大学文理学部准教授/次世代社会研究センター(RINGS)センター長

1993 年生まれ。日本大学文理学部准教授/次世代社会研究センター(RINGS)センター長。東京工業大
学附属科学技術高校情報システム分野、慶応義塾大学理工学部情報工学科をいずれも主席で卒業。研
究テーマはHuman-Agent Interaction(HAI)、全脳アーキテクチャなどを通した、人とかかわる汎用人工知能の実現。Forbes JAPAN「日本発『世界を変える30 歳未満』30 人」に選ばれる。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP 新書)がある。夢はドラえもんをつくること。

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