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備蓄だけでは限界が? 専門家が教える「災害時に本当に必要なもの」

佐藤唯行(フェーズフリー協会代表),マミ(CAMMOC)

2024年10月27日 公開

キャンプ好きな3人の女性から成る「CAMMOC(キャンモック)」。防災士の資格をもつキャンプインストラクターとして、"いつも"の暮らしを豊かにするものが"もしも"のときも役立ち支えてくれるという「フェーズフリー」の考え方のもと、目指すは、理想的なライフスタイルと防災の両立。

そのためのアイデアが、新刊『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』にたっぷり収録されています。

キャンモックのマミさんが、フェーズフリーの普及や、フェーズフリーな商品やサービスの企画、認証を行う「フェーズフリー協会」代表、佐藤唯行さんと対談。その様子を全3回の連載でお届けします。本記事は第2回です。

(構成:三浦ゆえ)

 

まずはキャンプや防災のイメージをフリーに

【佐藤】マミさんたち「キャンモック」のみなさんは、キャンプの本格的なスキルや、自然にふれる豊かさを知ったうえで活動されていますが、それをストレートに伝えるのではなく、暮らしに取り入れるという形で提案していますよね。マミさんが子どものころに経験したガールスカウトのような、体育会系キャンプのイメージがない。それは、どうしてですか?

【マミ】それだと広まりにくいと思っているんですよね。キャンモックでは以前、「ママキャンプ」という企画が人気でした。0歳児も歓迎で、赤ちゃんと一緒にヨガをしたり焚き火を囲んだり......。ママたちにリラックスして楽しんでもらうことが目的なので、テントも寝袋もぜんぶ、こちらで用意するんです。

【佐藤】参加者は手ぶらで?

【マミ】はい、身ひとつで来てください、と呼びかけていました。

【佐藤】ああ、いまひとつ腑に落ちました。マミさんたちにとってキャンプやアウトドアはすごく大切で、自分たちの人生を豊かにしてくれるコンテンツだけど、多くの人にとってはそうではない。「なんか、たいへんそう」「虫が出たらイヤだな」「道具もないし」と高いハードルと感じている。つまり、キャンプ好きと、そうでない人は違うフェーズにいるということですよね。

【マミ】まだ楽しさを知らない人たちにとっては、構えてしまうものなのでしょう。カジュアルに楽しめるピクニック感覚のデイキャンプやおしゃれなグランピングスタイルのキャンプもあるのに、サバイバルキャンプを想像してしまう人も多いと思います。

【佐藤】そこで、参加のハードルを下げて、まずは自然のなかにダイブする楽しさを知ってもらう......。これ、私たちが防災で提唱しているフェーズフリーと同じだと思うんです。日常時と非常時、それぞれのフェーズのあいだにある垣根をまたぐアイデア、商品、サービスを発信していますが、キャンモックさんは日常とキャンプ、それぞれのフェーズのあいだにある垣根を越えてもらう活動をしてきた。


▲目的や場所に応じてキャンプスタイルを自在に変えるマミさん。テントのなかも部屋と同じく自分の居心地のよい空間に。

【マミ】私たちは、キャンプすることで身も心も豊かになるし、人間関係も穏やかになっていくと知っているので、それを伝えたいんですよね。それがあったから、キャンプのある暮らしとフェーズフリーの防災も、すぐにつながったのかもしれません。考えてみれば、キャンプと防災のフェーズもフリーでした。たとえばキャンプサイトを作るとき、ロープが緩んでいるところがあればパッと見て確認できるようにするなど、ひと目で見渡せるようにしておかないといけない。

【佐藤】しかも、キャンプサイトって作る場所が毎回変わるわけだしね。

【マミ】はい、仮に同じ場所だとしても、季節によって気温も日の射し方も違います。だから、行くたびに何が最適なんだろうと考えるんです。そうやって、毎回考える訓練をしてきたおかげで、家のなかを災害時に危険な場所がないかひと目でわかるレイアウトにする、と考えられるようになったんだと思います。

【佐藤】非常時のためにわざわざ考えた、というのではないところが、"ながら防災"の強みですね。楽しみながら、暮らしながら、そのなかで自然と生まれた。

 

自分自身が防災力を身につける

【佐藤】ところでマミさんは、「災害時に必要なものは何ですか?」って聞かれたら、なんて答えますか?

