すぐに実践! 言いにくいことをうまく伝える「プロの技術」
2012年10月12日 公開 2023年01月05日 更新
(2)同僚が怒り出した
[ケース]
同僚に、仕事のやり方で気になっていることを伝えた。
[伝えたこと]
「お客さんに対して、もう少し、丁寧に話したほうがいいんじゃないの?」
[同僚の反応]
「そんなこと、言われる筋合いはないわよ。それぞれやり方があるし、あのお客さんとは親しいから、こっちのほうがいいのよ」
[対応]
「こんなこと言われたくないっていう気持ちはわかるよ。上から目線でものを言っていると思われたのならゴメン。近くにいるので気になったことを伝えようと思って。あなたは後輩たちに一目置かれている存在だから、後輩たちが安易にそのやり方を真似しないかと思って心配になったの」
同僚の怒りの背景には、プライドの高さが隠れている可能性があります。相手は、仕事のやり方について指摘されたと思わずに、「プライドを傷つけられた」と感じているのかもしれません。
まずは、相手の気持ちに添って、プライドを傷つけようとしたつもりはないというメッセージを伝える必要があります。
上からものを言うつもりではなく、「気になったからちょっと伝えてみた」という態度で接するのがいいでしょう。また、後輩たちから認められている点を伝えるなど、相手のプライドを尊重する言葉も有効です。
そのうえで本人の気づきを促すために、「あなたのことは認めているけれども、それだけに、周囲の人への影響が気になっている」といった点を伝えて、周囲への影響も考えながら仕事をしてもらえるように持っていければ、職場のチームワークもよくなっていくのではないかと思います。
また、普段からの人間関係が良好であれば、相手に対して「少しでも仕事を応援したい」というような態度を示すこともいいと思います。「応援したい気持ちから、これだけは伝えておきたかった」という雰囲気を出していくのです。
ただし、そのような好意的な態度をとっても、怒りがおさまらない同僚もいるかもしれません。そういう人は、何か劣等感のようなものを抱えている可能性もあります。
「もしかしたら、相手の劣等感の部分に触れてしまったのかもしれない」と思って、相手の怒りを聞き流し、かわすことも想定しておくといいでしょう。
(3)部下が逆切れした
[ケース]
部下の仕事のやり方を指導の一環として厳しく注意した。
[伝えたこと]
「社会人として完全におかしい」「もう何年仕事しているのか考えてみろ」「こういうこともやれないのなら仕事はやらせられない」「トラブルになるから電話にも出るな」「まだ未熟だ」「今のやり方じゃダメだ」「おまえは何もわかっていない」という言葉を繰り返した。
[部下の反応]
「そんなにタメだダメだと言わないでください。そんなに感情的にならないでください。上司からそういう態度をとられるなら、こちらも戦います。パワハラをした人として訴えます。あなたのやり方は、部下に能力がないことを認めさせて会社を辞めさせようと追い込んでいます」
[対応]
「部下が上司の言葉をどのように解釈するか、それを上司としては常に考えなければならないと思う。そういう自分の立場を理解したので、一部の言葉については言いすぎたと思うが、今後も必要なときに叱ることは上司としてやらないといけないと思っている」
まずは、ネガティブな感情を十分に表現させてあげてください。ネガティブな感情を表現することは、悪いことではありません。表現して吐き出すことによって、ネガティブな感情は和らいでいくものです。
部下には、上司に言えずに我慢してきた感情があるかもしれませんので、よい械会と考えて、思うぞんぶん感情を吐き出させましょう。
その後は話をよく聞きます。先走らないで、部下のペースに合わせて、1つひとつの言葉を確認するように進めていくと、感情も落ち着いてきます。
この場で我慢をさせてしまうと、後々に急激な行動の変化となって現れてくる場合もありますので、部下が怒り出したとしても、否定的な感情をぶつけられたとしても、部下のつらい気持ちを理解しようと努めていくことが大切です。
【PROFILE】
野原蓉子(日本産業カウンセリングセンター代表取締役理事長、日本産業精神保健学会理事、臨床心理士)
1961年埼玉大学卒業。教職を経て1976年日本産業カウンセリングセンター設立。金融機関、メーカーなど数多くの企業でカウンセリングを行ってきたほか、メンタルヘルスの相談、管理者の対応法相談も数多く受ける。厚生労働省調査研究会委員等の役職も歴任。官公庁・大学等での講演、研修も続けている。
『職場の悩みにどう答える?』(日刊工業新聞社)『変革期の産業カウンセリング』(自由アジア社)『「職場」の処方箋』(光風社出版)『職場ストレス増大時代のメンタルケア読本』(実務教育出版)ほか著書・論文多数。