各局で異なる「ラジオ番組のつくり方」 NHKラジオとニッポン放送の違い
2025年03月14日 公開
年間イベント動員数25万人以上、スポンサー数、過去最高...一時は衰退の危機にあったラジオ番組「オールナイトニッポン」が、なぜいま"静かな熱狂"を呼んでいるのか? オールナイトニッポン統括プロデューサーである冨山雄一氏が、V字回復に至るまでの20年間を紐解いた書籍『今、ラジオ全盛期。』より、ラジオ制作現場の裏側について明かす。
※本稿は、冨山雄一著『今、ラジオ全盛期。』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
NHKラジオとニッポン放送の「ラジオのつくり方」
僕はニッポン放送に転職する前のNHKにいた時代から、ラジオを作る仕事に携わっていました。
2004年4月にNHKに入局して、配属された部署が渋谷にあるラジオセンターというAMラジオの「NHKラジオ第1」を作る部署でした。この部署でラジオの報道番組を1年、ラジオのバラエティー番組を1年の計2年ほど、ディレクター業務とAD(アシスタントディレクター)業務を半々担当した後、新潟放送局に転勤し、テレビディレクターとして業務にあたることになりました。
テレビの仕事をするうちに10代の頃から親しんできた「オールナイトニッポン」にどうしても関わりたい、やはりラジオの仕事がしたいという気持ちが膨らんで転職に至ったというわけです。
初めてラジオの現場に入ったときは、新鮮な驚きがありました。リスナーとしてラジオ番組を聴いていた経験はありましたが、実際にNHKラジオとニッポン放送でラジオの制作現場に入ってみると、想像していた世界とは違う世界が広がっていたからです。
リスナーとして楽しんでいるときには、ラジオのスタッフは「番組に立ち会って、楽しく笑っているだけ」という印象でしたが、実際の生放送の現場は常に脳みそも体もフル回転で動き続ける、想像以上に緊張感のある世界でした。
また、同じラジオでもNHKラジオとニッポン放送では、作り方のスタイルがまるで違いました。
NHKラジオのやり方は「じっくり作る」。
たとえば、NHKラジオの2年目で担当した「土曜の夜はケータイ短歌」という土曜日の夜に放送する1時間の番組は、デスクの先輩と同僚の女性ディレクターとの3人で作っていました。放送作家さんはいないので、自分たちで台本を書いて、全国から届く短歌の下読みや雑用など、とにかく3人でやるのです。3人のパワーで週に1本、1時間の番組をなんとか作り上げていました。
対して、ニッポン放送のやり方は、「とにかく作る」。転職して最初にびっくりしたのが担当する番組の"数"でした。
1年目で夜の時間帯を担当していた頃の担当番組をざっと並べてみると、「東貴博のヤンピース」(火曜日・水曜日の生放送AD)、「ミューコミ」(月曜日・木曜日の生放送AD)、「オールナイトニッポン有楽町音楽室(金曜日の生放送ディレクター)、「ポルノグラフィティ岡野昭仁のオールナイトニッポン」(土曜日の生放送ディレクター)、「KAT-TUNスタイル」(月〜金10分の録音番組のディレクター)、「ラジオドラマBitterSweetCafe」(月〜木の週替わりのラジオドラマのAD)。
週6日生放送があり、帯のベルト(同時間帯で連日放送すること)の録音番組が2つあり、これに加えて特番も入ってくるという状況でした。並べるだけで、目が回りそうです。なぜ物理的にこの番組数がこなせるかといえば、制作のスタイルが「完全分業制」になっているからです。
「常に当事者でいろ」先人の教え
テレビ業界と同様に、ラジオ業界の現場も、最初はADからスタートします。テレビのADが激務ということはよく知られていますが、ラジオ現場のADもやはり激務ではありました。しかし、それと同時にディレクターになるための学びが数多くありました。
2007年2月にニッポン放送に転職した僕は、入社後の研修を終えてすぐにAD業務に入りました。まず驚いたのが、とにかく関わる人数の多さでした。同時に実感したのが「コミュニケーションの重要性」です。
テレビと比べて少人数で作るイメージが世間一般にも広がっているラジオですが、月〜金の午前帯のワイド番組などになると、ディレクターや作家さんは日替わりでいるので、チーフディレクター1人、ディレクター4人、AD5人、メイン作家5人、サブ作家5人、ミキサー5人などの大所帯になったりします。
となれば、全員の名前を覚える、それぞれの生放送の感覚や仕事のスタイルを覚えることが必須となり、自然とコミュニケーションをより重視するようになりました。
生放送での中途半端な仕事は放送事故のもと。「CDをセットした」「録音素材をセットした」などの声出しは、誰が聞いてもわかるようにハッキリとやっていました。
当時のディレクターから教わったことはたくさんありますが、中でも心に残っているのは、「どの立場からでも、どうやったら番組が面白くなるかを考えて追求するのがラジオ。究極のサービス業だ」という言葉です。
パーソナリティやリスナーがどうしたら喜んでくれるか、楽しんでもらえるか、盛り上がってもらえるかを、自分が置かれた立場から常に考え続けろと。
まだ勉強中のADという立場であったとしても、自分が用意したBGMや効果音で番組が今まで以上に盛り上がるかもしれないし、ディレクターや作家さんが見落としているトピックスで番組が盛り上がるかもしれない。「常に当事者でいろ」という教えは、僕の指針のひとつとなりました。
同じ「AD」という立場でも、ディレクターから指示されたことを黙々とこなす作業屋になるのか、番組を少しでも面白くしようと仕掛けるマインドを持つ制作者でいるのか。
この意識の違いだけで、番組へのかかわり方、番組の理解度が大きく変わるのだというアドバイスには、番組全体を総括する立場となった今、あらためて深く共感できます。