【マミ】「命」かな。

【佐藤】そう、命があるから災害時を乗り越えられるんですよね。この質問には、「水でしょ、防寒グッズでしょ、衣類でしょ、懐中電灯でしょ......」と30品ぐらい挙げる人もいると思いますが、それで生活と命を守れるかというと、そんなことはないんです。災害時に必要なのは、命と生活を守るための、ありとあらゆるモノ。

【マミ】それは、人それぞれ違いますね。

【佐藤】はい、私たちは、日常時から非常時に、このままの肉体と、このままの精神で突入します。急に体が強くなったり、急に気持ちがタフになったりするわけではない。そう考えると、普段の暮らしを支えるすべてのモノが、非常時にも必要です。音楽だって娯楽だって、必要。何か特定のモノを備えて終わり、とはならないんです。

【マミ】いまお話をうかがって、「災害時に必要なもの」をひとつ付け加えたくなりました。モノのある・ないに自分で対応する「能力」もあればいいですよね。災害時にも私たちの普段の生活を支えているありとあらゆるモノが必要だけれども、キャンプをしていると、モノがない、という状況を体験します。それも普段の生活のひとつのパターンなら、災害時にすべてのモノがなくても対応できると思うんです。


▲冷蔵庫や電子レンジがない環境で作る「キャンプ飯」のレパートリーは、日常や非常時の料理のアイデアにも。

【佐藤】マミさんたちはキャンプをたくさん経験することでその能力が身につき、あらゆるフェーズがなかったから、それと暮らしを結びつけて提案できるんですね。しかもそれが、生活者としての視点で考えられているから、説得力がある。

日本は災害が多いといわれますが、それでも実際に被災する人は、世の中の数パーセントなんです。被災した経験がなくても、防災を考え、提案していくことができるのは、その生活者としての地に足ついたキャンプ活動があったからでしょうね。

【マミ】そう考えると、家の環境やそこにあるモノをフェーズフリーにしていくというよりは、「私自身がフェーズフリー」って感覚になっていくんですよ。

【佐藤】それはいい考えですね。フェーズフリーのアイテムを使うのもいいですが、フェーズフリーの考え方を自分のなかに取り入れるということですよね。たとえば食料がキャベツしかなくて火も包丁も使えないというときに、キャベツをバリッと割って塩昆布で混ぜたらおいしいおかずになる。これは手抜き料理のようでいて、災害時にも作れるから"フェーズフリー"。

私は、モノを備えるだけの防災では限界があると思っています。「自分自身がフェーズフリー」として生活していくほうが現実的だし、災害時にもいろんなことを乗り切る力が身につきますね。

著者紹介

CAMMOC・マミ(きゃんもっく・まみ)

防災士やキャンプインストラクターの資格を有するママキャンパー。「キャンプのある暮らし」をテーマに地球の未来を創造する会社を運営する。自分に合う暮らしや防災を探求し、キャンプを通して無理なく楽しく続ける防災法を提唱するほか、テレビ・ラジオ出演、執筆やイベント登壇など、幅広く活躍する。著書には『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』(辰巳出版)などがある。

佐藤唯行(さとう・ただゆき)

フェーズフリー協会代表

「災害軽減(防災)工学」を専攻し、防災の専門家として活躍。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、2014年には「フェーズフリー」を提唱。フェーズフリーの推進において根源的な役割を担い、複数団体の代表を務める。著書には『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(翔泳社)がある。

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